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毒ヲ喰らわバ、みどりマデ〜花吐く魔女ハ旦那様ヲ逃さナい〜  作者: はるてん(次作執筆中)
第3章 毒《あい》は根をはる

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15話 謙遜と悪意の瑠璃蝶々《るりちょうちょう》(前編)

 国内貴族の動向を注視しながら公務をこなしていたノアの元に、ある日第二王妃からの招待状が届く。

 宛名は、第一王宮薬師様、となっていた。


 苦い顔をするノアとクレスの間に、まだ事態を把握しきれていない緑が座っている。


「これは、困った話ですの?」

「そうだ。完全にリュー単独で指名された。俺や母上の付き添いではなく、直接リューに来た」

「魔女殿は第一王宮では客人扱いですが、外から見れば屋敷の使用人です。そんな魔女殿が第二王妃様の誘いを断るわけにはいきません」

「王族が使用人を招くなど聞いたことがないな」

「悪評覚悟の上で魔女殿を呼び出したい、ということでしょう」


 クレスの言葉にノアは眉間の皺を深くしてため息をつく。そんなノアに緑は頬に手を当ててのんびり声をかけた。


「よく、わかりませんけれど。先日参加したものと同じ感じでしょう? あれなら一人でも行けますわ」


 緑の礼儀作法が完璧なことは理解していても、気が乗らないノアは再びため息をつく。


「なにもなければいいが、なにもないわけがないんだ……」






 第二王妃の庭園で、貴婦人たちが噂話に花を咲かせている。

 彼女たちは思い思いに席を移動していた。

 その中で、緑は一人、大きなテーブルに用意された大量の茶菓子を独り占めしている。


 案内された時は人が座っていた。だが、緑が席に座った途端、一人、また一人と席を立ち、最後には誰もいなくなった。

 遠くのテーブルから、扇の陰でひそひそと話す声が聞こえる。


「あれが、噂の……」

「近づかない方がいいですわよ」


 声は聞こえていても、聞こえないふりをするのが淑女だと、第一王妃から教わったことを緑は忠実に守る。

 周りのテーブルから様々な視線を受けながら、黒手袋を付けた緑は優雅に一人紅茶を口にした。

 彼女は微笑む。


 ――これなら、特に問題なさそうです。心配することはありませんでしたね。




 ***




 今日も、この場所は死者が蔓延っている。

 花と薬草茶と香りが立ち込める中、私は一人紅茶を飲む。テーブルについているのは私一人。飾られているたくさんのお菓子も選び放題。


 ――今日のために王妃様とたくさん会話の練習をしたのに、お話する人がいないなんてとても残念。


 そんなことを思いながら一人でいると、一人の従者が近づいてきた。旦那様のところと少し服の色が違う。彼は女の生霊を一人連れていた。べったりと背中にしがみついている。


「第一王宮の薬師殿。共に来ていただけますでしょうか? 主人がお会いしたいと」


 ――これは、聞いていなかったわ。どうすればいいかしら?


 旦那様には、お茶会に毒が持ち込まれないか注意して見るように言われている。

 悩んでいたら、周りの方々が全員鋭い目でこちらを見ているのに気づいた。王妃様との事前打ち合わせを思い出す。


 ――一斉にこちらを見られた時には、その行動が間違っている、でしたね。


「わかりました。伺います」


 侍従に椅子を引いてもらって、私は立ち上がった。前を歩く侍従について王宮に入ると、中は墓园(ムイユエン)の何倍もすごかった。


 廊下は淀んだ空気が渦巻いていて、あちこちからぶつぶつと複数人の声が聞こえる。

 掲げられている肖像画や剥製からは、死人の気配がする。時折、動いていた。

 絨毯の隅には体の曲がりが変な女がいた。通り過ぎる人々を、じっと見つめている。

 黒い目が、あった。


「こちらです」


 従者が一つの部屋の前で止まった。扉越しに感じる部屋の中の気配に、なぜか鳥肌が立つ。


 ――なに? この嫌な感じは。


 考えている間に、扉が開かれた。途端に感じる、眩暈がするほど甘く濃厚な麝香薔薇のような香り。


 ――花の香りじゃない。これは。


 気づいたところで、後ろから強く背中を押された。転びはしなかったけれど、数歩よろめいた。いつの間にか体は部屋の中に入っていて、扉が閉められる。

 がちゃん、と、背後で音がした。


 ――私を閉じ込めるなんて、なにを考えているのかしら。扉なんて、なんとでもなるのに。




 ***




 魔女が去った庭園では、穏やかに第二王妃のお茶会が進められていた。

 複数の貴婦人に囲まれて、第二王妃はにこやかに笑っている。

 数人に、彼女はこう声をかけた。


「あなたに特別な話があるの。終わり際、残って頂戴な」


 声をかけられた貴婦人たちは、一様に頬を染めて頭を下げる。名誉なことだと、疑う様子もない。

 お茶会後、集められたのは、七名。


「ほら、毒だなんて難癖をつけられて、美白水を取り上げられてしまったでしょう? 貴女達には、新しいものをプレゼントしなきゃと思って」


 そう言って第二王妃は笑うが、彼女も傍に仕える侍女も何も持っていない。不思議そうにする貴婦人たちに彼女は続ける。


「今晩は満月でしょう? 今晩、お家で一番月がよく見える部屋の窓を開けておいて? 素敵なものが届くから。今夜、月の光を浴びながら飲めば、きっと、みなさんも綺麗になれるわ」


 微笑む第二王妃の肌は雪のように白い。


「他の方には見つかってはだめよ? 特に旦那様には気を付けて。今度は取り上げられないようにするのよ?」


 第二王妃は優しく笑った。

第二王妃のお茶会再びです。

後半は7月10日(金)21時頃更新。

ブクマや↓の★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。よろしくお願いします。

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