ガルファーの誤算
ガルファー・サリバーンは苛立っていた。
ヴェルナーヴの力を使い、各地で暴動を起こし、第一騎士団を抱きこみ王城を占拠。ここまでは上手くいった。本当は玉璽と、王冠の収められた宝物庫の鍵を奪い、王を殺して王の意思だとして自らが王位に着く予定だった。玉璽と王冠があれば誰も文句を言う事は出来ない。公爵でさえも。そのため王太子を犯人に仕立て上げた。世継が王を狙ったとなれば他のものに王位を渡したとなっても不自然ではないだろう。その時己の血筋も明らかにするつもりだった。
ガルファーは今は無きサルトヴァーン大帝国の皇帝の血を受け継いでいる。かつてサルトヴァーン大帝国はこの国、シャンタル王国に攻め込み、時の〝救国の四星〟率いる軍に大敗。それが元で内乱が起き国が滅んだ。今は一部が王国の領土、残りは三つの国に分かれている。ガルファーは唯一生き残った皇帝の末娘の末裔である母と三代前のシャンタル王国国王の庶子の孫だといっている父との間に生まれ、王国への恨み言を聞いて育った。親が亡くなり教会に身を寄せ成り上がりながら本当は王になるべきなのは自分ではないかと次第に思い込むようになっていった。
ヴェルナーヴと出会ったのは天の采配だ。ヴェルナーヴは魔族の王になる事に固執していた。だから取引を持ちかけた。
この国の奴等を上手く誘導し魔王が侵略を企んでいるとして〝救国の四星〟を差し向ける。両者がぶつかればどちらも無傷では済まない。どちらかが勝つとしても弱っているはずだ。そこでサンテにとどめを刺させる。
その隙に私がこの国をいただく。いや相応しい者が王座に座るだけだ。とガルファーは確信していた。
〝救国の四星〟からの『今夜魔王を倒す』との報を受け行動を開始した。
まず、宰相を襲いピアスを奪って連絡を断つ。同時に国王、王妃の身柄を確保。王城を警備する第一騎士団が味方なのだから容易いものだ。第一騎士団はヴェルナーヴの力を使って洗脳済みだ。
ヴェルナーヴにはこの国の三分の一、魔大陸に近い東側部分を渡すと約束してある。奴はそこに魔族を呼び寄せ魔族の国を作ることを夢想しているようだ。
計画に齟齬が生じたのはアッシュマイヤー公爵が王城に登城していたためだ。忌々しい事に公爵は私の手の者が玉璽と宝物庫の鍵を盗もうとしているのを発見した。すぐに取り上げ、衛兵を呼ぶ。しかし、衛兵、近衛騎士共にこちらの手の者だ。公爵を殺してでも奪い返すつもりであった。が、公爵は逃亡、必死に探し騎士が切りつけ玉璽と鍵を奪おうとしたが持っていなかった。どこかに隠したのだ。これで公爵と王を簡単に殺すわけにはいかなくなってしまった。事態は膠着してしまったのである。
呼び鈴を鳴らし部下を呼ぶ。
「公爵は玉璽と鍵の在り処を吐いたか?」
「いえ、まだのようですが、妻と娘の事は疑っていないので時間の問題ではないかと」
重傷の公爵を屋敷に返し、妻と娘を洗脳した。公爵は無理だが後妻とその娘は元は爵位が低い。魔力量は少なかった。妻と娘たちを溺愛していると評判の公爵だ。愛している家族の事は疑わないだろう。屋敷に隔離して妻と娘に看病という名の監視をさせ、味方の振りをして隠し場所を聞き出そうとした。が、まだ口は割らないらしい。
最初は痛めつけて隠し場所を吐かせようと思ったのだが、セルフェ侯爵の言葉で方針を変えた。
アッシュマイヤー公爵は拷問では絶対に口を割らないらしい。若い頃先代の公爵に伴い反乱の鎮圧に向かった公爵は反乱軍に捕らえられ拷問をうけた。発見された時は手足の骨は折れ、爪は全部剥がされ、体中に傷を負い生きているのが不思議なくらいで先代の聖女が治癒を施さなければ死んでいたらしい。それでも口を割らなかったというので方針を転換したのだ。
ヴェルナーヴが部屋に入ってきた。
ヴェルナーヴも苛立っていた。数日すれば洗脳は解けてしまう。第一騎士団の騎士たちのように手元において何度も洗脳できればよいが暴動など簡単に鎮圧されてしまう。こいつは数日あれば玉座をものにできると言ったのに未だにもたもたしている。
「民衆が騒ぎ出しているようだな」
人気の高かった王太子の突然の謀反、ロゼッタール公爵や魔導師団総団長への捕縛命令、王城を取り巻く不穏な空気に民衆も不安を覚え騒ぎ出しているようだ。今はまだセルフェ侯爵の私兵たちが民衆を抑えているが……
貴族達も騒ぎ出している。前述の問題に加え、王がまったく姿を現さないことを疑問視し、問い合わせも相次いでいる。宰相の怪我による執務の遅滞への不満、全権を任されたという得体の知れない者への不信感等、いつ爆発してもおかしくない。
「まず全ての貴族を集めろ」
「だが、玉璽も王冠もまだ手に入っていない」
「集めてしまえば私が洗脳する」
「出来るのか?」
「数日であれば洗脳できる。そのうちに即位の体制を整えてしまえ。
王太子はいない。両公爵も怪我と捕縛命令でいない。三人の侯爵のうち一人はこちらの味方だ。洗脳して残りの貴族の同意を得てしまえば即位を認められるだろう。貴族が同意すれば民衆は黙さざるを得ない」
――強引な手だが、数日だけでも洗脳してしまえばいけるか?――
「妃を人質に王を脅せ。王位を譲るといわせるのは無理としても姿を見せるだけでよいと言えば要求を呑むだろう。王が姿を見せれば皆が注目する。そこで私が洗脳する。」
「洗脳にかからない者もいるだろう」
「王太子、公爵、侯爵、魔導師団員を抜かせば残りは10人程度だろう。第一騎士団で拘束してしまえ。魔導師団員は会場の中に入れるな」
「わかった、一週間後、王から重大発表があるゆえ全貴族は登城せよと触れを出そう」
「時に我が敬愛なる大司教殿はどうしておる?」
ヴェルナーヴは蔑んだように言った。
「ふん、金と権力しか興味の無い俗物か。民衆を静めさせようとしたが、人気も人望もまったく無い役立たずだ。今は一室に閉じ込めている」
「まあ、そう言うな。私の掌でよく踊ってくれた暴動の立役者だ」
ガルファーとヴェルナーヴ、それぞれの種の王に執着する二人は暗い笑み浮かべお互いを見やった。




