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#61 腕なし幽霊とGHの死神

 GHの副局長、橘麻里香はある森の中を歩いていた。

 十歩。また十歩。少し歩いては、スマートフォンの画面に目を向け確認をする。GPSの反応はこの辺りにある。美玲に渡したお守りに、こっそりと仕込んでいたGPSの反応が。

 GHの行方不明が多発した頃、麻里香はGH局員全員にGPSを仕込んだお守りを渡していた。万が一、局員が行方をくらませた際に、どこにいるかわかるように。

 麻里香はGPSが反応している場所の真上に立ち止まった。しかし、美玲の姿は見当たらない。

 森の中だからGPSの位置情報がずれてしまっている可能性もゼロではない。しかし、周辺をいくら探しても彼女の姿はなかった。であれば、地中か? 最悪の考えが麻里香の頭をよぎる。

 お守りだけが彼女から引き剥がれれて地面に埋められたならばまだ良い。だが、もし、彼女自身がすでに殺害されて埋められてしまっていたとしたら。

 位置情報を頼りに掘り起こすか? いや、一人では限界がある。固い土を掘るような道具も今手元にはない。一度本部に戻って体制を整えるべきか? しかし、今本部では局員たちがAsterを迎え撃っているはずだ……

 

「何をしているの?」


 麻里香が考えを巡らせていると突然後ろから幼い女の声がした。麻里香が振り向くと、そこには腕のない幼女の幽霊が居た。黒いレースの服を着た髪の長い幽霊。ポルターガイストの館で報告のあった幽霊の容姿に酷似している。

 

「神器発動」


 麻里香は彼女の姿を確認すると、すぐに大鎌の神器を顕現させた。決して動揺することはなく、鋭い目で幼女のことを睨みつける。


「貴様、背が高くて黒髪の長い、女のGHを知らないか?」


「その服……GH!」


 レース服の幼女——ポルコは麻里香に向かって肩を突き出した。すると地ならしを起こしながら、周りの大きな木々が七本、地面からぶっこ抜かれていく。


「私がここを任されているから……。私がここを守ってみせる!」

 

 少し怯えながらも、ポルコは真っ直ぐに麻里香の目を見つめ返した。木々の先が麻里香に向けられる。


「そうか……答える気はないか。ならば、すぐに除霊してやる」



 ポルコは宙に浮き上がらせた木のうちの一本を、麻里香に向かって飛ばした。

 麻里香はそれを右に躱すと、木の幹の下部に大鎌の刃を当てて上方向に薙いだ。木は真っ二つに切られ、葉の擦れる音を立てながら地面に落ちていく。どうやら、花蓮からの報告通り、神器で攻撃を与えると一時的にポルターガイストの力は失われるようだ。


「くっ」


 ポルコは歯を食いしばりながら今度は二本の木を、左右から麻里香に向かって飛ばした。麻里香は斜め上方向から飛んでくる木を、後ろに大きく飛び跳ねて躱そうとする。それを追尾するように二本の木は進行方向を変えていく。

 しかし、麻里香は着地した瞬間に力一杯踏ん張ると、今度は大きく前方向に飛び出した。麻里香の体は二本の木々の間に入り、そのまま大鎌をまるで新体操のバトンのようにくるりと回してみせた。二本の木は切られて、そして地面に落ちていく。

 

「ふん、造作もない」


 麻里香はそのままポルコに向かって走った。ポルコは残りの木々を麻里香に向かって次々に飛ばしていく。だが、それらの攻撃を麻里香によっていとも簡単に切り落としていった。

 ポルコにとって、大きな鎌を軽々しく振るいながら向かってくる麻里香の様はまるで死神のよう。このままでは魂を一瞬にして刈り取られてしまう。


 麻里香はあっという間にポルコの元へと辿り着き、その大鎌の刃を彼女の首元にかけた。


「もう一度聞く、白いトレンチコートを着た、背の高くて髪の長い女だ。知っているんじゃないのか? 言えば見逃すことも考えてやる」


 麻里香の質問を聞いて、ポルコは真顔のまま彼女のことを見上げる。


「絶対に教えてやるもんか」


 ポルコはそう言って、左目を瞑りながらベロを出してみせた。


「そうか。ならば、消えろ」


 麻里香がポルコの首を刈り取ろうとしたその瞬間、後ろからポルコが操る一本の木が迫っていることに気がつき、それに向かって鎌を薙いだ。その隙にポルコは麻里香から距離を取ると、目を瞑って大きく深呼吸をする。

 ポルコが思い起こすのは、いじめられて、真っ暗な部屋に閉じ込められて、そして怒りのままに辺りを真っ赤な臓物で染め上げていた日々。ずっと苦しかった。逃げたしたかった。そんな時、彼が来てくれた。


 もう、何かに縛られることも、制限されることもない。だって私は——


「だって私は自由だから。ゼロが私を連れ出してくれたから!」


 ポルコはキリッとした表情で目を見開いた。彼女の周りに無数の小石が集まり、それは幼女の体には見合わない、大きな右腕の形になっていく。

 その姿を見た麻里香は、彼女のことを睨みつけた。


「即席の義手って訳か。けれど、神器で攻撃すれば力を失うんだろう? そんな腕、なんの意味もない」


「意味は私が持たせる。彼がそうしてくれたように」


 ポルコは大きな拳を振りかぶりながら、麻里香に向かって猛進した。

 しかし、麻里香は拳が触れる寸前に大鎌を縦に振り払い、拳の形を成していた小石はちりじりになって辺りに飛び散った。


「呆気なかったな……」


 麻里香はそう呟いて大鎌をポルコに向けた。

 だが麻里香は、ここである違和感を持つ。どうして小石が宙に舞い続けているのかと。神器に触れた瞬間、物体はポルターガイストの力を失うはず。


「まさか……貴様!」


 麻里香の睨み顔を見て、ポルコはニヤリと笑う。

 ポルコは、麻里香が薙いだ大鎌が拳に当たる直前に意図的に小石を飛び散らせていた。小石に神器である大鎌の刃は当たっていない。つまり、小石はポルターガイストの力を失っていない。


「くらえ、石飛礫攻撃」


 無数の小石が、麻里香のことを襲った。麻里香は大鎌を回転させながら小石の攻撃を弾いて最小限に防ごうと努める。それでも、全てを捌き切れる訳もなく、顔や手、コートに傷がついていく。

 ポルコは力を使いすぎて、すでに息を切らすような動作をしていた。それでも、力を振り絞り、石飛礫を麻里香に飛ばし続けた。


「こんな攻撃……!!」


 麻里香は唇を噛むと、無理やりポルコに向かって突っ込んできた。

 大鎌を横に薙ぎ払い、それは咄嗟に逃げようとしたポルコの右足首を絡め取った。ポルコの右足は切り飛ばされ、「ああああああああああああああああああああ!」という悲痛な叫びが響き渡る。

 宙を舞っていた小石は力を失い、全て地面に転げ落ちていった。


「言っただろう? 無意味だと」


 地面を這うポルコに、麻里香は大鎌を構えながらゆっくりと歩み寄って、そして見下ろした。


「意味はあったよ。……ちゃんと時間は稼いだからね。ゼロ」


「なに?」


 弱々しいポルコの言葉に麻里香が顔顰めると、あたりの木々がざわめき出した。

 次の瞬間、突然現れた三本足の大きなカラスが麻里香に襲いかかった。

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