魔族の実態(1)
目の前は切り立った崖だった。高さ十数メートルもあるような崖がオレ達の前に聳え立っている。
サンテの話では船を左方向に進めればおそらく入り江があるだろうとの事だった。しかし入り江近くには当然人家があるだろうと。勿論魔族のだ。結局船を右方向に崖に添って進め、上陸できる場所を探そうということになった。ダメなら夜を待って入り江から上陸する。
しばらく船を進めると崖の一部が抉れ洞窟のようになっている場所があった。こんな小船なら余裕では入れる大きな洞窟だ。
「リア、あの洞窟に入れるか?」
アルの言葉に船を進め洞窟に入る。中はそこそこ広く岩壁の近くは岩が床のようにせり上がり上陸できそうだった。
船から上がり、船も引き上げ、岩陰に隠す。
洞窟の縁から外へ出て上を見上げた。
「サンテ、上まで登れるか?」
崖上まで十メートルくらいか?クリフの問いかけにサンテは頷いた。
「アルは?」
「あー、まあ多分」
「リアは?」
「んー、上からロープを下ろしてもらえば……」
魔術で風を起こして体を持ち上げてみるか?岩をぶっ壊して足がかりを作るか?
「じゃあこのほうが早い」
言うなりクリフはサーラをサンテの背中にくくりつけた。弓矢をアルに渡し、オレを背負った。落ちないようにしっかりロープで縛る。
「ちょっと、クリフ!」
オレの抗議に構わず指示を出す。
「サンテ、登ってくれ」
サンテはひょいひょいと危なげなく登っていく。サーラは下を見ないように固く目を瞑りサンテにしがみついていた。
「次、アル」
アルはちょっと不満げな目でこちらを見ると崖を登り始めた。
アルが崖を登り始めるとクリフが囁いた。
「リア、もしアルが落ちたら魔術で衝撃を和らげてくれ」
途中苦戦したところもあったがなんとかアルは崖を登りきった。
クリフは余裕だった。オレの重さなんか何にも感じていないように凄いスピードで崖を登っていく。
身体強化恐るべし!クリフは内向きの魔力で外には放出できないから魔術は使えないけど魔力量は相当多いらしい。
崖の上に着き小休止。これからの行動計画を立てる。
ここから大雑把に言って南東の方角に魔王の居城があるらしい。まずはこの山伝いに南東に移動する。この辺りは小さな集落しかないそうなので、山の中を移動すれば姿を見られずに済むだろう。山の中を三日も移動すればヴァートンという町に行き当たる。ここからは平地を移動することになるので、サンテが馬車を手配する。魔大陸にも馬に似たロルカという動物がいて馬車や荷車を引いているそうだ。
オレはちょっと吃驚していた。なんというか……魔大陸ってもっとおどろおどろしい所で魔族はもっと原始的っていうか……荒れ果てた荒野が続き、街なんか無いと思っていた。なんとなくそんなイメージを描いていたんだ。アニメでもそう描かれていたような?
考えてみればヴェルナーヴもサンテも普通に文化人の振る舞いをしていたし、生活上の道具も普通に使いこなしていた。今まで文化的な生活を送ってきた証だ。
今オレ達がいる山は自然豊かとはいえないが荒涼とした荒れ山という訳ではない。少しは木の実や食べられるものもありそうだ。魔物はオレ達の大陸より多いらしい。
「魔物って魔族の手下じゃないのか……」
オレの言葉を聞いてサンテが苦笑した。
「魔物と魔族は別物ですよ。貴方達の大陸だって人間と動物は別物でしょう。野生動物に襲われることもあれば飼いならして使役することも出来る。魔物は魔力を持った動物です。普通の動物より凶暴性は高いですが」
しばらく黙々と山中を歩く。途中二度ほど休憩を取り携帯食を食べまた歩く。太陽が中天を過ぎしばらくした頃小さな沢を見つけ今日はここを野営地にしようと決めた。
サンテは近くの集落を探ってくるといって出かけていった。アルとクリフは獲物を探してくるといって狩りに行った。オレも行きたいといったがお前は獲物を黒焦げにするからダメだと断られた。むーっ
サーラとしばし休憩する。岩に腰掛け沢の水で喉を潤す。
「よく頑張って歩いたな」とよしよしすると「リア様も」とよしよしを返してくれる。二人で微笑みあっていると遠くの方で悲鳴のようなものが聞こえた。
「サーラ、ちょっと待ってて。様子を見てくる」
素早く立ち上がると念のためサーラの周辺に結界を張って、オレは用心深く声のした方に近づいていった。まばらな木立を抜けると十メートルほど先に動くものが見えた。
―――アックスベアだ―――
オレ達の大陸でも出る魔物で腕の横に斧の様な物がついている熊型の魔物だ。凶暴で力も強い。
アックスベアは何かを追っているようだった。草むらに倒れた何かに近づき斧のついた腕を振り上げる。
―――危ない!
オレは咄嗟に風の刃をアックスベアの周囲に展開させる。アックスベアの注意がこちらに向くよう誘導する。アックスベアがオレを見て咆哮をあげる。こちらに突進し、倒れた者から十分離れたのを確認してオレはヤツに火球をたたきつけた。黒焦げだ。
ヤツが完全に動きを止めたのを確認して、オレは倒れた何かに近づいた。
「大丈夫か?」
「#$%&*◎!」
俺が助けたのは魔族の少女だった。




