魔大陸ツアー(3)
次の日は温泉地に向かう。
もともと魔大陸は地竜の関係で火山が多いらしい。それで温泉も各地にある。
ラディスが魔王に即位してから近くの住民が入るだけだった温泉を整備して保養地を作ったらしい。
「サーラ、今日そっちの馬車に乗っちゃダメかなぁ」
「リア様……私は構いません。むしろ嬉しいですけど、いいんですか?」
アルの方をチラッと見る。
「いいんだ。あんなヤツ」
サンテが気を遣ってくれてアル達の馬車に乗ってくれた。
温泉は最高だった。
粗末な宿なんだけどちゃんと清潔でひなびた感じが情緒あってオレは気に入った。
サーラを誘って温泉を堪能した。
温泉は浴衣を着て入るんだけどちゃんと男湯と女湯が分かれていて四つもお風呂があった。
久しぶりに前世の日本人の血が騒ぐ~
きゃっきゃとはしゃぎながら温泉を楽しみ湯冷ましに庭園を歩いていると……
あれ?昨日の貴族じゃないか?鞄をひったくられた貴族だ。カッフェル男爵って言ったっけ?
カッフェル男爵がやけにコソコソ歩いている。庭園の端の方までコソコソ歩いていってしまった。
夕食前、アルが部屋まで迎えに来た。
オレは口を利かないつもりだったけどアルの言葉で一旦棚上げする事にした。
「リア、昨日買った髪飾りなんだけど、ここについている黒い石、魔石じゃないか?」
「え?魔石?」よく見ると魔石だ。魔力反応がある。
魔石は魔力を含んだ石でいろいろな使い道がある。生活道具も兵器も。オレ達みたいに魔力が多い者はいろいろな魔道具を使いこなせるが魔力の少ない者は使えない。それを魔石は代用してくれるんだ。
ただし、隣国の一部の地域でしか採掘できないので物凄く高価なんだ。
「魔大陸は魔石が取れるんだな」
オレが言うとアルは考え込みながら言った
「魔大陸の住人は魔石の価値に気がついていないんだろうな」
そうだろうな。魔道具なんてなさそうだし。
「じゃあ、悪い奴らに利用されちゃうんじゃないか?」
「ああ、港町に戻ったら魔王殿に話してみよう」
オレは嬉しかった。アルはラディスを騙して安く魔石を手に入れるんじゃなくちゃんと価値を教えた上で取引しようと言った。
なんとなく魔族の人々に肩入れしていたオレは魔石の取引で普通の魔族の人達の生活が少しでも潤うといいなあなんて思っていた。
そんな訳で幾分気分が上向いてきたオレはアルと和やかに夕食を終え、部屋に戻ろうと歩いていたら部屋の前に色気美人が立っていた。
「……なんか用ですか?」
「あらあら、そんな怖い顔をなさって。ご夫婦なのにご一緒のお部屋を使われませんの?」
「あなたには関係ありません」
「そんなに噛み付かないでくださいな。あなたにいい話を持ってきてあげたんですのよ」
「いい話?」めっちゃ胡散臭い。
「ええ、こちらにいらして」
色気美人はオレを庭園に誘った。
庭園の奥までいくと色気美人は話し始めた。
「ねえ、私あなたの旦那様にとっても興味がありますの。ちょっと貸してくださらない?」
「はあ!?何言ってるかわかりません!あなただって夫がいるでしょう?」
「あら、うちは大丈夫よ。ねえ、あなた?」
彼女が振り返ると後ろにライザード商会のライゼル会頭が立っていた。
「お嬢さん、いや奥さんか。わしの妻は困った病気持ちでな。見目の良い若い男が大好きなんじゃ。
だが君も悲観する事はないぞ。わしの妾にしてやろう」
何言ってんだこのおやじ。
「シャール宝飾店なぞ聞いたこともない。そんな弱小の商会の若造の妻でいるよりわしの妾になったら思い切り贅沢をさせてやるぞ」
とか言って迫ってきた。キモいキモいキモいキモい!!
つい反射で火球をぶっ放し……キモおやじのすぐ脇を飛んでった火球は木々を貫き、庭園の端の方までポッカリ穴を開けていた。
キモおやじは腰を抜かしているが……
はーーーっ当たらなくてよかった。
ん?穴の向こうに人影が……当たっちゃった?
急いですっ飛んでいく。
あ、昨日の貴族、カッフェル男爵だっけ?それとヤバげな魔族の男。何の魔族かわかんないけど獣魔族だ。地面に落ちているのは昨日ひったくられた鞄と金貨が沢山。それと……このゴロゴロ転がっているの……魔石だ!
「くそ!」カッフェル男爵は殴りかかってきたがそんなのにやられるオレじゃない。かわして反撃しようと―――
「勇敢なお嬢さん、そこまでだ」
声がした方を見ると、キモおやじと色気美人が羽交い絞めにされて首元にナイフが当てられている。
当てているのは獣魔族の男と手下っぽい魔族。
えー、キモおやじと色気美人はオレと何の関係もないんですけど……むしろ嫌いなんですけど――
ふうっ……溜息一つ。オレは掴んでいたカッフェル男爵の手を放した。
オレはまたもや誘拐されてしまった。キモおやじと色気美人と一緒に。




