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【完結】前世男子中学生の公爵令嬢、魔王討伐に行ったんだけど……  作者: 一理。
本編

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最終決戦(2)


 ゆったりと姿を現した魔王クトラディス・ドルゴーンはホールの中央に歩を進める。


 その存在感、威圧感に人々は身動き一つ出来ずにその姿を見つめる。


 ホール中央で歩みを止めた魔王の眼が光った。


「我が名は魔王クトラディス・ドルゴーン。この場にいる全てのものの洗脳を解く。

 本来の自分を取り戻せ!」


 全ての人々が動きを止めた。


 それから人々は徐々に我に返り「俺は(私は)今まで何を……?」と呟きだした。


 一人の令嬢が叫び声をあげる。


「魔族よ!魔王が攻めてきたわ!」人々が騒ぎ出すが、魔王は意に介さず声をあげた。


「王よ!この国の王よ!

 我は魔大陸全ての魔族をすべる王だ。我はこの国を侵略しようなどとは思っておらぬ。

 500年前はいざ知らず我は人間たちと友好を結びたいと考えている。

 このことはそこにいる王太子並びにアッッシュマイヤー公爵令嬢も知っている」


 人々は初めてアルとオレに気がついたようだった。


 王が壇上で前に進み出る。人々、そしてホール中央にいる魔王を見下ろした。


「ここに集う皆に伝える。王太子アルフレッド並びにマリアベルナ嬢は謀反など起こしてはおらぬ。

 全てはそこにいるガルファー・サリバーンとこのヴェルナーヴとかいう魔族の企みである。


 魔族の王よ。500年前の遺恨はあれど我が息子アルフレッドの言葉を余は信じたい。そして人々の洗脳を解き救ってくれた事、礼を言う。

 貴殿とはゆるりと語り合いたく思う」


 壇上を下り、魔王に歩み寄る。


 今、人間であるシャンタル王国の王と魔族を統べる魔王はしっかりと握手を交わした。


  



 人々に取り囲まれたガルファー・サリバーンは喚き声をあげた。


「えーい、触るな!私に触れるな!私は尊い血筋を引く高貴な人間だ。

 いいか、聞いて驚くな。私はこの国の三代前の国王のひ孫を父に持ち今は無きサルトヴァーン大帝国の皇帝の唯一の末裔を母にもつ王に相応しい人間だ。お前ら如きが触れてよい存在ではない!」


 それを聞いた人々が戸惑ったように視線を交わす。

 一人の子爵が口を開いた。


「私の父親も三代前の国王のひ孫だが……」


 別の伯爵夫人も声をあげる。


「私の実家のメイドも三代前の国王の血筋だと言っておりました」


 三代前の国王は相当な好色で王妃、側妃のみならずいたるところで子供を作るので十年ほどで退位させられた。退位してからも放蕩はなかなか止まなかったという。

 公式に認められている子供は正妃、側妃の子供だけだ。


 ロゼッタール公爵が姿を見せた。


「お前はサルトヴァーン大帝国の末裔だと言ったな。今、彼の帝国の王都があった場所はシグルド王国になっている。そちらに送るゆえ、シグルド王国で王になれるよう励むがよい」


 それを聞いたガルファー・サリバーンは泡を吹いて気絶してしまった。


 シグルド王国は建国の際、サルトヴァーンの皇帝の血を引く者を執拗に探し出し、すべての者を粛清したという歴史を持っている国なのである。





 ヴェルナーヴは魔王が姿を現し洗脳を解くのを見るとじりじりと壇上の端のほうに移動した。

 魔王とシャンタル国王が握手するのを横目で見ながら突破口を探す。

 蛇の獣魔族の男、コヴェルトはアルを牽制しながらヴェルナーヴに近づく。


「魔王よ!」ヴェルナーヴは声を張り上げた。


「これで勝ったと思うな。私は諦めん。必ずお前の命を奪い魔王になってみせる!」


 言うやいなや壁にむかって魔術を放つ。ヴェルナーヴの手から閃光が迸ると背後の壁に大穴があいた。ヴェルナーヴが身を翻しその穴に消えるとコヴェルトも後を追った。


  



 一拍遅れアルがヴェルナーヴを追って走り出す。勿論オレも追いかける。


 ヴェルナーヴの放った閃光は背後の壁を貫き、従者たちの控え室の壁も貫き使用人通路の壁も貫き庭園まで穴を開けていた。


 庭園に逃れたヴェルナーヴは走りながら全てを呪う。


――まただ。またあいつに阻まれる。あいつさえいなけれは私は魔王になっていた。この大陸に逃れても手を組んだのはプライドばかり高い無能とわずか三人の手駒だけ。私が悪いのではない。周りが無能過ぎるのだ。今度はゆっくり時間をかけて有能な駒を手に入れる。必ず魔王の座を手に入れてみせる―――


 前方に人影が現れる。暗い庭園を走っていた彼は気がつかなかった。

 自身が囲まれている事を。包囲網が徐々に狭まってきている事を。


 前方の人影が走り出しだ。物凄い速さで肉薄してくると剣を振りかぶったのが見えた。咄嗟にコヴェルトが前に出て受け止める。ヴェルナーヴが後ろに下がると辺りが急に明るくなり、後ろから爆裂弾が飛んできた。咄嗟に障壁を張る。

障壁を壊す勢いで後ろから迫ってきたやつが剣を振り下ろしてくる。

 ヴェルナーヴは防戦一方だった。



 オレとアルはヴェルナーヴの後を追って走り出した。

 庭園に逃れたヴェルナーヴを逃がすわけにはいかない。必死に走っていくとヴェルナーヴ達が立ち止まっている。

 前方にいた誰かがヴェルナーヴに切りかかっていくのが見えた。蛇の獣魔族のヤツが防戦している。オレは閃光弾を空に打ち上げた。辺りが明るくなると同時に爆裂弾をお見舞いする。障壁に阻まれたがアルが飛び出した。渾身の力で振り下ろした聖剣は、障壁を打ち壊しそのままヴェルナーヴの身体を切り裂く。

 ヴェルナーヴは剣で弾くが防戦一方だ。次第に傷が増えていく。もう満身創痍だった。


 前方を見ると蛇のヤツが倒されたところだった。足を強打され足の骨が砕けたようで地面に這いつくばっている。


 誰が倒したのか見てみると


「クリフ!」

 

 クリフだ!!辺りを見回すと――


 サーラがいる!ニコニコしてこちらを見ている。周りを取り囲んでいるのは第三騎士団のみんなだ!


「もうおやめください」


 声のした方を見るとサンテがヴェルナーヴに話しかけていた。


「ヴェルナーヴ様、貴方では魔王になれないのです。もういいかげんにお認め下さい」


「サンテか。裏切り者の役立たずめ」


「私は――」


「そうであろう。お前は魔王を討つ事もせず、こやつらを討つ事もせずのうのうと戻ってきたのだからな。せっかく私の息子だからと目をかけてやったというのに」


 話しながらもヴェルナーヴは大分苦しそうだ。


「貴方様は……私のことを息子だと思ったことなど無いはずだ。それでも私はあなたのことを……

 いえ、そんな事はどうでもいいのです。魔王様は、クトラディス様は私達魔族の幸せを常に考えてくれています。彼が魔王に即位して五十年、私達の生活は随分良くなりました。三界の竜を統べるだけでなく、魔族の生活を少しでも良くしようと考えるクトラディス様に末永く魔王でいて欲しいと……思ったのです」


「ふん、それがなんだ。私が魔王になればそれぐらい簡単にやってやる―――

 だが、それも夢と消えた。お前達が望むとおり私はもう終わりなんだろう。せめて一矢報いてやろうではないか」


 言うなり、ヴェルナーヴは特大の火球を作り出す。物凄く魔力の詰まった火球だ。その火球を夜会の開かれていたホールの方へ向け―――


 オレは自らの出せる最大の魔力を使って火球の前に分厚い氷壁を作り出す。

 が、それすらもおとりであった。ヴェルナーヴはアルに切りかかったのだ。渾身の力を込めて。

 火球に気をとられたアルは反応が遅れた。


 ザクッ――肉を断つ音がしてその場に倒れたのは……


「サンテ!!」


 アルの前に身を投げ出したサンテだった。


 アルの反撃の一閃。ついにヴェルナーヴは地面に膝をつく。昏倒したヴェルナーヴにクリフが縄をかける。後ろ手に魔力を封じる手枷もつけられ気絶したヴェルナーヴと立つことのできないコヴェルトは第三騎士団の騎士達によって運ばれていく。


 オレ達はサンテに駆け寄る。アルに抱きかかえられたサンテは肩から腰の辺りまでざっくりと切り裂かれ……


「息があります!」サーラの声がした。


 息があったってこんな致命傷じゃ……


 サーラが必死に治癒魔法をかける。サンテの傷はどんどん塞がっていった。


 暫くするとサンテの呼吸が穏やかになる。命の危機は脱したらしい。




 国王陛下と王妃様は救い出した。悪い奴らはやっつけた。ついでに魔大陸の魔王とも友好が結ばれればこれって〝だいえんだん〟ってやつじゃね?って言ったらアルに


「大団円だろ」と突っ込まれた。ちょっと間違っただけじゃん。


 四人でハイタッチした。―――









 







 


 


 


 あと二話で本編完結です。

 最後まで失速しないよう頑張ります。

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