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毒ヲ喰らわバ、みどりマデ〜花吐く魔女ハ旦那様ヲ逃さナい〜  作者: はるてん(次作執筆中)
第3章 毒《あい》は根をはる

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19話 反りかえる馬銭《まちん》(後編)


牽機薬(けんきやく)?」

「私の故郷で遥か昔に処刑にも使われていた猛毒ですわ。呑むと背中の筋肉がひきつって、体が弓のように反ります。筋肉は収縮と弛緩を繰り返すので、呑んだものは何度も体を折り曲げ、のたうちながら死ぬのです。まるで機織り機のように」


 緑が語る毒のむごたらしさに部屋の中の全員が顔を青くした。ノアは恐る恐る訊ねる。


「呑んだことが、あるのか?」

「いえ、さすがに。知識として知っているだけですわ」


 緑の返答にノアはほっと息を吐く。なぜか、そんな毒は呑んでいて欲しくはなかった。

 同時に、緑の故郷のことを考える。これまで聞いたことは来なかったが、緑はかなり遠方の出身のように思われた。時折口にする異国後も、複数の言語を耳にしてきたノアの知らない言葉だ。


 ――二人の時に聞けば、話してくれるだろうか。


「その毒はこの国でも手に入るのか」

「どう、でしょう……元になる植物を、こちらでは見たことがないかもしれませんね。外から持ち込まれた可能性も、あるかもしれませんわ」


 私と同じで、と呟いた緑の言葉は誰にも聞こえなかった。

 考え込む緑に、政務官の一人が訊ねた。


「その毒は、遅効性なのでしょうか?」

「……いいえ。即効性ですわ。女性なら、一口の量で充分だと思いますけれど」


 緑の返答に、政務官たちは黙り込んだ。ノアも、苦い顔をしていた。


「婦人たちは皆同じ状態で死んでいた。だが、帰宅時になにも持ち帰っていないことが確認されている。晩餐も各自の家でそれぞれ別にとっている。そのため、遅効性の毒が茶会で盛られたかと考えていたんだが……」

「そんなに時間はかかりませんわ。蝋燭半分ほどの時間で、死に至るはずです」

「では、違うのでは」

「この症状がでる、違う毒はないのですが?」


 政務官たちの問いかけに、緑は考え込んだ。


「そう、ですわね……同じ症状が出る毒もありますが、死ぬまでの時間が長めなだけで、効果はすぐにでます。似た症状がでる病もありますが、そちらは発症まで日数がかかりますし、死亡時期を揃えることなんてできないと思います」

「そうでございますか……」


 政務官たちもノアも、残念そうに顔を曇らせた。

 諦めムードが漂い始める男性陣に緑は不思議そうに首を傾げる。


「毒なんて、後から届ければいいではないですか。そんなに毒を持ち帰ることが大事なんですの?」


 緑の純粋な問いに、ノアははっと顔を上げた。


「被害者は、夕食の後、月見をしていたと言っていたな……」

「発見現場の窓が開いていたという報告もありました!」


 ノアの声に呼応して、ばたばたと政務官たちが情報を見直し始める。慌ただしく動く政務官たちとは反対に、ノアは考え込んでいた。


 ――どこかで、似たような報告を見た。


 夜、窓、薬。

 そう遠くはない記憶を辿り、たどり着く。


「ゴールド侯爵令嬢だ」


 突然、それまで無関係だった家の名前が出てきて、政務官たちは戸惑い、顔を見合わせる。


「ゴールド侯爵家、ですか?」

「殿下の元、婚約者でしたね」

「先日、家は取り潰しになりましたが……」

「違う! 令嬢の取り調べ記録だ! 似た話が合った! 取り調べ記録を持ってこい!」 


 政務官の一人が執務室を飛び出した。しばらく経って彼が持ってきたのは、一冊の取り調べ記録。


「ゴールド元侯爵令嬢の取り調べ記録です!」


 ノアはそれを奪うように取り上げ、机の上に広げる。


「薬の入手経路で似た話をしていた……ここだ」


 ――薬は、前の日の夜、家に届けられたものです。どこの行商人かは、わかりません。気づいたら、自室の窓が開いていて、そこに置いてありました。メモが、ついていて……願いが叶う薬だと。今思えば、なぜそんな出所もわからないものを、殿下に食べさせようとしたのか……わかりません。あの時は、その紙の指示に従うのが一番良い気がしたのです。本当に、私は、愚かなことをしてしまった。


 令嬢の記録を指でなぞりながらノアは眉を寄せる。まだ、治りきっていないことを主張するように、心が痛んだ。


「ゴールド元侯爵令嬢の元には、夜、窓辺に薬が届けられていた」

「昨日死んだご婦人たちも、皆、窓が開いていたようです!」


 ようやく、一本の線が見えたような気がした。


「夜に動く行商人か……きな臭いな」

「第二王妃の元に出入りする行商人を、洗いなおしてみましょうか」


 政務官の言葉にノアは深く頷く。


「そうしてくれ。特に、国外の行商人は注意しろ。リュー、この毒は、稀少性がある。そうだな?」


 突然話しかけられて、椅子で半分眠りかけていた緑は顔を上げた。


牽機薬(けんきやく)ですか? そうですわね。こちらでは珍しいものになるかと」


 緑の返答にノアは満足げに頷く。


 ――それならいつか結びつけることができる。今は未解決事件として保存し、絶対にあの妖婦の尻尾を掴んで見せる。




 そのノアの計画は、その日のうちに瓦解する。




「犯人が捕まった!?」


 駆け込んできた政務官の速報にノアは叫んだ。あり得ない、と呟く。


「浮浪者が、被害者の家紋の入った宝石をいくつか換金しようとして捕まったそうです」

「あれが強盗だったとでも言うのか?!」

「騎士団は、そのように処理するよう動いている、と」


 ノアは奥歯を噛みしめた。隣で緑が首を傾げる。


「その犯人は恐らく偽物ですわよね? 偽物の犯人が捕まると、どうなるんですの?」

「……この事件の調査権限がなくなる。この件で第二王妃を問いただすことが出来なくなる」


 苛立ち任せに、ノアは机を叩いた。


「せめてその浮浪者の尋問権をとれ!」


 ノアは素早く指示を出したが、それも叶うことはなかった。

 捕らえられた浮浪者は、牢屋の中で被害者たちと全く同じ体勢で死んでいた。




 ***




 今日の旦那様は、とても苛ついている。

 私は寝室の飲み水を毒見した後、窓の外を睨んでいる旦那様を盗み見た。

 綺麗な顔が、また歪んでいる。お食事の時も、今日はずっとその顔だった。


 ――私が、お茶会での偵察を完遂できていれば、こうはならなかったのかしら。


 少しずつ感覚の戻ってきた左手をさする。視線など気にせずに、旦那様の命を優先すればよかった、と思っていたら、旦那様が近づいてきた。


「毒見はまだか?」

「あ、終わっておりますわ。問題ありません」

「そうか。ご苦労だった」


 旦那様はそっけなく答えて私に道を開けた。扉までまっすぐ、道が開く。


 ――さっさと部屋に帰れ、ということかしら。


 今日はまたキスをもらっていない。でも、ねだれる雰囲気でもない。

 迷っていると、旦那様が目の前に立っていた。


「……今、俺は機嫌が悪い」

「そう、ですわね?」


 旦那様の言葉の意図がわからずに戸惑っていると、旦那様の手が私の顔に伸びて来た。指先が顎をなぞって、唇に触れる。


「するなら、酷くするぞ」


 旦那様の目は据わっていた。

 少し驚いたけれど、私は微笑みを返した。


「旦那様の怒りを受け止めるのも、妻の役目ですわ」


 優しく語り掛けると、旦那様の目が少し和らいだ。

 目を閉じて待っていたら、捕食のように唇が重なった。二度、三度ついばめられたところで、押し倒される。ふかふかの寝台に、体が埋もれた。


 ――ああ、すぐそこに、騎士様がいらっしゃいますのに。


 そんなことを思いながら、一方的に与えられる愛を全て飲み込んだ。




 ***




 蝋燭だけが灯る暗い部屋で、報告を聞いた第二王妃は上機嫌だった。


「そう。よかった。これで全部、綺麗になりましたね」


 小さく笑って、彼女は呟く。これで、余計な情報は消えた。

 少し邪魔な人間をゆるやかに始末しようとしただけなのに、下賜品を分け与える者がいたのは彼女の想定外だった。貴族中に広まった時にはどうしたものかと少しだけ悩んでいたから、これでやっとすっきり眠れる。


 ――いえ、まだ。煩わしい人間は残っている。


「残る邪魔者は、一人だけ、ね」


 紫の瞳が揺れる炎を冷たく見つめていた。

次回、緑の過去に迫ります。

→変更して、いちゃらぶ回挟みます!

7月15日(水)21時頃更新。


ブクマや↓の★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。よろしくお願いします。

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