魔大陸へ(2)
出港の日を迎えた。
朝食を済ませ馬車で港へ向かう。今までは商会の若奥様といった服装をしていたが、今日からは違う。
丈夫な生地の長袖、長ズボン。皮のベストに幅広のベルト。足は膝下まである皮のブーツだ。腰に魔術師団から借りた貴重なマジックバッグをつけ、腰丈のフード付きマントを羽織る。髪は頭の後ろで一つに結んだ。―――これいい!めっちゃ動きやすい!
他の三人も似たような格好をしているが、アルとクリフは腰に剣(アルは聖剣)と大型のナイフも下げていた。クリフは弓矢も背負っている。オレとサーラは小さいナイフだけだ。慣れない刃物を持つと怪我するからね。髪を一つに結んだサーラも新鮮で可愛い。あ、髪色は元に戻した。
港で馬車を降りると第三騎士団の皆が待っていた。メルローク副団長と握手を交わし船に乗り込む。少し離れた場所でロッドやウィルを始め騎士団の皆が騎士の礼をして見送ってくれた。
この港から大型船に乗り三日ほど。〝死の海域〟手前で双新月の夜を待つ。船にはキックスマー侯爵と王都から駆けつけてきたカルルック第二騎士団長も乗り込んだ。海は凪いでいて、問題なく予定海域まで到着できるそうだ。
三日後夕方、船は停泊していた。この先に〝死の海域〟があるそうだ。海は凪いでいる。
「渦なんか見えないけど?」
オレが問いかけると近くにいた船員が笑って答えた。
「ここから見えるほど渦に近づいたら巻き込まれてしまいますよ。あの見張り台からなら見えますけどね」
上を指差す。見上げるとマストのはるか高いところに見張り台が見えた。
「見てくる!」
オレがロープをするする登っていくと船員がびっくりした顔でこっちを見ていた。
見張り台に到着するとそこにいた船員もびっくりした顔でオレを見ている。
「〝死の海域〟って?」
オレが問いかけると黙って指差した。
遠くの方に海が渦巻いているのが見えた。その辺りは海の色も違って見える。様々な方向から海が渦を巻き、波しぶきが上がりうねっている。それが見渡す限り続いているのが見えた。
思わずごくっと唾を飲み込んだ。
「リア」
オレを呼ぶ声に下を見るとアルがすぐそこまで登ってきていた。
「お、おれ、下に降りています。もう少ししたら交代のヤツが登ってきますんで」
止める間もなく船員は降りていってしまった。
アルが登ってきて隣に立つ。
「凄いな」
オレも頷く。言葉も出ない。これからあの渦の中を通っていくんだ……
くちんっ 小さくくしゃみをするとアルがオレの肩を抱いた。
「な、何してんだよ!」
「くっついていた方が寒くないだろ」
そらそーだけど……
太陽は大分傾き海を赤く染め始めていた。何処までも続く大海原。その彼方に見える大きな渦と波しぶき。それらを全て赤く染めながら太陽が沈んでゆく。
「綺麗だな……」
ポツンとアルが呟く。
「うん」
オレ達はただ海をみていた―――
今この瞬間は恐れも気負いも無い。
―――ただ海を見ていた―――
暗くなる前にオレ達五人は小船に乗り移ることにした。この船はオレの魔力を動力に変えて進む。
キックスマー侯爵、カルルック第二騎士団長と握手をかわす。
「あなた方にばかり重荷を背負わせてすまない。殿下、皆様もご無事のお帰りを祈っております」
キックスマー侯爵が頭を下げる。
「スティングレイ、早く帰って来いよ。いつまでも帰ってこないと私の第二騎士団が第三騎士団を乗っ取ってしまうかも知れんな」
カルルック第二騎士団長が声をかけるとクリフは笑って「ああ。後を頼む」と二人で拳をぶつけ合っていた。
辺りが暗闇に包まれて(大型船の灯りがあるから真っ暗ではないけど)少し経つとゴゴゴゴゴ……という地響きのような音が聞こえしばらくすると静かになった。
「道が現れたようです」
サンテの言葉を聞き魔術で閃光弾を打ち上げた。
パアッっと眩い光が海を照らす。
「道が!道が現れています!」
見張り台からの声を受け、その方角に小船を進める。へさきには魔術灯を灯しているから閃光弾の光が消えても周囲は見える。しばらく進むと―――おおっ!確かに道だ。周囲の海はうねり渦を巻いているのにその真ん中にぽっかりと凪いだ道が真っ直ぐ続いていた。
あ……このシーンも覚えがある。オレのポンコツ頭はその情景にぶち当たらないとアニメのことを思い出さない。思い出しても細かいストーリーを覚えていないんだから意味無いけど。
小船は凪いだ道を進んでいく。オレ達は小船の脇、そのすぐ向こうに渦巻く荒れた海を息を潜めるように見つめていた。
どのくらい時間が経ったのか……オレ達はついに道を通り抜けた。ホッと息を吐き皆で抱き合って喜んだ。
マジックバッグから携帯食を出し、皆で簡単な食事を済ませ再び船を進める。辺りが薄明るくなってきた頃前方に大きな影が見えた。
―――魔大陸だ―――
ついに魔大陸にやってきたんだ―――




