表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒ヲ喰らわバ、みどりマデ〜花吐く魔女ハ旦那様ヲ逃さナい〜  作者: はるてん(次作執筆中)
第3章 毒《あい》は根をはる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/30

18話 反りかえる馬銭《まちん》(前編)


 月夜が差しこむ部屋で、私はそわそわしていた。時折、窓の外から広い庭を眺める。私の屋敷は王都の一等地に建っているが、この時間に近づく人間はいない。

 落ち着きなく部屋の中をうろついては、開けたままにしてある窓の様子をちらちら伺う。


 ――今日の第二王妃のお茶会は、本当は出席するのがすごく怖かった。


 王妃様から頂いた薬を勝手に妹に分けてしまったこと、夫に薬を取り上げられてしまったこと、絶対に怒られると思っていた。

 でも、今日のお茶会の話題は、結局序盤だけいた黒髪の女が全て持って行った。第一王妃の屋敷に仕える使用人が、汚い手を使って第二王妃様に近づこうとしているそうだ。相変わらず、第一王妃様は使用人の教育が甘い。


 第二王妃様から直接お声を掛けられた時は戦々恐々としたが、待っていたのは説教ではなく、特別な話だった。しかも新しい薬をくれるという。

 懐の深い王妃様に感謝をしながら、私は指示通りに家で一番月がよく見える部屋の窓を開けて待っていた。夫には、月見だと言ってごまかした。帰宅時に手荷物を詳しく調べられたから、後で薬を届けるという王妃様の作戦は正解だった。


 ――夜に窓を開けておくなんて少し物騒だけれど、王妃様の指示なら仕方がないわよね。


 それにしても、行商人はどうやって来るのかしら。と首を傾げた時。

 かた、と窓から音がした。


 はっとしてあけ放った窓を見ると、窓辺に一つ、透明なガラス小瓶が置かれていた。

 シンプルな飾りのない小瓶だった。第二王妃様が愛用している細かい細工があしらわれたものではない。


 慌てて窓から外を見たが、月明かりの下には誰もいなかった。挨拶もしない行商人に少し不満を抱きながら、私は小瓶を手に取る。中に入っている薬は、ほんの一口分だけだった。


 ――今度は取り上げられないようにするのよ?


 王妃様の声が蘇る。

 この温情を逃せば、次はない気がした。美白水は妹にせがまれて半分渡してしまったけれど、これは分け合う量もない。


 ――今夜、月の光を浴びながら飲めば、きっと。


 王妃様の言葉を思い出す。今夜は満月。これ以上ないタイミングだった。


 残った半分の薬を大事に使っていた私と違って、妹はあちこちから入手した薬を多用していた。

 間違いなく、彼女の肌は綺麗になっていた。年齢の差もあって、もう隣には並べないほど美しさに差が出来てしまっている。


 ――私だって、もっと綺麗になりたい。


 そっと蓋を開ける。その薬は、特に匂いはしなかった。覚悟を決めて、中の薬を一気に飲み干す。


 あまりの苦さにむせた。美白水はこんな味しなかった。

 咳き込んでいると、足がふらついた。立っていられなくて、近くの椅子に座ろうとしたが伸ばした手は空を掴んだ。テーブルの上の調度品をなぎ倒して、倒れこむ。

 何かが落ちて割れた。なにが落ちたのか、見ることは出来なかった。


 ――息が、できない。


 まるで口になにかが覆われているようだった。でも、手でもがいても、なにもない。

 苦しいのに、体が、どんどん反って行く。


 ――わた、し。


 意識は、そこで途絶える。




 翌朝。国内で七人の女の変死体が発見された。





 貴族の変死体が複数発見された、という情報は瞬く間に国内を駆け巡った。

 早朝、従者にたたき起こされたノアは朝食も放り出してクレスと共に執務室に駆け込む。


「第二王妃の動向は?」

「特になにも報告されておりません!」

「昨日の茶会絡みなのは間違いないだろう!」


 慌ただしく政務官が動き回る中、苛立つノアの前に、一人の男が真っ青な顔で跪いていた。


「昨日、第二王妃様と会話はあったようですが、特に何も持ち帰っては来なかったのです。本当です。鞄も、馬車の中も、着替えた後だって確認しました!」


 彼は被害者の夫の一人だった。

 今朝発見された変死体は、全てあの薬の濃さで事前に目を付けていた七つの家の婦人だった。その中で一番地位が低く、最近の業績が思わしくない家の当主を、ノアは取り込んでいた。


「家の警備は?」

「もちろん厳重に! 昨夜、塀を越えた者は一人もいないと報告を受けております!」


 必死に言葉を紡ぐ男は、嘘を言っているようには見えなかった。


 ――リューが途中で席を離れたというのが痛いな。


 緑の毒探知能力で第二王妃の動きを封じるはずだったが、会場から連れ出されてしまっては何もできない。

 昨日の茶会に、濃い毒を持っていた七人の婦人も招かれていることは事前に調べがついていた。なにかが起こるだろうと予想し、第二王妃の尻尾を掴むため、あえて泳がせたが完全に出し抜かれた。

 過ぎたことを言っても仕方ない、とノアは気持ちを切り替える。今必要なのは、正しい情報だった。


「遅効性の毒が使われたかもしれないな……情報を整理する。婦人が帰ってきてからのことを詳しく話せ。隠し事はするなよ」

「もちろんです!」




「あら、みなさまお忙しそうなこと」


 王宮での朝食を終え、ノアの食事を運んできた緑は、慌ただしいノアの執務室に入るとそう零した。

 朝に顔を合わせなかっただけなのに、緑の姿を見たノアはそれだけで気分が上がった。彼女がいないことにひどくわびしさを覚えていたのを実感する。


「旦那様、食事を抜くのは体によくありませんわ。こちらだけでも、お食べくださいな」


 そう言って、緑が動く右手でバスケットから出したのはガレットらしきものだった。油紙にくるまれたそれは、薄皮の中に卵や塩漬け加工した豚肉が入っている。ノアが過去に食べたことがあるガレットは皿に乗せられた姿だった。

 カラトリーもなしに食べろと言われてノアはためらう。そんな彼に緑はガレットの油紙を半分開いて彼の口元に差し出した。


「はい、旦那様。口を開けてくださいませ」


 鼻先まで近づけられると、良い匂いがした。そば粉と卵と豚肉の、食欲をそそる匂い。途端に、今日はまだ何も口にしていないことを思い出す。

 食欲に負けて口を開きかけたところで、ノアはそこが執務室だということを思い出した。書類を書いている執務官たちがこちらの様子を伺っているのがわかる。


「……貸してくれ。自分で食べる」


 緑の手から受け取り、野営食だと思ってかぶりつくと想像以上の味が口の中に広がった。卵と肉の旨みが中の野菜に絡まって絶妙だった。カラトリーを使って食べる朝食と遜色がない。そば粉の薄皮で包まれているから手づかみでテーブルに着いていなくても食べられる。

 利点と欠点を比べながら食べ進めていたら、ガレットはあっという間になくなった。


「美味しかったですか?」


 にこにこと満足そうな笑顔で緑が訪ねてくる。少し悔しさを覚えながらノアは口元を拭う。


「……ああ。助かった」

「騎士様の分もありますので、後でお食べになって」


 緑はバスケットを部屋の隅に用意された自分用の机に置くと、政務官たちの手元を覗き込んだ。


「また、人が死んだのでしょう? 今度はどんな死に方をしたのです?」


 緑の問いかけは無邪気だった。


「それが、不自然に体が反り返っていたのです。棺に入れるのが困難ななほど、首と足がくっつくような状態で皆死んでいます。死因としては呼吸困難だと思われますが、なぜ体がそんな状態になったかが不明で」

「顔も、皆酷く引きひきつっていたと聞きます。余程苦しんだようで、相当暴れた跡があったと」

「そんな死体、今まで発見されたことはありません」


 既に緑と何度も顔を合わせている政務官たちは口々に今日の変死事件の異様さを語る。七名の婦人は、誰もが不自然な死に方をしていた。窓辺で死んだ者が多いため、外部からの狙撃等も考えられたが、銃痕のような跡はない。みな一様に苦しんでいるのに、絞殺の痕もない。

 情報を聞いていた緑は、頬に手を当てて不思議そうに呟いた。


「それは、恐らく牽機薬(けんきやく)、ですわね?」

後編は明日。


ブクマや↓の★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ