来世も一緒(1)
「ラディス!久しぶり!」
ノックの後入室してきたのはこの国の次期王太子妃、結婚を一月後に控えたリアだった。
私はドルゴーン王国の王、少し前まではこの国の人々に魔王と恐れられていた存在だ。
今回魔石や特産物の輸出価格の打ち合わせの為にこの国を訪れた私は三日ほど王城に滞在している。
価格については概ね合意が得られ、あとは随行した文官たちの細かい打ち合わせで今回の訪問の目的は達成される。
「久しぶりだなリア。こんなところで油を売っていていいのか?結婚式まで後一ヶ月だろう?」
「いいんだ。準備はちゃんと進んでる。今日はアルとお茶する予定だったけどキャンセルした!」
また喧嘩か。
このカップルは仲はいいがよく喧嘩もする。大抵はリアが振り回して王太子がキレる。そして王太子が折れて仲直りする。最近は周囲もまたかと放置気味であるらしい。
部屋に入ってきて勝手に私の向かいのソファーに腰を下ろしたリアに侍従が紅茶をいれ部屋の隅に下がる。
「何が原因で喧嘩したんだ?」
「アルが悪い!オレの喧嘩に手を出した!」
事の発端はリアのお披露目のお茶会らしい。
王太子妃ともなれば王妃に次いで社交界で上から二番目の夫人である。
しかし、リアは社交界デビューはしたもののほとんど社交界に顔を出していない。まあ、そのせいで〝幻の黒薔薇姫〟などと、リアを知る人からすれば腹筋が試されるほどかけ離れた呼び名で呼ばれている訳だが。
高位貴族の夫人たちともつながりが必要であろうと、お茶会が催される事になった。
集められたのは数家の伯爵家の夫人令嬢。それと侯爵、公爵家の夫人令嬢総勢三十名ほどである。
夫人や令嬢たちは王城の大き目のサロンに通され五名ずつ六つのテーブルに分かれて着席した。テーブルには色とりどりのおいしそうな菓子やフルーツが盛り付けられ、メイドによって薫り高い紅茶が入れられる。侯爵、公爵夫人や令嬢は一つのテーブルに集まるのではなく各々のテーブルに分かれて座る。
今回参加した高位貴族はリアのアッシュマイヤー公爵家夫人、令嬢のフィリス、ロゼッタール公爵夫人、令嬢はいない。キックスマー侯爵夫人、ここも令嬢はいない。ロシエンテ侯爵夫人、令嬢のイザベラ。
そしてリアはそれぞれのテーブルを回り夫人、令嬢達と交流する。
お茶会は概ね和やかに進んだ。リアもしっかり猫を被り公爵令嬢として申し分の無い振る舞いをした。(と本人は言っている)
問題はロシエンテ侯爵令嬢イザベラのテーブルに着席した時に起きた。
ロシエンテ侯爵はあまり特徴のない男である。会議等でもほとんど発言せず、いるのかいないのかわからないなどと言われている。
しかし、その婦人は気が強くプライドが高いと言われていた。令嬢も夫人の性格を受け継いだようだった。
リアの話では……
〝
「マリアベルナ様、お会いできて嬉しく思いますわ」
自己紹介の後イザベラが話しかけてきた。
「イザベラ様、こちらこそよろしくお願いいたします」
「マリアベルナ様は社交界にほとんどお出にならなかったですものね」
「そうですね。仕事が忙しかったものですから」
「まあ!お仕事が!わたくし、下々の方々がする仕事というものをしたことがありませんの。もちろん殿方は皆様お仕事をされていらっしゃいますけど、淑女は社交や家を守るものだと教わりましたのよ。皆様はどうなのかしら」
と他の令嬢を見回す。
おおーっと、いきなり喧嘩売ってきたぞ。
「まあ!そうですの。私もお家にいてお菓子をつまんだりのんびりした生活がよかったんですけど、私一級魔導師でしょう?能力が高いって辛いですわぁ」
「ま、まあ大変でいらっしゃいますわね。
……魔大陸にも行かれたんでしょう?わたくし魔族って恐ろしくて。あの見た目でしょう」
何が言いたいんだ……
「魔族は恐ろしくありませんよ」
オレが反論すると周りの令嬢たちはとんでもないというように怖がっているような素振りをみせる。
「そうそう、魔大陸では魔物の肉を食べたり野外で寝たりなさったんですって!さすがマリアベルナ様!わたくし如きにはとても真似できませんわ」
「あら、魔物の肉って美味しいんですよ。今度皆様にも食べていただこうかしら?」
「そんな野蛮な事わたくしはとても無理ですわ。マリアベルナ様は逞しくていらっしゃるから。そのあつかましさで殿下にも迫ったりされたのかしら?ねえ、皆様」
そう言って皆でクスクス笑う。
ほーほー、上等じゃん。その喧嘩三倍の値段で買ってやる。
オレが意気込んだ時だった。
「ふーん、魔物の肉を食べると野蛮なんだ。じゃあ私も野蛮だね」
「「「殿下!」」」
アルが乱入してきた。
「イザベラ嬢、私達が魔大陸に渡ったのはこの国を救うためだ。それは知っているのかな?」
「も、も、もちろんでございます」
「リアもサーラも過酷な旅に文句一つ言わず耐えてくれた。それを否定するということは私達〝救国の四星〟を否定する事と思っていいのかな?」
イザベラ嬢は真っ青になって否定した。周りの令嬢達も皆青ざめている。
「い、いえ、否定などと……わたくしはただ……殿下が騙されているのではないかと……」
「騙されてる?君は私の何を知っている?リアの何を知っているというんだ!リアを馬鹿にするということは私を敵に回すということだ。よく覚えておくがいい」
イザベラ嬢はついに泣き出した。
ロシエンテ侯爵夫人がすっ飛んできて殿下に謝る。
「アルフレッド殿下、どうぞお許し下さい。イザベラはとても心優しい娘なのです。かねてより殿下が野蛮な令嬢に騙されているのではと心配していたのです。殿下を心配するあまり行き過ぎた言葉もあったかもしれませんが……」
ここらへんでアルの怒りが更に爆発し、お茶会はお開きとなった。
オレはイザベラ嬢に反撃しようと意気込んだところでアルに横取りされ不完全燃焼だ。
お茶会出席者がすべて退出した後でアルに文句を言ったのだが、
「リアが馬鹿にされて黙っていられる訳が無い!」
「でも、喧嘩を売られたのはオレだ。反撃の権利はオレにある」
「いやだ。リアを傷つける者は全て俺が排除する」
どうしても譲らないアルに切れたオレはしばらく二人のお茶会はキャンセルする!と宣言した 〟
という訳だ。
「まあ、そんな訳でポッカリ時間が空いちゃったんだ。それで、ラディスが王城にいるのを思い出して会いに来たんだよ。機会があったら聞いてみたいことがあったんだ」
暢気にお菓子をほおばりながらリアが言う。
きっとここで話をしていればそのうちアルフレッド殿が探して来るだろう。
そう考えて私はリアの疑問を聞くことにした。




