魔大陸ツアー(5)
それから静かに大騒ぎになった。
静かにというのは、他のツアーの人達に知られたくなかったからだ。
宿に魔物が出たとか悪印象を与えたくない。
オレの部屋に集まったのはアル、クリフ、サーラ、サンテ、リンデロット、死にそうなマードラン卿、そしてオレの七人だ。オレは皆が来る前になんとか着替えと洗面を済ませた。
大変だったんだ。この魔物(?)はオレから離れないから。
名前がないと不便なので『ギャッピー』と呼ぶことにした。
ギャッピーを囲む七人。いやマードラン卿は部屋の隅で膝を抱えているので六人。
「クリフ、こんな魔物見たことあるか?」アルが尋ねる。
「いや、魔大陸特有の魔物では?サンテは見たことあるか?」
「いえ、私も初めて見ました」
みんなが話している間ギャッピーはずっとオレの手を舐めていた。
「この子、お腹すいてるんじゃないかな?」オレが言うと
「こいつ、何食べるんだ?」とアル。
「私、厨房でお肉とかミルクとか貰ってきましょうか?」
サーラが腰を浮かせかけた時ずっと黙っていたリンデロットが口を開いた。
「あ~の~、俺、こいつは、いや、このお方は地竜様の子供だと思うんだけど~」
「「「「地竜!?」」」」
えらいこっちゃ!ギャッピーに聞いても「ピギャー」と鳴くだけだ。
「じゃ、じゃあ最近地震が多かったのって……」
「ん~盗まれたのか転がり出たのかはわからないんだけど~何かがあって地竜様の卵が無くなった。それでなぜかあの小屋にあった。地竜様は卵がなくなっちゃったんでお怒りで地震を起こしているのかな~って」
「それでは卵……いや、もう産まれてしまったのでギャッピーを地竜の元に返さないと大変な事になるんじゃないか?」
アルが焦って聞くがリンデロットは
「でも俺、地竜様の住処がどこか知らないんだよね~」
えー、万事休すじゃん。と思ったがラディスが知っていると言うので、ラディスに連絡をとってもらうことにして、とりあえずギャッピーの食べそうなものを貰ってこようとドアを開けた。
「わ!ごめん!」
ドアの前にいた人物にぶつかりそうになりとっさに避ける。
その人物を目にした途端、リンデロットとサンテがさっと跪いた。
「前王様、ご無沙汰いたしております」
青みがかった肌に二本の立派な角。堂々たる体躯。ラディスに非常によく似た男性が立っていた。顔立ちは似ているがもちろん目の前の男の方が老けている。ダンディーな中年といった感じ。いやもう少し野性味溢れているか?
「堅苦しいことはしなくていいぞ!俺はもう引退した身だ」そういって豪快に笑う。
「クトラディスが人間共と親交を結んだと聞いてな。それも今人間共がこの魔大陸にいると言うので顔を見に来たのだ」
そういうとオレ達の方を向いた。金色の瞳が爛々と輝いている。
「クトラディスの父、ガルーディオだ」
アルが瞳に力を込めた。
「アルフレッド・シャンタル。シャンタル王国、王太子だ」差し出された手をしっかり握る。
そうしてガルーディオ前魔王はオレ達皆と握手した後、オレとサーラに向かっていった。
「ディオ様って呼んでくれると嬉しいなぁ」
うん、ラディスは確実にこの男の子供だ。
「あの、ディオ様、この子なんですが……」オレがギャッピーを指差すと
「うん、地竜の子供だな」あっさり答えが返ってきた。
「俺が地竜のところまで案内しよう」
なんてラッキー。竜魔族は成人の時に三界の竜を統べる為に修行に出されるから住処も知ってるよね。
「あの、この子お腹すいてるみたいなんですけど、ディオ様はこの子が何を食べるかわかりますか?」
サーラが恐る恐るきく。
「地竜は何でも食べるが、そいつは卵からかえったばかりだろう?とすると魔力だな」
「「「魔力??」」」
「そこのお前、リア、手を出してみろ」
いきなりの〝リア〟呼びにアルの眉がピクッと動いたけどオレは手を差し出した。
ディオ様はオレの手を掴むと掌を上にしてギャッピーの口元に差し出した。
「いいか、掌からゆっくり少しづつ魔力を放出するんだ。属性は持たせないように。出来るか?」
オレは頷いて掌からじわじわと魔力を放出する。
ギャッピーはオレの掌をぺろぺろと舐め出した。
あ、さっきからギャッピーがオレの手を舐めていたのはおねだりをしていたんだ。
ますます愛おしさがこみ上げてくる。
しばらくオレの掌を舐めていたギャッピーはやがてケプッと小さなゲップをして満足そうに舐めるのをやめると強引にオレの膝の上にあがり、丸くなって寝てしまった。
うう……可愛い、可愛い、可愛い。
「ディオ様、この子、地竜に返さなきゃダメですよね?」
「返さなきゃ地震が酷くなって魔大陸が滅ぶかもな」
そんなあっさり……わかってますよ。返さなきゃいけないってことは。
「まあ、俺が返してきてやってもいいんだが、リア、お前は一緒に行かなきゃならんだろうな」
もとより一緒に行くつもりだ。
「ガルーディオ殿、何故リアが一緒に行かなくてはならない?」アルが聞く。
「この地竜の子はリアの傍を離れんだろう?」
「では私も行く」すかさずアルが言うと
「お二人だけ行かせる訳には行きません。護衛として俺も」
「治癒が必要になるかもしれません。私も行きます」
「サーラが行くなら私も」
「ドルゴーン王国代表として俺も~」
クリフ、サーラ、サンテ、リンデロットも次々と名乗りをあげる。
「まあ、近くまでなら一緒に来てもいいが、地竜の住む洞窟に入るのは俺と地竜の子を抱いたリアだけだ」
ディオ様は苦笑しながら言った。




