王妃救出
夜会前日の夜、オレはある予感がして落ち着かなかった。
コンコンと小さくノックの音。
オレは予感を確信に変え部屋の扉を開いた。
「リア、相手を確かめてから開けろと―――」
「誰かわかってたから」
「そ、そうか」
アルは部屋の中に入ってきた。オレは扉を閉める。
扉を閉めた事の意味をわかって欲しいなと思いながら。
「また眠れなかったのか?」
「そうだな。リアもか?」
アルは今日は最初からオレの隣に腰掛けた。
「なあリア、この騒動が落ち着いたら……」
「その先は全て解決してから聞く」
オレもアルも明日に対する不安はなかった。魔王と対決する前感じた悲壮感は無く、上手くいくと信じていた。勿論油断はしない。敵が予想もつかない事をしてくるかもしれない。それでもオレ達が勝つという確信は揺らがない。力強い味方が沢山いる。それに到底無理なのだ。王位を簒奪するなんて事は。
「アル、王妃様はきっと無事だ。明日必ずお救いして悪い奴らはまとめてぶっ飛ばそう」
「ああ、そうだな。じゃあ明日上手くいくようにおまじないをしてくれないかな?」
「おまじない?どうやるんだ?オレ不器用だけど?」
「簡単だよ。不器用なリアでも出来る。ここら辺にちゅっとするだけだから」
と言って頬を指差すアル。
「な、な、なん……そ、そ、そんな……」
「だめ?」
え、そんな可愛く言われたって……
えーい、女は度胸!
「じゃあ、目つぶって」
オレは思い切ってキスをした。アルの唇に。
思い切りすぎてガチンと歯がぶつかった。
二人で口を押さえ涙目になる。
「リア、嬉しいけど痛い……いや、痛いけど嬉しい。凄く嬉しい」
「ほ、ほら、おまじないは終わったから部屋帰って寝ろ!おやすみ!」
アルを無理矢理立たせて背中をぐいぐい押して部屋から追い出した。
オレ、寝られるかなあ……
はい、寝られました。ぐっすりと。―――オレって……
今日は決戦の日だ。オレは地味なドレスを着て髪はひっつめ、眼鏡をかけた。アルは前髪を長く垂らして目元を隠し頬に傷痕まで描いた。勿論二人とも髪色は変えてある。
フィリスに付き添って登城。玉璽と鍵の隠し場所がわかったと騎士に耳打ちすれば別室に通されるはずだ。夜会会場で騒ぎが起こったタイミングで部屋を抜け出し王妃様の救出に向かう。
あまり早いと夜会前にヴェルナーヴやサリバーン司教が会いに来てしまうので夜会直前で二人が会場に集中している時がベストだ。
夜会会場の方は魔導師団が騒ぎを起こす。キックスマー侯爵や義母の従者として、ローマン総団長をはじめ数人の魔導師が潜入。ローマン総団長が隙を見て国王陛下の近くにいる騎士と入れ替わり騒ぎと共に国王陛下の身柄を確保。騒ぎが起こったらロゼッタール公爵が自領の領騎士団を率い第二騎士団と共に王城の警備を突破して乱入。第一騎士団を制圧し、ヴェルナーヴやサリバーン司教を捉える計画だ。
馬車が王城に着いた。三人でエントランスに入ったところで警備していた騎士にフィリスが耳打ちする。騎士は慌てて奥に知らせに行き待っていると別室に通された。ここで夜会が終わるまで待つようにと言われた。
もう間もなく夜会が始まる時間でほとんどの招待客が入場しているはずだ。
アルに小声で聞く。
「ここから王妃様の部屋まで遠い?」
「いや、ラッキーだ。一見遠そうだがこの部屋の前の廊下から左に曲がった先に使用人の使う階段がある。そこを上れば近い」
じゃあまずこの部屋にいる騎士二人をなんとかしなきゃな。オレとアルは今ソファーに腰掛けたフィリスの斜め後ろに立っている。
魔力が流れる感覚がして掌に文字が浮かび上がる。騎士に見えないようにしてアルに見せ、文字を消した。
『三十秒後に決行』
3、2、1、二人で同時に騎士に飛びかかった。遠くで爆発音が聞こえた。
アルは騎士の一人の腕を掴み剣を抜かせないようにして肘打ち。手首を反して投げ飛ばしたあと後ろ手に拘束。一瞬の早業だ。
オレは床を蹴って飛びながらの回し蹴り。上手くヒットして騎士は吹っ飛んだ。
「お前、スカート……いや、それより魔術使えよ」
「あ、忘れてた」
弱い雷撃を当てて気絶させる。縛り上げて部屋の隅に転がす。
フィリスは一部始終を眼を輝かせて見ていた。回し蹴りが決まった時なんか拍手してた。
フィリスが扉を開け廊下で護衛している騎士に話しかける。
「あのう……騎士様……」そうして部屋に引っ張り込んで気絶させ……を繰り返し、辺りに誰もいなくなったのを確認してオレとアルは走り出した。
フィリスが後ろで頑張って~と手を振ってくれた。
王妃様がいると思われる私室の前の廊下は三人の騎士が警備をしていた。
アルとせーので飛び出して気絶させる。
あ、まずい……物音が立ってしまった。
カチャッと扉が開く気配がした。アルがすばやく扉の陰に気絶した騎士達を引っ張りこむ。オレは扉の正面に立ってなるべく見えないようにした。
「なんだ?」騎士が顔を出す。
「あ、あの……皆様にお茶をお持ちしようとしたのですが、ワゴンをひっくり返してしまって……すみませんがお手伝いいただけないでしょうか?」
「いや、私達は重要な任務中だ。お茶などいらん」
バタンと扉が閉められる。でも大丈夫。必要な情報はばっちり目に焼き付けた。
「騎士は三人。扉の付近に二人。奥のソファーに王妃様が座っている。その近くに一人」
アルと打ち合わせ後もう一度ノック。――コンコン
「だから茶なんぞいらんと――うわっ」
アルが扉の陰から手を伸ばし扉をぐいっと開いた。
扉に手を掛けていた騎士はつられて廊下に飛び出る。
騎士と入れ違うようにオレは室内に入った。
「な……誰だ!」
誰何される前に王妃様の位置を正確に把握したオレは王妃様の周りに結界を張る。
これで良し!あとはやっつけるだけだ。
剣を抜いて切りかかってくる騎士の脇をすり抜け背中から雷撃を浴びせる。その時には廊下に飛び出た騎士を昏倒させたアルが残った一人の騎士と切り結んでいた。アルが剣の柄で殴り相手がよろめいたところに雷撃。あっという間に片がついた。
結界を解除する。
「母上!ご無事ですか?」
王妃様は憔悴した様子は見られるものの怪我などはしていないようだ。
「アルフレッド?その声はアルフレッドなの?」
あ!髪色を元に戻す。アルも目を覆っていた髪の毛をかきあげる。
「母上、助けに来ました。もう安心です」
「あなたは……魔大陸に行ったのではなかったの?」
「ええ、行きましたが父上と母上の危機を知り、助けに来ました」
そう言ってアルは王妃様を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこである。
「さあ父上のところに向かいましょう。リア、行くぞ!」
爽やかにそう言って走り出した。なんか……おとこまえって言うべきか気障って言うべきか……
それからオレ達は夜会会場まで、途中襲い掛かる敵を蹴散らしつつ……ってほとんど誰もいなかった。
多分夜会会場の騒ぎに皆駆けつけてしまったのだろう。
そうして夜会の開かれているホールに到着した。




