エピローグ①「魔境の朝ごはん」
朝の冷やりとした空気を、香ばしい匂いが温めていく。
「ガルド様、お皿のすすぎ、完璧ですね。水魔法の精密なコントロール、さすがです」
「……ああ。油汚れ一つ残さん。任せておけ」
私の隣で、王国最強の騎士様が、腕まくりをして自慢の水魔法でフライパンや木皿をピカピカに洗い上げている。あの不器用なプロポーズの言葉通り、彼は立派な私の専属洗い物担当(兼、愛する旦那様)になっていた。
今日の朝ごはんは、魔境の清流で獲れた『虹色マスのハーブソテー』と、昨晩の残りのシチューを使った『こんがりチーズのホットサンド』。
そして食後には、魔境の奥地で見つけた、深い苦味とコクが特徴の『漆黒豆』をじっくり深煎りした特製コーヒーだ。
「キュウゥ」
足元で可愛らしい鳴き声がした。見下ろすと、大森林狼のムラが、自分と同じ銀色の毛並みをした子供を連れてきていた。子供といっても、すでに大型犬ほどのサイズがある。
「ムラ、お子さんですか? 可愛いですね」
私が頭を撫でながら、茹でた骨付き肉を二つ差し出すと、親子揃って嬉しそうに尻尾を千切れんばかりに振った。
そこへ、ワサワサと茂みをかき分ける賑やかな音が響く。
「おはようございます、アイラ様! 本日も異常なし! パトロール(朝ごはん)に参りました! お前ら、ちゃんと並べ! 隊長とアイラ様の邪魔をするなよ!」
セイン副隊長に引率され、すっかり顔馴染みになった霧切り隊の面々が、マイどんぶりを持参して一列に整列している。
「ふふっ、皆さんおはようございます。たくさん作ったので、冷めないうちにどうぞ」
私がホットサンドの山を差し出すと、歓声と共にいつもの賑やかな朝が始まった。ガルド様が淹れたてのコーヒーを私に手渡し、目尻を下げて優しく微笑む。
追放された魔境での朝は、今日もとびきり美味しくて、たまらなく幸せだ。




