魔王との決戦(2)
突入してすぐにオレは結界を張る。これで多少の物音も声も外に聞こえないはずだ。
同時にアルとクリフは魔王に切りかかって行った。
魔王はオレ達が突入すると同時にベッドから飛び起きていた。傍らの剣を掴むと同時にアルの剣を弾いた。クリフを蹴飛ばしながら「&$%#%$」と叫んだが、オレ達の姿を認めると
「〝救国の四星〟の皆様か。招待した覚えは無いのだがな」と不敵に笑った。
クリフより更に一回り大きい堂々とした体躯。青みがかった肌。豊かな銀色の髪の中から捩れながら上に向かって突き出した二本の大きな角。手は鱗に覆われているように見える。顔立ちは非常に端整で金色の瞳がオレ達を圧倒するように爛々と輝いていた。
魔王を見るのは初めてだ。アニメではシルエットでしか出なかったから。そして魔王との最終対決を見る前に事故で死んでしまったから。ここからは見られなかったアニメの続きだ。
「フッ……俺達の国を救うためとはいえ、寝込みを襲うのは性に合わなかったんだ。互いに武器を持った状態なら遠慮は要らないな」
クリフは床を蹴って魔王に切りかかる。二度、三度とものすごい速さで切りかかるクリフを苦笑を浮かべていなしながら反対側から切りかかろうとしたアルに雷撃を飛ばす。オレはアルの前に障壁を張って雷撃を防ぐ。今度はオレから雷撃をお見舞いするも障壁で防がれる。その隙を狙ってアルが聖剣を叩きつける。
魔王は今度は剣で受け凄い速さで切り結ぶ。クリフの剣は腕の鱗で受ける。凄い力で切り付けられた筈なのに傷一つついていない。
やはりとてつもない強さだ。でも絶望感に襲われている暇は無い。オレ達はやり遂げなくちゃならないんだ。クリフに手刀が繰り出される。避けたところに回し蹴りがヒットした。壁まで吹っ飛ばされ体を強く打ち付ける。
「クリフ様!」
サーラが駆け寄り治癒魔法をかける。オレはクリフとサーラの前に障壁を張りながら魔王の隙を窺った。
どこかに隙があるはずだ……しっかり見るんだ……
魔王がアルに襲い掛かる。固い鱗に覆われた拳が飛んでくる。避けたところに蹴りが飛んでくる。なんとか身をのけぞらせてかわすと横から手刀……目にも留まらぬ速さの連続技だ。
……え……待て……待てよ……
オレは駆け出した!
「アル!どけ!」
床を蹴って飛び蹴り、魔王が避けたところで着地と共に後ろ蹴り。魔王は手を交差してそれを受けると突きを繰り出す。横に飛んで避け、突いてきた手に手刀、魔王はもう一方の手でブロックすると共に蹴りを放ってくる。オレはそれをステップで避け………魔王に抱きついた。
「亮介!亮介だろ!」
亮介だ!前世のオレのライバル、空手の決勝戦で何度も対戦した亮介だ。何でコイツまで転生してるのかわかんねーけど亮介なんだ。
魔王は驚いてオレを見る。
「拓海?本当に拓―――」
「リア!大丈夫か!?魔王め!リアを離せ!」
アルが聖剣を振りかぶっていた。
「わーーーーー!待って!アル!待って!違うんだ!こいつは魔王じゃないんだ!いや、魔王なんだけど魔王じゃないんだ!」
オレが魔王の前に庇うように立ちふさがると皆唖然として動きを止めた。
「みんな、ちょっと落ち着いて―――」
「サーラ、リアが何か術をかけられたのかもしれない。解除でき――」
「違うから!オレは正常だから!」
「リア様、早くこちらへ!」
みんな聞く耳持ってくれない……
「亮介ぇ……」
振り返ると、魔王が口を開いた。
「勇者よ、なぜ私を殺そうとする」
「お前が私達の王国を侵略しようとしているからだ」
「私はそのような事しようと思った事は一度も無いのだが……」
「では、なぜ復活した?500年前の野望を実現するためではないのか?」
魔王は苦笑した。
「復活も何も……私は500年前の魔王とは別人だ。アレは私の曽祖父だな。そして私は魔王になって在位50年だ」
今度こそ俺も含めて全員が絶句した。
落ち着いて話し合おうと倒れたテーブルや椅子などをもとに戻し全員で座った。
いや、クリフはまだ警戒して立ったまま剣の柄に手を掛けている。
サーラはオレが魔王の傍に行かないようにオレの手をぎゅっと握っている。
アルが警戒しながら口を開いた。
「在位50年とはどういうことだ?私達はお前たちと同じ魔族、ヴェルナーヴという者から『魔王が復活した。早く倒さなければ魔族の大群が侵略してくるぞ』と教えられ、はるばる魔大陸までやってきたんだ」
「ヴェルナーヴは……私を殺して王位を簒奪しようとした、私の叔父だ。
暗殺が失敗して牢に入れられ何者かに手引きされ逃げ出したんだが、そうか、お前達の大陸に渡っていたんだな。魔王が復活したと言ったのはその方がお前達の危機感を煽れると思ったのではないか?
500年前のように〝救国の四星〟とやらが私を殺してくれたら好都合だからな」
なんてことだ!魔王の侵略なんて最初から無かったんだ……がっくりと力が抜ける。
「お前の言うことが真だとどうして言える?」
クリフはまだ疑っている。無理もないよね。オレも亮介の言葉じゃなきゃ信じられない……
「え?亮介って今いくつ?」
「70歳くらいだな」
「え……ジジイじゃん。見えないけど」
「竜魔族の寿命は300年近くあるからな。まだ青年だ」
「リア、さっきから言っている〝りょうすけ〟って何だ?それになんでコイツにそんなに馴れ馴れしいんだ?」
なんかアルの声がめっちゃ不機嫌だ……
「それについては追々説明しよう。今は混乱するからな。
それより、騎士よ、お前はこの魔大陸に来て、魔族の生活を見てどう思った?侵略の必要性を感じたか?」
魔王の問いかけにクリフはじっと考え込んだ。
「私が魔王に即位して50年、このやせた大地に根付く植物を探し、品種改良し、民が飢えぬよう尽力してきたつもりだ。街道も整備し経済の発展にも力を注いだ。わざわざお前達の大陸を侵略しに行く必要がどこにある?―――それが答えだ―――」
「侵略するつもりが無いのならなぜ私達の言語を喋れるのだ?」
「それについては、いつか人間達と友好を結びたいと考えていたからだ。私が即位してから獣魔族にはお前達の国の言語を喋れるよう義務付けた」
ヴェルナーヴも同じように友好を結びたいと言っていた。その言葉を聞きながらオレは胡散臭い感じをぬぐえなかった。同じ言葉でも亮介の言った言葉は信じられる。こいつは前世は人間だったから……
まだ、完全に信用したわけではないが、アルもクリフもサーラも一応は納得したようだった。
と、言う事はオレ達がここに来る前に匿ってくれたスーネイル卿とかいう魔族もヴェルナーヴの味方で亮介を殺そうとした一味って事か。……サンテも……
オレ達これからどうしたらいいんだろう?双新月の日を待って帰ればいいのかな?
「これからのことについて話し合いたいのだが」
亮介、いや魔王がいった。
「申し訳ないがお前達の事は暫く伏せさせてくれ。ヴェルナーヴによる暗殺未遂と逃亡、それを手引きした者全てを把握している訳ではない。何人かは判っているが泳がせて一網打尽にしたいのだ」
魔王はそう言った後辺りを見回した。
魔王の寝室だけあってかなり広く豪奢ではあったが、今は家具は引き倒され壊され調度品は砕け散り、壁にも無数の疵やへこみがある。惨憺たる有様だった。
「とりあえず、ここは落ち着かんな。場所を変えて話し合おう」




