王国への帰還
魔王はゆっくり部屋の中に入ってくるとゆったりとソファーに腰掛けた。
「魔王殿、願いを叶えるとは?」クリフが尋ねる。
「君達を王国に送る事が出来ると言う事だ」
意味がわからない。あの〝死の海域〟をどうやって渡るんだ?魔王は空でも飛べるってか?魔王が飛べてもオレ達が飛べなきゃしょうがない。
「ヴェルナーヴが魔王にはなる事ができない。私がそういったのを覚えているか?」
魔王は話し始めた。
魔大陸は過酷な大陸であった。空は常に陰鬱に曇り、時折嵐が吹き荒れる。大地に恵みは少なく火山が噴火し海は渦を巻き常に荒れ狂っていた。何故か、三界の竜が暴れまわっていたからだ。竜魔族の初代は竜神とこの地に住む魔族との子供だと言われている。その初代は三界の竜と戦いこれを鎮めた。そして初代魔王となった。
竜魔族は成人を迎えると修行に出される。天竜、地竜、海竜のもとへ行き戦って恭順させる。三界の竜を統べる事が出来た者が魔王になるのだという。
「ヴェルナーヴは勝つことが出来なかった。だから奴は魔王にはなれぬ。勿論名前だけの魔王になる事は出来る。しかしこの大陸は再び荒れ果てる事になる。奴はそれ故魔王になれぬということををどうしても承服できないのだ。ゆえに私を排除して魔王に成り代わろうとする」
「その話と〝死の海域〟を渡る事とどう繋がって来るんだ?」
ヴェルナーヴが魔王になれない理由はわかったが、オレは今、一刻も早く王国に帰りたいんだ。
「あの渦は海竜が起こしているのだ。私が命ずれば収まる。
第一そうでなければ500年前、魔王が大軍勢をもってお前達の大陸を侵略しに行く事など不可能であろう」
確かに。言われてみれば双新月の日を待ってあの渦の間にできた細い道を通って大群が攻めてくるのは不可能だ。
「頼む!亮……魔王!オレを王国に行かせてくれ!」
オレが頭を下げるとアルも一緒に頭を下げた。
「ただ、我らも今が好機なのだ。長年ヴェルナーヴを影で支え私を排除しようとする一派をあぶり出し、一掃できるまたとない機会だ。お前達にも協力してもらいたいと思っていたのだが……」
「それでしたら俺が残ります」
「クリフ?」
「私も残ります。悪い人達を全部捕まえたら私とクリフ様も返してくれるんですよね。何でも協力しますからさっさと捕まえましょう。なので、アル様とリア様を先に王国へ送ってくれませんか?」
早速エリオルに連絡を取るとエリオルが苦虫を噛み潰したような顔で魔王城から戻ってきた。
「魔王様、何故またそんな面倒な事を……」
「まあそう言うな。彼らの王国がヴェルナーヴの手に落ちれば後々友好を結ぶ事もできん」
「二人が帰ったとて状況が変わるとも思えませんが……」
エリオルは深い溜息をつき諦めたように言った。
「今、魔王城は厳戒態勢です。貴方様が襲われ重傷を負ったのですから。各種族の長や大臣たちからひっきりなしに問い合わせが来ております。その中から怪しいと思うものをあぶり出し証拠を掴まなければなりません。罠にかける為には彼ら人間達の協力も必要でしょう。
………はーーーっ……六頭立ての馬車を用意してあります。さっさと行ってその二人を送り返してください。
私はここを離れられないのでリンデロットを付けます。それから残った二人には精一杯働いてもらいますよ」
「お前はやっぱり優秀な部下だな」
魔王は満足そうに笑い、オレ達は頭を下げた。
「サーラごめんな。クリフも。無事に帰ってきてくれ」
サーラの手を握る。
「リア様も。怪我しても治癒してあげられないのですから、アル様の言う事をよく聞いて無鉄砲に飛び出さないでくださいね」
ううっサーラも言うようになったなぁ……
アルもクリフと話をしている。
「クリフ、宰相との通信が途絶えた今、俺達は連絡を取り合うことが出来ない。お前達に危険が迫っても助けに行くどころか知る事もできない。すまない。サーラを守ってやってくれ。その代わり王国の危機は俺とリアが救う。お前達が安心して帰って来れるように」
「王国の事は任せた。といっても俺とサーラもすぐ追いかけるから。それまでしっかりリアの手綱を握っていてくれ」
みんな、オレの扱い酷くない?
四人で笑って別れた。
エリオルが用意してくれた馬車はとてつもなく速かった。馬の倍の力のロルカが六頭で引いている。各街に替え馬も手配してくれていた。西岸の港町までわずか三日で着いたのである。
御者をしてくれたリンデロットというのは獅子の獣魔族で、軽い感じのユニークな若者だった。
「君達魔王様を倒しに来たんだって~?魔王様めちゃくちゃ強いでしょ、仲良くなって良かったね!」
オレ達の姿を見て初対面からこんなにフレンドリーに話す魔族は初めてだ。ポカーンと見ていると魔王が苦笑して「私の息子だ」と言ったので再度ポカーンだ。
魔王の息子とはいえ獣魔族のリンデロットは生まれてすぐ魔王城から出されたが、先代の獅子の族長に預けられエリオルと歳の離れた兄弟のように育ったそうだ。魔王のことは父と言うより忠誠を尽くす主だと言っていた。
「お前達に言っておきたい事がある。竜魔族の眼についてだ」
魔王の言葉にオレは初めてヴェルナーヴを見たときのことを思い出した。
ヴェルナーヴの眼が気に入らなかった。なんか落ち着かない気分にさせる眼だ。
「竜魔族の眼にはある力が宿っている。他の者を服従させたり洗脳するような力だ。勿論意図して使わなければ効果を発揮しないし、魔力の多いものには効かない。私は民を力で屈服させたくはないので使わないが、500年前の曽祖父のように魔族を戦いに駆り出すこともできる。ヴェルナーヴはその力を使っているのだろう」
「わかった。私達には効かないのだな」
「ああ、魔力の多いものには効かぬ」
港には船の手配もされていた。上陸したときは崖の洞窟だったので港は初めて見る。王国の港ほどではないが、漁師の船が行き交い活気に溢れていた。
オレ達は一艘の船に乗り込んだ。魔大陸から〝死の海域〟まではそんなに遠くない。半日ほどで〝死の海域〟まで着いた。
荒れ狂う渦の手前に船を停め、魔王は舳先に立った。両手を広げ息を吸う。
「&$%%%#$」
朗々たる声が響き渡る。
海が盛り上がった。いや、目の前の水が山のように盛り上がったと思ったら巨大な生物が顔を出していた。
でっか!!!これが海竜?アルと思わず手を握り合ってしまった。
「&%#$%#&%」
魔王が何か言うと海竜がゆっくり頷いた。
「小船を降ろせ」
魔王の指示に小船が降ろされオレ達は小船に乗り込んだ。
「%$#&%&#」
魔王がまた何かを言うと海竜はゆっくり向きを変え―――
「わわわわ……」
小船がぐーっと持ち上がる。
小船は海竜の背に乗っていた。
「ではな。また会おう」
魔王の声に振り向く。魔王の乗った船はどんどん遠ざかりつつあった。
「亮介ーー!ありがとーーー!」




