魔族の実態(2)
魔族の少女は怯えたようにオレを見ている。やべっ……フード被ってなかった――
「#%$!%#&%&#!」
「ゴメン。何言ってるかわかんねー」
年のころは10歳くらい?粗末な頭からすっぽり被るような服を着てベルトを締めている。皮の紐で縛るくつを履いていて、傍に木の枝で編んだような籠が落ちていて赤い木の実がこぼれ散らばっていた。
うーん、確かに肌は青みがかっているし角も生えているけど……なんていうか普通の女の子だよな。ベルトに赤い紐を使っていたり、髪に花を挿して精一杯おしゃれしているところもほほえましい。
オレは手を貸して少女を助け起こそうとした。少女は手を伸ばそうとして、不意に痛そうに顔をしかめた。
見ると、少女の足から血が出ている。ふくらはぎの辺りがざっくり切れていた。
「怪我してるじゃないか!」
マジックバッグから薬を出して塗り、布で縛る。これは応急処置だ。なんとかサーラの所へ連れて行って治癒してもらおう。もうこの少女が魔族なんてことは気にならなくなっていた。
少女は薬を塗るときに抵抗する素振りを見せたが、薬を塗り布で縛ると安心したように微笑んだ。肩を貸してなんとか立たせる。ゆっくり支えながらサーラの所へ連れて行った。
「サーラ!サーラ!」
「リア様、大丈夫でし……きゃっ!」
サーラは魔族の少女を見て悲鳴をあげたが、怪我をしていることを伝えるとすぐに駆け寄ってきて一緒に支えてくれた。二人で支え岩場に腰掛けさせる。
「アックスベアに襲われていたんだ」
「アックスベアは?」
「黒焦げにした。
治癒魔法を掛けてくれないか?」
サーラに頼むとオレは駆け出した。先ほどの場所に戻り、木の実を拾い集めて籠に入れ走って戻った。
オレの姿を見つけると少女はピョンピョン跳ねてオレを迎えた。良かった。治癒魔法を掛けてもらったんだな。オレの手に持った籠を見て驚いた顔をして嬉しそうに受け取った。
その後、少女は何度も何度も振り返って手を振りながら去っていった。
「#%$&&%#―――!」
最後まで何言ってるかわかんなかったけどな。
アルとクリフは鳥と小動物を狩って戻ってきた。血抜きや皮を剥ぐといった下処理済みだ。出来る男達め。木の実も採ってきたが、野草は毒の有無がわからないので断念したらしい。
サンテも戻ってきた。なんと野菜を持っている。近くの集落で分けてもらったんだとか。
「え、畑もあるんだ」
なんか王国の平民達の暮らしとそう変わんないな。
「ええ。最初は土地が貧しくて作物を作るのも大変だったんですけど、まお……皆が頑張って品種改良して大分収穫高が上がるようになったんです」
肉を串に刺して焼いて、サーラが骨で出汁をとった超絶美味い野菜スープも作ってくれた。(鍋や塩なんかもマジックバッグに入れてあった。サーラの助言で)
思いの外豪華になった夕食に超満足。オレ達は眠りについた。寝る前に結界を張るのも忘れなかったよ。
―――翌朝―――
「アル、気がついているか?」
「ああ、見張られているな」
アルとクリフはそっと起き出しリアとサーラの近くに寄る。
「サーラ、起きてくれ」クリフがサーラに小声で声を掛け、アルもリアに声を掛ける。
「リア、リア、起きてくれ」
オレはまだ半分夢の中。昨日は沢山歩いたんだ。もうちょっと寝かせてくれ……
「うーん、うるさいなアル……」
「しっ!小さな声で。魔族に見張られている」
オレはがばっと飛び起きた。オレが飛び起きたのを見て、十人ほどの魔族がこちらに押し寄せようとしたが、結界に阻まれて近づくことが出来ない。
「リア、合図と共に結界解除だ。俺とクリフが打って出る」
「3、2、1、今だ!」
合図と共に結界を解除。……と共にオレはアルに飛びついた。
「わーーー!!アル、待ってくれ!!」
「離せリア!いや嬉しいけど――って、そうじゃない!危ないから――」
「違う!違うんだ。敵じゃないんだ!」
サーラも必死にクリフを止めている。魔族の先頭にいたのは昨日の少女だった。
落ち着いて観察してみると、魔族たちは皆ペコペコしているように見える。
少女の横にいた年寄りの魔族が口を開いた。
「&%#$&%##。$&#&△%□#」
「あの……『孫を助けてくださってありがとう。お礼に村に招待したい』って言ってますが……」
サンテがためらいがちに通訳してくれた。
オレ達は村に招待され熱烈な歓迎を受けていた。
村の広場と思われる場所に大きな敷物が敷かれ、粗末な木の器には様々な料理が盛られ所狭しと並べられている。中央付近に座らされたオレ達は様々な料理や飲み物を勧められていた。
訳がわからない様子のアルとクリフに尋ねられたオレは昨日の顛末を語ったのだが、
「何で黙ってたんだ?」
「いや、あの、夕飯が美味くてテンション上がって忘れてたというか……」
アルにデコピンされた……
「%#$〇&ドルゴーン$#&」
村人達の言葉はわからないが何度もドルゴーンという言葉が出てくるのに気がついた。サンテに尋ねる。
「あの……皆さんは竜神様の使者かと聞いています」
ドルゴーンとは竜神のことらしい。
「竜神?」
サンテの説明によると自分達と姿かたちが違い、アックスベアを一瞬で倒した。しかも少女の怪我を一瞬で治したオレ達は竜神様の使いに違いないと。
竜神は魔族が唯一信仰する神であり、魔王は竜神と魔族の間に出来た子供の末裔として魔族たちの崇拝の対象であるらしい。
サンテのような獣魔族は王国での貴族のような立ち位置であり、サンテが同行していることからも間違いないと思われたようだった。
「魔族はオレ達人間のことを知らねーの?」
「私達獣魔族の者たちは知っています。貴方達人間は国土に攻め入られた過去を持つので魔族の存在を知っているのでしょうが、魔大陸の一般の魔族は人間の存在もここ以外の大陸があることも知りません」
最大限のもてなしを受け、オレ達は村を後にした。
村人達はまだオレ達を引き止めたいようだったが、「大切な使命がある。先を急いでいる」と通訳してもらった。使命にかかわるからオレ達に会った事は内緒にして欲しいと口止めもしてもらった。
村人達は沢山のお土産も持たせてくれた。嬉しかったのは昨日の少女がはにかみながら手作りのリボンを渡してくれたことだ。三色の紐を複雑に編んだリボンをオレとサーラに渡してくれ、オレ達はその場で髪を縛る紐をそのリボンに替えた。
それからオレ達は山道を黙々と歩いた。皆それぞれの考えに沈みこみ、口数も少なく、ただひたすら歩いた。
休憩時間、お土産の饅頭のようなものを食べながらアルがポソッと呟いた。
「いい人達だったな……」
「うん……魔族って残忍で恐ろしい存在だって教わって育ってきたけど……」
「姿かたちは違っても中身は俺達と変わらない、普通の人達だったな」
オレの言葉にクリフも同意する。サーラも頷いた。
「私、田舎の孤児院で育ったんですけど……久々に孤児院の仲間や村の人達のことを思い出しました」
「オレ達、あの村人達が崇拝するっていう魔王を倒しに行くんだ……」
オレの言葉にアルは首を振った。
「だからこそじゃないか?」
「だからこそ?」
「あの村人達を戦いに駆り出さないためにも魔王を倒すべきなんだ」
「そうだな。ヴェルナーヴみたいに俺達人間と仲良くしていきたいっていう魔族も少しはいるんだ。魔王を倒せばそういう魔族も増えるかもしれない」
クリフも同意した。サンテを振り返り確かめる。
「サンテ、そうなんだろ?魔王さえ倒せば侵略を食い止められるんじゃないか?」
問われたサンテはハッとしたようにみえた。今まで一人考え事をしていてオレ達の話を聞いていなかったみたいだ。
「え?ええ、そうですね……」
曖昧に返すサンテにサーラが更に問いかけた。
「そういえば魔大陸は言語が違うんですね。サンテは私たちの言葉を何処で覚えたんですか?」
そうだ!今まで会った魔族は普通にオレ達の言葉を話していたから考えもしなかったけど、言語が違うのがあたりまえなんだ。魔王が復活し、ヴェルナーヴが魔王に捕らえられ、それを助けて二人で脱出?いつ覚えたんだ?
「そちらの大陸の言葉は幼い頃よりまお……両親に教わったんです。獣魔族は皆喋れますよ。まお……先祖代々の教えです」
なんだか煮え切らない答えだがサンテはそれ以上何も話そうとしなかった。




