魔大陸ツアー(6)
やーーっと辿り着きました、地竜の住む洞窟。
いやー大変だった。――距離は近かったんだよ、距離は。
地竜の住む洞窟は温泉地と同じ山にあったから。
マードラン卿に後を託し、いや、マードラン卿は燃え尽きた灰のようになっていたので部下の官吏の人やクリフの副官の騎士、リンデロットの補佐をしている魔族の人達に後を託し、オレ達は山道を登って登って途中休憩や食事、野宿をして二日。
何が大変だったかというと、ギャッピーがオレから離れないんだ。オレにしか抱かれないしオレからしか魔力を食べない。ギャッピーは生まれたてだといっても一抱えもある。重さもそれなりで抱えていると腕が疲れてくる。結局即席おんぶ紐のような物を作って背負った。
でも、大変なら大変なだけ愛情も増す訳で、オレはますます離れがたくなる思いを無理矢理押さえ込みながら歩いた。
地竜の洞窟の入り口。ついにギャッピーとお別れの時だ。
オレは早々とこみ上げてくる涙を押し殺し、皆に「行ってくる」と手を振った。
ディオ様とギャッピーを背負ったオレは洞窟を下っていく。
かなり足場の悪いところもあったが、ディオ様が手を貸してくれて更に下る。
延々と下った末にオレ達はポッカリと大きな口をあけた穴の縁に立っていた。
「この下に地竜がいる。ここでお別れだ」
ディオ様の言葉に、オレはギャッピーを下ろす。最後の魔力を与えて……そっと穴の縁の方へ押し出した。
ギャッピーは最初「ピギャー!ピギャー!」と鳴いてオレに擦り寄ろうとしたが、ギャッピーの泣き声に呼応するかのように穴の中から「オオオオン……」と地響きのような鳴き声が聞こえてくると戸惑った様子を見せた。
「%$&#$&%」
ディオ様が穴に向かって何か言うと「ギャオオーーン」と、また咆哮が聞こえた。
その声を聞くとギャッピーは意を決したように穴の縁に近づき、オレをもう一度振り返った後、穴に向かって飛んだ。
オレは泣かなかった。笑ってギャッピーを送り出してあげたかったから。
黙々と来た道を登り、オレ達は洞窟の外へ出た。ディオ様が何も話しかけないでいてくれたのはありがたかった。
洞窟の外で待っていてくれたみんなに
「ギャッピーは無事地竜のところに帰ったよ」とにっこり笑って報告した。
にっこり笑って報告したつもりだったんだけど、アルに「頑張ったな」と抱きしめられると涙がこぼれてきた。
そのまま、アルの胸に縋ってわんわん泣いた。
泣きつかれて、ぼんやりとアルの胸にもたれかかったまま「アル、オレ赤ちゃん欲しい……」と呟くといきなりアルが動揺し出した。
「お、俺としては……協力するにやぶさかでないというか、いつでもOKと言うか……」
「じゃあ今度俺が猫の赤ちゃんを貰ってきてやろう。知り合いが引き取り手を捜していたんだ」
「ホント!?クリフ」
がばっとアルの胸から身を起こすと「だよな……」とアルが呟いた。
ちなみにクリフから貰った子猫は後にアッシュマイヤー公爵家のトップアイドルになった。
山を下り、温泉地で馬を借りて、オレ達は港町まで急ぎ戻ることにした。
もう、ツアーの一行は港町に向かって出発している。
馬を駆り、半日遅れで港町に戻る事ができた。
港町では既にラディスが待っていた。
「おう、クトラディスか。元気か?」
「父上、お久しぶりです。どちらにいらしたのですか?」
「天竜のところに遊びに行ってたんだが、久しぶりに地竜に会いに行こうと山を下りたら人間達と親交を結んだと聞いてな。面白そうだったんで顔を見に行ったんだ。今度は人間の大陸にも遊びに行こう」
豪快に笑うディオ様。
それからラディスはアルとオレに話しかけた
「アルフレッド殿、魔石の件承った。ご尽力、お礼申し上げる。
魔石はこのドルゴーン王国にとって貴重な輸出品となりうる。また、貴国から魔道具を輸入すれば魔族の生活も更に豊かになるだろう。感謝申し上げる」
「リアも、魔石の事だけでなく地竜の子供を地竜の元に届けてくれたのだと聞いた。ありがとう」
オレ達はしばらくラディスと和やかに話をしていたが、リンデロットの「そろそろ宿に向かいましょ~」との声に腰をあげることにした。
オレ達が今居るのは魔王の館。シャンタル王国と国交を結んで以来ラディスは船でシャンタル王国に向かう事が増えた。しかし、毎回魔王城から来るのは遠過ぎる。と言うわけでこの港町にも広大な魔王の館を建設。そこで執務を行なっていた。
「あ、リアはここに泊まってくれ」
ラディスの言葉にピキッとアルが固まった。
「その方が明日の約束のためにも都合がいいだろう」
ギギギ……とオレのほうに顔を向ける。
うー、何で今言っちゃうのかなあ……
「お前、アルフレッド殿に言ってないのか?」ラディスが聞くが、アルが素早く反応した。
「クトラディス殿、その話、詳しく教えていただきたいゆえ、私もこちらに泊めていただいて構わぬか?」
「それはもちろん構わぬ。お忍びだと聞いてなければ賓客として我が館に滞在していただくつもりであったゆえ」
その後、みんなはオレとアルを残し宿に引き上げていった。オレの目的を知っているサーラは頑張ってねのまなざしを向けていた。
夕食はミラルーシェも一緒だった。ずっとこの館に滞在していたらしい。
オレはラディスに白い目を向ける。
「ミラルーシェ嬢はまだ15歳だぞ」
「私は何も手を出してないぞ。食事を一緒にしたり街に買い物に行ったりしただけだ」
「ミラルーシェ嬢が結婚したいって言い出したらどうするんだよ」
「そうだな、五年後もその気があれば私はかまわんが」
コソコソ話をしていたらミラルーシェに睨まれた。
「ねえ、そこのあなた、あなたもラディス様狙いなの?」
えー、ミラルーシェ、オレのこと覚えてないの?
「え?誘拐されてた時?あーあの時の……えーと、リナ?」
おしい!
オレとアルの正体を教えたら真っ青になっていた。ついでにアルがオレの肩を抱きながら婚約者を強調していた。




