木村涼太
小さい頃、家には誰も居なかった。
母さんは俺を産んだ後暫くして亡くなり、父さんは俺を見たくないのか仕事ばかりしているらしい。
一応家政婦を雇い俺の世話をやらせていたが如何せん雇い主の父さんは年に数回しか家に帰ってこない。しかも俺に興味など微塵もない。そんな状態では家政婦が仕事をサボりだすのも仕方がないと今なら言える。
俺が泣きわめいたりしない子供だったから暴力は振るわれなかったが掃除や洗濯がとても雑に行われていた。料理も基本はカップ麺かコンビニ弁当。
定時前に帰るなど毎度の事。酷い時は何個か菓子パンを置いて家にさえ来なかった。
何度かそれが続き俺はぶっ倒れた。
次に気がついた時は病院のベットで点滴を射たれていた。
まだ意識がぼぉっとする俺に抱きついて離れない子供がいた。子供の名前は白井悠一。同じ歳で幼馴染みの彼。どうやら俺は悠一に倒れているのを発見されたらしい。悠一の母親が教えてくれた。
悠一は俺に抱きつきながら号泣していた。
ずっと「ごめんなさい」と泣き続ける。
この時悠一が何に対して謝っているのか俺には分からなかった。
そんな悠一を慰めながら医者の説明を聞いた。
医者曰く栄養不足と不衛生な環境におけるアレルギー反応との事。暫く入院が言い渡された。
それから暇さえあれば悠一は病室に遊びに来る様になった。
ほぼ毎日来てはいろんな話をしたり遊んだり平和な幸せ時間を過ごしていた。
一緒にいる間、悠一はずっと俺の手を握りしめていた。離そうとすると何故か泣き出しそうな顔をする。
疑問に感じて聞いてみた。
すると悠一は泣くのを必死に堪えながら。
「手を離したら涼太はどっかに行っちゃうから。」
俺は悠一が言った言葉が理解できなかった。
悠一はまたあの日みたいに「ごめんなさい」を繰り返しながら泣き出した。
俺はなんとか悠一を泣き止ましたくて片手で手を握り片手で悠一を抱き締めながら「大丈夫」だの「何処にも行かない」だの言い聞かせ続けた。
夕方、泣き疲れ眠った悠一を見て理解したのか悠一の母親が帰る前に教えてくれた。
あの日、悠一は暫く会えていなかった俺にどうにか会おうと家先に侵入。昼間なのに物音ひとつしない家に疑問を感じて窓越しに薄暗い室内を覗き込んだ。その先に顔を真っ青にしピクリとも動かない俺を見つけ窓を石で割りながら母親を呼び病院に緊急搬送。
その間、悠一はずっと「気づかなくてごめんなさい」と「死なないで」「何処にも行かないで」と泣いて俺から離れなかったらしい。
次の日も悠一は病室に来た。
昨日の出来事などなかったみたいに笑う悠一に約束を持ちかけた。
「俺は何処にも行かないから....」
「 」
俺の言葉に悠一は嬉しそうに頷いた。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
夢を見ていた。
懐かしい昔の大切な約束の夢。
あの日、あの瞬間、俺の全ては決まった。
「...あの時、あいつは意味も分からず頷いたのかな。」
夕日が射し込む教室。自分以外誰も居ない教室は静かで心地いい。いつもの特等席でいつの間にか眠っていた。
体を起こし背筋を伸ばすとパキパキと背骨が鳴る。
凝った体を程よく伸ばしながら帰り支度を始めると教室の扉が開き1人の女子が入ってきた。
なんとなく見覚えのある女子だ。多分同じクラスメイトだった気もする。日頃から最低限の人間としか関わらないので自信をもてない。
女子は開けた扉の前から動かず此方を見つめてくる。
用事があるなら早くしてほしい。
此方だっていつまでも暇ではないのだから。
そんな考えが顔に出たのか女子は此方を睨み付け。
「木村君は悠一君のなんなの?」
「親友だけど。」
「ふざけないでっ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ女子の声はすごく耳障りだ。
しかも聞いてきて答えたらふざけるなとは一体何様なのだろうか。
「君が何に腹をたてたのか俺には分からないんだけど。君はなんなわけ?」
俺の言葉に対して女子は更に顔を赤くして近付いてくる。お互いに手が届く距離まで詰め寄ると勢いよく顔を叩かれた。
女子の力などたかが知れているのでそんなに痛くない。
「悠一君の事いつも汚い目で見て嫌がる悠一君を押さえ込みながら体を触って!!気持ち悪いのよ!!男同士が持つ感情じゃないわ!!!」
「......。」
なるほど。そう言う事か。
女子は俺が黙ったのは図星だからだと勘違いしたのか俺に対する罵倒や如何に自分が正しいのかをヒステリックに叫びだす。
女子特有の高い声は静かな教室で不協和音を奏でる。
その耳障りな声を、捻り潰したくなる。
女子の右手首を適度な力で握りしめる。
女子の声を聞きたくないから口を塞ぐ。
ただそれだけで女子の顔が赤から青に変わる。
カタカタと震える振動が手先から伝わってきてそれすら不愉快に感じる。
「君は何様なの?自分が絶対に正しい神様だとでも言うの?悠一を汚い目で見てる?汚い目で悠一を汚してるのは君だろう。ずっとずっと悠一を見てるよね?愛?恋?憧れ?バカじゃねぇの?そんな一時的な感情で悠一を見て話しかけて近付いて。お前等みたいな奴等が一番汚ねぇんだよ。所詮お前も悠一とただ寝たいだけなんだろう?顔が良ければ誰にでも媚売って股開いて既成事実作って。ヒステリックに叫びあげるしか脳のない薄汚れたモノなんだよ。お前は。」
思った事を言い終わって気づいた。
少し言葉が乱暴だった。悠一にバレたら口が悪いと小言をくらいそうだ。
手を離すと女子は崩れ落ちる。カタカタと震えながら泣く姿はとても無様で滑稽だ。
この程度で俺に噛みつこうなんてな。
俺は鞄を持ち嘲笑いながら女子の横を通り抜け下駄箱に向かう。
あの女子のせいで両手が気持ち悪い。
あんなモノ掴まなければよかった。
見えない汚れがへばり付いている感覚に眉をひそめる。
「私、悠一君の事がずっと好きだったの!!」
静かな廊下に微かに響く不快音。
廊下には自分以外誰も見当たらない。キョロキョロしながら歩き進むと2階と1階の間。階段のおどりばに悠一と知らない女子が向かい合っていた。
夕日が照らす放課後の学校。夢見る女子が告白するには最高の舞台だろう。
女子は自分がいかに悠一を好きなのかを必死に熱弁している。しかし熱弁されている側、悠一は血の気の引いた白い顔で下を向いたまま動かない。
「だからね、」
「...君は俺のどこが好きなの?」
「 えっ?」
先程まで黙ったままだった悠一の突然の問いに一時女子は固まったが何を思ったのかとても嬉しそうに。
「悠一君の事なら全部好きだよ!!特に優しいところとか大好きなの!!」
赤い顔を両手で隠す動作をしながらもじもじする女子。期待するかの様な眼差しをして悠一を上目使いで見つめる。
そんな女子に柔らかい笑みを浮かべる悠一。
でも...。
「じゃあ君は俺が優しくなきゃ好きにならないの?優しい奴が好きなら優しい奴他にもいっぱいいるよ?て言うか俺、君に優しくした事無いよね?話した事も無いし。なのに俺のナニを知ってるわけ?勘違いや思い込みって人に多大な迷惑をかける行為だからやめてほしいかな。しかも君、俺の全部が好きとかあり得ないよね?だってもし俺が犯罪を犯して気が狂って発狂したり薬や殺人に手を染めて優しくない俺になっても君は俺を好きでいられる?無理だよね?だって君は俺の《外側》が好きで欲しいだけの人間だろう?どんな俺でも当たり前に受け入れて側にいて手を繋いで抱き締めて熱を分け合う。優先なんて無くどんな時でもどんな状態でもいつでも隣にいる。君には無理だよね。だって君の1番は君自身で俺じゃあない。君じゃあ役不足だよ。」
「..ゆ..う.いちくん?」
早口に紡ぎ出される言葉の意味が理解しきれない。
でも女子は自分の中の理想像が現実の彼の言葉により叩き潰され砕かれ崩壊させられたのを絶望的なほど強く感じた。
「で、でも分からないよ?私だって...。」
それでもなけなしのプライドですがりつく。
悠一の表情は先程から変わっていない。
いつもの様に柔らかく笑ったまま。
「昔、約束したんだよ。」
1歩、踏み出す。
「彼は馬鹿で無力な俺から離れない。置いていかない。ずっと一緒にいてくれる。」
もう1歩。
「そんな約束を彼はずっと守ってくれてる。」
最後の1歩。
悠一は優しく女子の肩に手を添える。
先程までの空気が嘘みたいに穏やかな雰囲気。
女子もその雰囲気を感じとり知らない内に力の入っていた肩から力を抜く。
「だから。」
肩の微かな衝撃に気が付いた時には階段から足が離れていた。
目の前の顔は柔らかく笑っている。
「俺も約束守らないとね?」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
『俺は何処にも行かないから、悠一も俺の手離さないで俺を1人にしないで、一緒にいて...。』
彼を自分に縛りつける為の約束。
すがらせすがりつくためだけの幼い約束。
最初は純粋だった約束が今では呪いの様に2人を歪め繋ぐ。
後悔はしていない。
それで2人一緒に居られるのなら後悔など無い。
手を繋ぎ家に帰る。
赤く色付いた手を握りあい幸せそうに2人は笑う。
親友end《赤い手を繋いで。》
生存ルートです。
依存性ヤンデレ症候群ですwお互いがお互いに依存してます。先に病んだのは悠一でそれに付き添うように涼太もナチュラルに病んで現在の状態に。
お互い相手が大事すぎて害になる奴は速攻殺っちまいます。おかげ様で両手はいつでも真っ赤っかです。
このルートでは涼太と千葉先生が繋がっていて殺った後の死体は先生が処理したり(弟に似てたら)食べたりしてる裏話が存在します。涼太的には悠一を食べさせない用の生け贄献上&死体処理が出来るので一石二鳥状態。
ちなみに悠一と涼太は恋人ではないです。お互いドロドロヤンデレ依存はしてるけど間にラブはないです。強いて言えば幼子が大事な子に執着して離さないみたいな感情が歪んで病んだ結果みたいな。