魔族の実態(4)
その後、アルとサンテにしこたま怒られた。アルはわかるけど、サンテも段々口うるさくなってないか?しょうがないじゃん、体が先に動いちゃったんだ。
オレのことは怪我で顔に醜い傷があるからとかなんとかごまかしてくれたらしい。あの男も深く追求しなかったみたいだ。人間だってバレてたと思うけど。「ありがとう」って言ってたし……そのことは黙っていた。言ったら今の比じゃないくらい怒られる……なんかあの男も秘密にしてくれたから絶対黙っていることにしよう。
七日間馬車に揺られオレ達は魔王城のある都、ザグローヴに入った。
これから身を寄せる屋敷はスーネイル家という蛇の獣魔族の家らしい。てっきりサンテと同じ狼の獣魔族の家かと思っていた。サンテに問いかけると「私は一族の異端者ですから」と寂しそうに笑った。
屋敷に入ると出迎えてくれたのは初老の男性だった。上等な衣服を着て優雅な仕草から彼がこの屋敷の頭首であり魔王国の中で高い地位に在ることが推察される。勿論青みがかった肌に二本の角がある。角はとぐろを巻くように頭の脇に張り付き、白目が黄色く瞳孔が縦に裂けていた。
あの盗賊団の首領だった男と同じだ。あの男は蛇の獣魔族だったんだな。
「サンテ様、今までご苦労様でした。この後は我々に任せゆっくりお休み下さい」
「スーネイル卿、ご協力感謝する」
スーネイル卿はサンテに対しへりくだった態度で接した。サンテのこんな言葉遣いも初めてだ。
え?もしかしてサンテって偉い人だったの?
「ヴェルナーヴ様はお元気でいらっしゃいますか?」
「問題ない。ヴェルナーヴ様は無事彼の大陸に渡り、彼らのような協力者を得ることに成功された。彼らの力をもって魔王様を倒すことが出来れば、彼の大陸への侵攻を阻止し、彼の大陸の人々とも友好な関係を築くことができるだろう」
サンテの言葉にスーネイル卿は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すぐ笑顔になり
「左様でございますな」と頷いた。
客間に案内され、湯浴みもさせてもらい久しぶりにさっぱりした。
案内してくれたメイドは最初怯えたような表情をしていたがにっこり笑いかけるとぎこちなく笑みを返してくれ、身振り手振りで入浴準備やその他かいがいしく世話を焼いてくれた。
その日の夜、オレはなかなか寝付けないでいた。体は疲れているはずなのにいろいろな事を考えているうちに目が冴えてきてしまい、何度も寝返りをうつ。えーい、もう起きてしまうか?と思ったときに小さくノックの音がした。
え?誰?
パッとドアを開けるとアルが立っていた。
「お前、無用心過ぎるだろ。相手を確かめてから開けろよ」
「夜中に乙女の部屋に来るやつに言われたくないね」
「なんか眠れなくてな。ノックして返事が無かったら戻ろうと思ってたんだけど……
入っていいか?」
オレは無言で体を横にどけた。アルは部屋に入ると「ドアは開けておいた方がいいか?」と聞いたので「今更だ」と言ってドアを閉めた。
部屋のソファーに二人で腰掛ける。
しばらくお互い無言で……なんかだんだん落ち着かなくなってきた……今まで一緒に野宿もしたし、馬車の中でも一緒に寝た。今更……でも……待てよ?考えてみたら部屋の中に二人きりで居るのは初めてだ。
気がついたらもっと落ち着かなくなってきた。やっぱりドアを開けようと腰を浮かせかけたときアルがポツッと言った。
「ついにここまで来たな」
「そうだな。後は魔王城に乗り込んで魔王をやっつけるだけだ」
「順調過ぎるほど順調だよな」
「うん。魔王は強いだろうからこれまでみたいにはいかないかもしれないけど」
「なあ、お前は魔族に対してどう思った?」
「オレは……この大陸に来る前は魔族ってもっと残忍で憎むべき存在なんだろうと思ってたよ。魔大陸に行ったら魔族が沢山襲ってきてそれをなんとかやっつけながら魔王城に辿り着く。そして決死の覚悟で魔王を倒す。みたいな……」
「ああ、俺もそう思ってた。でも、今まで会った魔族は姿こそ違うけど中身は俺達人間と同じだ。
……それにこの国、平和すぎないか?」
うん、平和だ。勿論オレ達の大陸の方が土地は豊かだ。この大陸は草木もあまり生えないような荒れた土地もところどころ見かけた。それでも人々は必死に作物を植え、貧しいなりに生活を楽しんでいるように見えた。街道は整備され、都市も出来ている。
「え?平和なのは良い事だろ?」
「勿論そうだ。でも魔王は俺達の国を侵略する為に着々と準備を進めているんだろ?お前、そんな気配感じた事あるか?」
「まったく無い」
「だろ?準備って何してるんだ?そもそも魔王は何の為に俺達の大陸まで侵略戦争に来るんだ?」
「500年前の恨み?」
「かもな。しっくりこないけど……」
「でも、ここまで来たら魔王を倒すっきゃないよな?」
「そうだな。魔王を倒せば侵略戦争の危機はなくなる。ここに住む魔族の人達も戦争に駆り出されることもなくなる……」
突然アルはオレの手を握った。
「ひゃ!な……何?」
「お前……無茶すんなよ」
「む……無茶って……前も言ったけど無茶しなきゃ魔王なんて倒せないだろ」
「いいか、魔王と直接戦うのは俺とクリフだ。お前はサポート。そして……もし俺とクリフがやられたら……サーラを連れて逃げろ」
「やだ」
「リア」
「やだよ。オレだって戦える」
マズい、涙が出てきた……止めようと思ってもポロポロこぼれてくる……
アルは席を立って俺の隣に腰掛けた。両手で頬を包んで瞼にキスを落とす。
それから背中をゆっくりゆっくりさすってくれた。
「ごめん、俺の言い方が悪かったな。勿論リアの戦力は当てにしてるよ。四人で力を合わせなければ魔王を倒す事なんて出来っこない。大丈夫だ。大抵の怪我はサーラが治してくれる。お前だって障壁を張ったり魔術で援護してくれるだろ。クリフの強さもわかっているじゃないか。大丈夫、大丈夫。俺達は強い。魔王になんて負けない。……でも……もし……俺達の力が及ばなかったら……お前だけでも生きていて欲しいと思ってしまったんだ……」
「さ、この話はお終いだ。もっと楽しい話をしよう。お前の子供の頃の話を聞かせてくれ」
アルは気分を切り替えるように明るく言った。
それからオレ達は寄り添って空が白み始めるまでいろんな話をした。
だんだん調子に乗ってきたオレはつい、義母や義妹に始めてあったときの話や、子分達と庭の木に登ってメイドを卒倒させた事などを話してアルに大笑いされた。
アルが自分の部屋に帰り、少し仮眠を取った後、オレは激しく後悔した。
ううっ……なんなんだ昨夜のオレは……泣くし……黒歴史は喋っちゃうし……
昨夜の記憶よ、アルの頭から全て無くなれ!と強く念じたオレだった。




