表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて魔境に追放されましたが、前世の知識でソロキャンプを満喫します!  作者: 希羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

第4話:美味しいご飯と、不器用な騎士の極大魔法

 ジュウウウウ……。

 ダッチオーブンの蓋の上でこんがりと焼けたチーズの香ばしい匂いが、静かな魔境の夜に漂っている。

 本日のメニューは、先日解体した暴君猪のバラ肉を使った『厚切りベーコンと魔境トマトのチーズ焼き』。


「アイラ・セルヴァン! 貴様に告ぐ!!」


 私が最高の焼き加減を見極めていたその時、無粋な怒声がキャンプ地に響き渡った。

 振り返ると、王宮の紋章を掲げた使者が、息を切らして立っていた。その後ろには、数名の近衛兵の姿も見える。


「……あら、王宮の方々。こんな辺境までいかがなさいましたか?」

「とぼけるな! 貴様が結界の要だったなどと、なぜ言わなかった! 現在王都は魔物の脅威に晒され、ポーションも枯渇寸前だ! レイン殿下は大変お怒りだが、今すぐ戻り、以前のように結界と土壌浄化の任に就くなら、寛大な心で許すと仰せだ!」


 使者はふんぞり返ってそう言い放った。

 なるほど。どうやら王都はついに立ちゆかなくなり、私が垂れ流していた『おこぼれ魔力』の恩恵に気づいたらしい。


「寛大な心で許す、ですか」

「そうだ! さあ、荷物をまとめろ! 魔境での惨めな生活から救ってやる!」


 惨めな生活。

 使者のその言葉に、焚き火を囲んでいた『霧切り隊』の隊員たちが、一斉にピキッと青筋を立てた。


 彼らの目の前には、極上のチーズ焼き。源泉(魔力)掛け流しの露天風呂。フカフカの魔獣の毛皮のベッド。

 王宮の窮屈な生活など比べ物にならない、超絶快適なグランピング空間である。


「お断りします」

「なっ……!?」


 私はダッチオーブンから熱々のベーコンを取り出しながら、あっさりと首を振った。


「私はすでに婚約破棄され、追放された身。今さら王都に戻る義理も理由もありません。それに――ここの方が、圧倒的にご飯が美味しいですから」

「き、貴様っ、王太子の命令に逆らう気か! ええい、無理矢理にでも連行しろ!」


 近衛兵たちが武器を抜こうとした、その瞬間。


『グルァアアアアッ!!!』


 凄まじい咆哮と共に、伝説の大森林狼ムラが使者たちの前に立ち塞がり、その巨体と殺気を放った。


 さらに。


「……俺の補給拠点で、何をしている」


 氷点下の声と共に、ガルド様が使者の首筋にピタリと剣を突きつけていた。

 一切の感情を排した、王国最強の騎士のガチの殺気。


「ひぃっ!? が、ガルド隊長!? なぜ貴方がここに……っ!」

「彼女は我が『霧切り隊』の最重要保護対象だ。……これ以上彼女の調理の邪魔をするなら、王宮の命令だろうと斬る」

「ひ、ひぃぃぃっ!」


 ガルド様と伝説の聖獣に睨まれた使者たちは、泡を食って逃げ帰っていった。


 後日、結界を失った王国はその後、莫大な予算をかけて魔導士ギルドを雇う羽目になり、原因を作ったレイン王太子は廃嫡、実質的な没落を迎えたらしい。


(まあ、私には関係のないことだ)


 ◇◇◇


 騒ぎが去り、隊員たちも満腹になってテントで眠りについた深夜。

 パチパチと爆ぜる焚き火の前に、私とガルド様だけが残っていた。


「……アイラ嬢」


 ガルド様が、いつになく真剣な表情で口を開いた。

 先ほどの氷のような顔とは打って変わって、なぜか少し、耳の先が赤い。


「先日の言葉だが……『一生、補給を頼みたい』と言ったことだ」

「ああ、はい。もちろん構いませんよ。私にとっても、美味しいと言って食べてくれる人がいるのは嬉しいですから」

「違う。いや、違わないが、言葉足らずだった」


 ガルド様はコホンと咳払いをして、居住まいを正した。


「俺は不器用で、気の利いた言葉は言えん。だが……君の作る飯に救われ、君の飾らない笑顔に、いつしか惹かれていた。……王都にはもう戻らないと言うなら。俺の人生の隣で、ずっと一緒に笑ってくれないだろうか」


 それは、紛れもないプロポーズだった。

 私はパチクリと瞬きをした。


「……でも私、追放された令嬢ですよ?」

「……分かっている。俺の護衛など不要なほど、君は強い」


 ガルド様は少し自嘲気味に笑った後、真っ直ぐに私の目を見た。


「だから、俺に皿洗いをさせてくれ。薪割りもする。美味い食材の調達なら、誰にも負けない。……君の隣で、君を支える理由を、俺に与えてほしい」


 王国最強の騎士が、私の専属の調理助手(兼、旦那様)に志願してきた。

 その不器用で必死な言葉選びに、私は思わず吹き出してしまった。


「……ふふっ。皿洗い、ちゃんと綺麗にできますか?」

「俺の『水魔法』は、油汚れを落とすためにある」


 大真面目に答えるガルド様がおかしくて、私は焚き火の温かさに身を委ねながら、小さく頷いた。


「分かりました。……それでは明日から、二人分の朝ごはんを作りますね」


 ガルド様は一瞬ポカンとした後、その傷のある顔を、今日一番のだらしない笑顔へと崩した。


「……ああ。悪くない。……いや、最高だ」


 少し離れた茂みの影で、セイン副隊長がメモ帳にペンを走らせる音が聞こえた気がした。


『隊長の顔面崩壊ログ:ついにプロポーズ成功。ただし役割は皿洗い。……まあ、お幸せに』


 魔境の夜は更けていく。

 私たちのご飯の匂いと、少し騒がしくて温かいスローライフは、これからもずっと続いていく。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
使者さんも『フルコース』詠唱前に騎士団に止められて助かったね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ