魔族の実態(3)
三日間山道をひたすら歩き、今オレ達はある山の中腹に潜んでいる。山中の移動は人目に触れないので気が楽だった。魔物には出くわしたが、オレ達の敵ではない。むしろ何度か黒焦げにして夕飯が~と嘆かれた。ここを下ればヴァートンという町に出る。そこそこ大きな町らしい。商店が立ち並び、馬車が行き交い、人(魔族)も多い。獣魔族もいるらしい。
「私は馬車を調達してきます。この場所から絶対に動かないで下さい。フードを目深に被って。くれぐれも姿を見られないように」
サンテが珍しく強い口調で言って出かけていった。
半日ほど待ってようやくサンテが戻ってきた。
「馬車はここから少し下ったところに停めています。この辺りはあまり民家もありませんが姿を見られないように注意して下さい」
「馬車に乗って何処へ向かうんだ?」
アルが問いかける。オレ達はこの魔大陸では右も左もわからない。サンテがとんでもない場所に連れて行ったとしてもどうにも出来ない。まあそんなことをしてもサンテには何のメリットも無いだろうから、結局は信用して任せるしかないんだけど……
「魔王城のある王都です。ここから馬車で七日くらいかかります。王都に着くまで馬車から出ないようにして下さい。街道の人目が無い場所でなるべく外に出る機会を作るようにしますが、眠るのも基本馬車の中でお願いします」
もっともだ。オレ達はこれからこの国の王様を倒しに行くんだ。用心に用心を重ねるのが当たり前だ。
「王都に行ったら魔王城に乗り込むのか?」
オレが聞くとサンテは少し呆れたようだった。
「そんなことをしたら速攻捕まりますよ。
王都に協力者がいます。まずはその協力者の屋敷に行きます」
人目を避け馬車に乗り込む。中に入ってホッと息を吐いた。馬車は四頭立ての大きなもので便宜上馬車と言っているが引いているのはロルカという馬に似た魔物らしい。馬の倍の力とスタミナがあるといっていた。
馬車に揺られて三日。旅は順調だが、外に出られないのは辛い。サンテはなるべく外に出る機会を作ってくれているのだが……
馬車が街道を逸れた。木立の奥、街道から見えにくいところで馬車が停まった。
「休憩にしましょう。この辺りなら街道から見えないでしょう。」
サンテが声を掛けてきた。外へ出て伸びをする。
サーラとクリフは少しその辺を歩いてくるといって出かけていった。
「リア様、ロルカに水をやってもらえますか?」
サンテの言葉に、水魔法で水を出してロルカに与える。これで他の馬車がが休憩する水場で馬車を停めなくて済む。しばらく水をやりながらロルカの背を撫でていた。何故かアルも一緒に撫でていた。
「#%&$%#」
吃驚した。思わす被っていたフードを更に引き下げ、手も袖口に隠した。アルもフードを引き下げながらさりげなくオレを庇うように前に出る。
急いでサンテがやってきた。
「$&%#&$?」
「&$#%$&%$#」
「馬車の車輪が溝にはまったようです。手を貸してくれと言っているので行ってきます」
小声でオレ達に告げサンテはその男性と歩いていった。フードの隙間から見たその男は立派な体格をしていた。背はクリフと同じくらい、アルより頭半分は大きい。体の厚みはクリフの倍近くあるように見える。豊かな褐色の頭髪が背中までふさふさと波打ち短いが太い立派な角が生えている。普通の魔族とは明らかに違っていた。
「獣魔族だよな?」とアルに問いかけると、アルも「多分そうだ」と頷いた。
その時オレは木立の向こう、サンテたちが消えていった方角からよちよちと小さい子供が歩いてくるのが目に入った。その子供はご機嫌そうに手に持った草を振り回しながら街道のある方角へ歩いていく。
なんとなく気になったオレは距離を開けながらその子供の後を追いかけた。アルも一緒だ。
子供はよちよちと街道に向かって歩いていく。危ないなとは思ったがその子供に近づく訳にも誰か呼んでくる訳にも行かない。街道はそんなに頻繁に馬車や馬が通るわけではない。そのうち気がついで誰かが探しに来るだろう。ハラハラしながら後をついていく。
ついに子供は街道に出てしまった。相変わらずご機嫌そうによちよちと歩いていく。と、カッカッカッ……と蹄の音が聞こえた。遠くから凄い勢いで馬が駆けてくる。馬上の男は小さい子供に気がついていない。
――危ない――と思ったときにはもう飛び出していた。必死に駆け、子供を抱きこんだ。と同時に前方に障壁を張る。
間一髪、馬は障壁にぶつかって止まった。馬上の者も投げ出されずに済んだようだ。どうどうと必死に馬を落ち着かせている。
オレは脱げそうになっていたフードを引き下げた。……大丈夫、見られていない筈だ……この子以外には。
後ろを見るとアルが腰の剣を掴んでいつでも引き抜けるように構えているのが見えた。
しばらくオレの腕の中で固まっていた子供は突然火がついたように泣き出した。木立の中から先ほどの男と、同じような褐色の豊かな髪を結い上げ角にもアクセサリーをつけ、上品なドレスを着た女性が慌てて駆け寄ってくる。
姿を見られないよう注意深く立ち上がり、子供も立たせてその女性の方に押し出した。子供はよちよちと転びかけながらも必死に駆けて行き、女性に抱きついた。
――良かった――
先ほどの獣魔族の男がオレに近づいてきた。サンテが慌てて駆け寄りオレと男の間に体を滑り込ませる。
「&%#$%&##$」
「%&$###$&%」
何か二人で話し合いをしていたが、やがて男はオレに向かって深々と頭を下げた。
オレも頭を下げ、馬車の方に向かって歩き出す。男の横を通るとき男が小さな声で呟いた。
「……ありがとう」




