オヤジ救出(2)
アルと木の陰で待っていると表の方でガシャーンと大きな音がした。人がざわざわとそちらに向かっている気配もする。暫く待っていると二階の窓でハンカチが振られた。
裏口から素早く入り、人目を避けながら移動し、オヤジの部屋の前まで来た。
「鍵がかかっている」とアル。
「壊そう」とオレ。
「壊したらばれるだろ?」
「扉ごと壊さなきゃ大丈夫だよ」
アルは首をひねってるが構わず壊した。素早く部屋の中に入る。
薬のにおい……広い部屋の中央に置かれたベッドにオヤジが寝ているのが見えた。
素早く駆け寄る。
「オヤジ……」声を掛けると驚愕の表情で眼を見張った。
「リア……何故ここに?魔大陸にいる筈……まさか……」オレの足を見る。
「生きてる、生きてるから。それよりオヤジ、その怪我はどうして……誰にやられたんだ?それに義母上やフィリスは……」
「怪我は王城の騎士だ。ここに運びこまれてからメリリッサとフィリスが付きっ切りで看病してくれたのだがなんだか様子がおかしくてな。使用人も誰も顔を出さない。ファボックでさえ顔を見せん。呼んでくれと言ってるんだが……
それよりお前はどうしてここに居るんだ?どうやって魔大陸から……」
「それについては後でゆっくり話すよ。それより――」
その時オヤジはオレの横に居るアルに気付いた。
「殿下!殿下も……はっ!リア、お前は殿下の前でなんという言葉遣いを……」
今気にするトコそこじゃないだろ……と思いながら「とっくの昔にバレた」というと頭を抱えた。
その時廊下からざわざわと人の声が聞こえた。「奥様お待ち下さい」と言っているのも聞こえる。
マズい……どうする?アルを見ると、アルが囁いた。
「こうなったら拘束してしまったほうがいい。夫人と令嬢はひとまず拘束しよう」
「オヤジ、話すと長くなるけど、義母上とフィリスは今洗脳されてるんだ。一旦捕まえるけど信じてくれ」
「ああ、信じる」即答だった。
アルが扉の陰に待機する。
「お前は下がっていなさい」とファボックに言い置いて入ってきた義母はあっさり拘束された。
アルが外のファボックに「暫く誰も近づけるな」と指示を出し扉を閉める。
拘束された義母は少しの間ポカンとしていたがオレの姿を見ると罵り始めた。
「リア!何でここに居るのです!旦那様に傷を負わせ、フィリスを苛めて、まだ足りないのですか!?
ああ、最初からわかっていましたよ。あなたは私達を疎んでいるって。だから私と結婚した旦那様を憎んで傷つけたのでしょう。本当に性悪で……」
アルが義母の口を塞ぎ布で縛る。義母上は口を塞がれても憎々しげにオレを見ていた。
オレは呆然と突っ立ったままで……
ふわりとアルに抱きしめられる。オレの視界がアルの胸で塞がれた。
「リア、見なくていいよ。あんな言葉も聞かせたくなかった。夫人は洗脳されてるんだ。あの言葉は本心じゃない、わかってるだろ」
「ああそうだ。メリリッサはお前の事を愛しているよ。それは間違いない。今のメリリッサの言葉を聞いて洗脳されていると確信した」
オヤジも抱き合っているアルとオレを複雑な表情で見ながら言った。
パッと離れながら「わかってる。オレは大丈夫だから」言いながらショックを受けている自分を隠せなかった。
アルは外に居たファボックを招き入れる。
ファボックは入ってくるなりオヤジのそばに駆け寄った。
「申し訳ありません、旦那様。奥様をお諌めすることができず……」
アルがファボックに尋ねる。
「この屋敷の使用人の中で本当に信用できるものを数名、人目につかぬよう連れてきてくれ。公爵家の騎士団は信用できるか?」
この屋敷にはヴェルナーヴやサリバーン司教の手の者が入り込んでいるだろう。義母やフィリスを洗脳して任せきりということはないと思う。
そうして夕方までに怪しい行動や外部と不自然な接触を試みようとするものを捉えた。義母やフィリスの侍女や護衛騎士で一緒に洗脳されているものが五人、メイドや下働きに三名入り込んでいた。彼らは義母とフィリスを監禁している部屋と別の一室に拘束して閉じ込めている。
フィリスも学園から帰ってきたところで拘束した。オレは会っていない。
「心配しなくても大丈夫だよ。手荒な事はしない。何日かかるかわからないけど洗脳が解けるまで閉じ込めておくだけだ」とアルが言ったが、義母やフィリスは2~3日毎に登城していた。急に行かなくなったら怪しまれるんじゃないか?
「怪しまれるだろうけどしょうがない。『二人して階段から落ちて怪我をしたので登城出来ない』とでも使いを出そう」
オヤジは信用できる使用人が集められ指示を出したところでぐったりと疲れたようだった。無理もない。大怪我を負ったんだ。まだ傷は癒えていない。怪我を負った当初は医者に診せたもののその後は薬だけ受け取り義母とフィリスが手当てしていただけだったらしい。急いで医者が呼ばれ診察と投薬をされた。
サーラがいたらすぐに治してもらえるのに……そんな事を考えてハッとした。何考えてるんだオレは……
クリフとサーラは今魔大陸で頑張っている。彼らだって王国が心配なのにオレとアルを送り出す為にあえて残ってくれたんだ。あの二人も頑張っている、オレも自分のできる事を精一杯頑張らなきゃ。
ゆっくり眠るようにと指示を出し医者が帰っていき、オレとアルも部屋を出ようとしてオヤジに呼び止められた。
「リア、殿下、話しておきたいことがある」
「オヤジ、今は休養をとる事が先だろ?」
「いや、これを話しておかなければゆっくり寝る事もできん」
アルとオレだけを残して他の者を部屋から下げたオヤジは今回怪我を負った顛末を話した。
「玉璽と王冠か!確かにそれが無ければ王になる事はできない。ということはガルファー・サリバーンは王位の簒奪を狙っているのか」
そりゃまた無謀な……王が退位しても王太子がいる。あ、だからアルを犯人にしたのか。でも傍系王族もいる。アッシュマイヤー家も遠いが王家の血を引いている。それを黙らせるための玉璽と王冠か。ちょっと強引過ぎるけど……じゃあ、オヤジにその二つを隠されてあちらさんも大分焦っただろう。逆にその二つが見つかったらオヤジも両陛下も殺されていたかもしれない。オヤジ、グッジョブ!!
「玉璽と鍵の隠し場所を教える」
「オヤジ、オレを信用してくれるんだな。嬉しいよ」
「お前が私を〝オヤジ〟と呼ぶかぎりは信用できる。拳骨はくれてやりたくなるがな」
「それで公爵、隠し場所は?」
アルが尋ねるとオヤジは少しばつの悪い表情を浮かべた
「銅像の腹の中」
あ!
ヤバい。これはオレとオヤジしか知らない秘密だ。重大機密だ。でも他の人には絶対ばれない隠し場所だ。




