カストゥールの密会(1)
凄い、凄い、凄い!海竜は物凄いスピードで進んでいた。それでもまったく揺れない。オレはワクワクしながら前方を見つめていた。
こんな凄い生き物に会ったのは初めてだ。え?亮介はこんな凄いヤツに勝ったってこと?なにそれ、魔王ってそんなに強いんだ。でも500年前はその魔王に勝ったんだよな?じゃあオレもこの海竜に勝てるかな?全力で魔術をぶっ放したらいけんじゃね?
「ぷっ」
隣のアルが吹き出した。
「お前、なんか変な事考えてるだろ」
「なあなあ、オレが全力で魔術をぶっ放したらコイツに勝てるかな?」
「そんな事考えていたんだ」
アルはちょっと呆れ顔だ。
「だってだって、こいつに勝ったら子分になってくれるんだろ?いつでも乗り放題。魔大陸までだってちょちょいのちょいだ!最高じゃん!」
「あははははっ」
ついに声をあげて笑い出した。むーっ!
「ごめんごめん。安心したんだよ」
「安心?」
「ここ数日、お前思いつめたような顔をしてたから」
そういって頭をポンポンと叩いた。
月が中天に昇り星が瞬く夜更け、海竜は大陸が目視できるところまで到着していた。
海竜がゆっくり背を沈めていく。小船が海に浮かんだ。
ホントに一日で着いちゃったよ……
オレ達を降ろし海竜が遠ざかっていく。
「ありがとーーー!またねーーー!」と手を振ると、ゆっくり尾を振ってくれた(と思う)
小船を進め、夜の闇に紛れて上陸した。
この数日、ローマン総団長とやり取りしてもう少し事態がわかってきた。
まず、カンタス、イルラーク伯領で民衆の暴動が発生した。カストゥールに駐屯していた第三騎士団が鎮圧に向かう。次にロゼッタール公爵領内で暴動発生。公爵、侯爵家は独自の騎士団を持っているため、公爵は騎士団を率いて自領に向かった。その後王国西部の町で暴動発生。第二騎士団が向かう。王都が手薄になったところで、あの日王城が封鎖された。
王城からの発表によると王太子アルフレッド・シャンタルは勇者であると偽り、虚偽が発覚しそうになると各地の暴動を煽動。アッシュマイヤー一級魔導師と共謀し、王城を襲撃、謀反を企むも失敗。逃亡中である。
はあ?突っ込みどころ満載なんですけど。
国王、王妃は心労のあまり体調を崩し療養中。宰相は王太子の襲撃により深手を負ったため後継に後を託した。
そして後を託されたとしてこの馬鹿げた発表をしたのがガルファー・サリバーン司教。
誰?
アルも首をひねっていた。
船を下り、まずキックスマー侯爵の屋敷を目指す事にした。キックスマー侯爵が敵か味方かはわからないが、魔大陸に見送った彼はオレとアルが冤罪である事を知っている。第三騎士団が暴動の鎮圧に向かった後、この地に残り警戒を続けている事から少なくとも敵ではないと判断した。
キックスマー侯爵の屋敷に向かい歩き出そうとしたとき、アルがオレの腕を掴んだ。
「リア、あそこの影に誰か居る」
アルが囁く。
アルは静かにオレから離れ、暗闇に沈んだ。そうっと暗闇に紛れながら横手から男に近づく。オレは気付かない振りをしてそのまま進んだ。
あともう少し、距離を詰め雷撃を発動しようと手を振りかざした瞬間、男が口を開いた。
「リア嬢、久しぶりに会ったのにいきなり雷撃をいただけるとは……魔大陸からのお土産ですか?」
「ローマン総団長!」
「殿下も。隠れてないで出て来てください」
にこやかな笑みを浮かべ立っていたのはローマン総団長だった。
再会を喜びアルと総団長も握手をする。
「どうしてわかったんですか?」
「魔大陸から戻ると連絡を受けていたでしょう?港に一人監視を置いておいたのです。怪しい小船から二人上陸したと報告が来まして」
王都は、王城はどうなった?そしてオヤジの怪我は?義母やフィリス達は無事なんだろうか?
「まず、キックスマー侯爵のお屋敷に向かいましょう」
キックスマー侯爵の屋敷に着くと驚いた事にロゼッタール公爵、カルルック第二騎士団長もいた。
「殿下、アッシュマイヤー嬢!どうして?いや、どうやって魔大陸からここへ?」
彼らも驚愕の面持ちでオレ達を見つめた。
「君達が戻ってくるとの連絡を貰ったからね。魔大陸の事は君たちの口から直接説明した方がいいだろう。到底信じられるような話ではないからね」
ローマン総団長の言葉を受け、アルは魔大陸に渡ってからの話、魔王のこと、ヴェルナーヴの事を話した。
皆、信じられないといった顔で聞いていたが、全て聞き終えると納得したようにも見えた。
「ふうむ……とても信じられない……いや、殿下の言葉を疑うわけではないのです。しかし……」
キックスマー侯爵が呟くとローマン総団長が穏やかに反意を述べた。
「そうですか?私はとても腑に落ちましたよ。そもそも最初からあのヴェルナーヴという魔族は私には胡散臭く見えました。殊勝な振りをしていましたが、かなり大きな魔力が感じられました。大司教のあの魔族への心酔ぶりも気になりましたね」
ロゼッタール公爵も同意する。
「そうだな。今回の王城の封鎖、あの馬鹿げた発表も大方ヴェルナーヴとかいう魔族が裏で糸を引いているのであろう。ただ、ヤツの目的が読めぬ。王城を占拠したとて魔族が人間の王になれる訳でもあるまい」
アルは魔王との会話を思い出すように額に手を当て言った。
「ああ。私は魔王の話を聞いていてヴェルナーヴは魔族の王になる事に執着しているように感じた」
「王城で宰相に後を託されたと言っているのは誰なのですか?」
オレは尋ねた。まったく知らない名前だ。
「ガルファー・サリバーンという大司教のすぐ下の司教だ。地方の教会を含め実質教会を取りまとめていたのがこの男らしい。最初の魔王討伐会議の折、ヴェルナーヴを連れてきた司教がいただろう。あの男だ」
ああ、あの目立たないおっさん……
「あっ!」突然思い出した。
「リア、どうした?」
「私、その方を見ましたわ。カンタス伯爵家で」
アルとカンタス伯の弟のナントカ男爵を訪ねた時、門から出てきたのだ。
「魔族の男を捕らえた時にも大司教が来ていたな。何故こんな田舎町に?と思ったが……」
「やはりカンタス、イルラーク両伯爵領の先の事件と今回の暴動、どちらも教会が関与していると見て間違いないだろう」
と、ロゼッタール公爵。
今回暴動が起きた公爵領の町にも大司教は訪れていたらしい。
「我々が鎮圧した町も大司教が訪れた事が確認されました」カルルック団長も同意した。




