魔大陸へ(1)
翌朝、オレ達は港町カストゥールに向けて出発した。
ロッドが御者を買って出てくれたので、四人で馬車に乗り込む。大型の馬車なので四人で乗っても余裕があるはずなのに、大柄のクリフが乗ると狭くなったように感じる。
馬車は一路カストゥールを目指す。
しばらくの間連日の疲れからか皆、ぼーっと揺られていたがアルがためらいがちに口を開いた。
「なぁ、俺はダマスカヤ峠の盗賊団と今回の魔族の一味、この二つに違和感を感じているんだが……」
「どちらも魔王の命令で魔族がこの国に潜入して人々を苦しめているんじゃないですか?」
「確かに。ダマスカヤ峠では魔族の男は姿を隠していない。魔族の仕業だと広まっても構わないように見えます。それに引き換え今回の鉱山では姿を隠そうとしています」
サーラの問いにクリフが答える。
実はオレも気になっていた。ダマスカヤ峠の魔族は恐怖で盗賊団を支配していた。残虐でいわば魔族らしい魔族だ。フェルベで捕らえた魔族マストゥは、本性は判らないが気の弱そうないわば普通の人間と変わらないように見えた。魔族にも個性があると言ってしまえばそれまでだが。ダマスカヤ峠の魔族は恐怖に人々を落としいれ魔族の恐ろしさを見せ付けているように見える。
「鉱山の方は魔族が関与していることを隠したかったんじゃないですか?」
「何の為に?」
「それにデニーや商人達に姿を見られたのは誤算だったとしても、ミラルーシェの前には普通に姿を現してたぜ?」とオレが言うと
「令嬢に関しては生きて開放するかは判りませんよ」
クリフはシビアだ。
「そもそもなんでダイヤモンド鉱山や鉄鉱山を秘密裏に欲しかったんだ?」
アルがまた問いかける。
「ダイヤに鉄……資金と武器か?」
「通常ならそうでしょうね」
オレの返答にクリフも同意した。
「戦争をするのには資金も武器も大事だ。俺達人間同士が戦争するのなら」
「どういうことだ?」
意味がわからないオレにアルがもう一度説明してくれた。
「魔王は海の向こうから魔族を引き連れ攻めて来るんだよな?この国に来てから食料や装備を買ったり武器を支給したりするのか?」
「!」
確かにおかしい。魔王の意図が読めない……
「とりあえずこのことについては手紙を書いて宰相に報告しておくよ。向こうでも調べてくれるだろう」
そういえばオレ達四人は魔大陸に渡り、魔王と戦うわけだが、それ以外の人々全てがのほほんと吉報を待っているわけではない。
宰相を中心として〝救国の四星〟サポートチームなるものが作られ魔族に関する目撃情報や、500年前の文献を調べて魔王に関する情報を集めている。オレ達の行動に対するフォローも行なってくれる。
アッシュマイヤー、ロゼッタール両公爵家を中心に王国各地での不審な事件を調べ、魔族が関与していないか調査し、警戒してくれている。
魔導師団もカストゥール、その他の港町に魔導師を常駐させ警戒に当たっている。
今同行している第三騎士団はそのまま港町カストゥールに駐屯し、魔族の襲来に対し警戒に当たる。カストゥールの領主キックスマー侯爵もカストゥールに滞在し、船団を出して周辺の海の警戒に当たる。――オレ達が帰ってくるまでずっとだ。
勿論一般の民衆には知らされていないから日々の生活を営んでいる訳だが、こうやって影で精一杯オレ達を支えてくれる人たちがいる。こいつら他力本願じゃね?とかオレ達に丸投げかよ……とか思って悪かったとちょっと反省した。
順調に旅を続け、オレ達はカストゥールに到着した。
双新月の日まで後五日に迫っていた。
カストゥールでは諸手を挙げて歓迎された。キックスマー侯爵に。
ここで第三騎士団と別れ彼らは港近くに新たに造られた駐屯地に、オレ達はキックスマー侯爵の屋敷に滞在する。キックスマー侯爵は領都に大きな屋敷があるが交易の要所であるカストゥールにも屋敷がある。
今までマントとフードで姿を隠し、第三騎士団と行動を共にしてきた魔族サンテもこれからはオレ達と行動を共にする。
オレはサンテに聞きたいことがあった。
ヴェルナーヴとサンテ、盗賊団首領の魔族とマストゥ、今までに見たことのある魔族は皆姿が違いすぎる。角があるところと青みがかった肌は同じだが、角の形も違うしその他の特徴も違う。マストゥなんかカラスに変化した。
サンテもカラスになれるのか?それとも他の動物に?魔族は一人一人こんなに違うものなのか?
次の日は休息日だ。ここまでの旅の疲れを落とし明日の出港に備える。〝死の海域〟までは大型船で三日程かかる。明日には出港し〝死の海域〟の手前で待機する。
朝食後、オレは三人を誘ってサンテの部屋に向かった。サンテは一室を与えられているが、外に出る事は勿論禁止だ。食事も部屋で取る。部屋の前には兵士が二名立っているが、オレ達は顔パスだ。
兵士に頷いてオレ達は部屋に入った。
「王太子殿下、アッシュマイヤー公爵令嬢、聖女サーラ様、スティングレイ団長おはようございます」
サンテは頭を下げた。
「サンテ、明日から私達は共に魔大陸に渡り一緒に行動する。魔大陸は未知の世界だ。お前は私達にとって頼みの綱だ。これからは私のことはアルと。こちらの三人はリア、サーラ、クリフと呼んでくれ」
「では、アル様、リア様、サーラ様、クリフ様と呼ばせていただきます。
それでどのような用向きでございましょう」
うーん固い!サンテの態度はへりくだっているが見えない壁を感じさせる。もう少し打ち解けないと、聞いた事に答えてくれてもホントなのかウソなのか一部隠して話しているのか判断が出来ない。
まあ聞くだけ聞いてみようと思いオレは先ほどの疑問をぶつけた。
サンテの説明によると魔族というのは三つの種族に分かれているらしい。
魔族の九割は青みがかった肌と角はあるが、人間とそんなに変わらないらしい。魔力も王国の平民レベルだとか。残りの一割弱は獣魔族と呼ばれる者たちで獣の性質を持った魔族である。獣魔族は獣の種類によって更に種族が分かれるが、普通の魔族に比べ格段に魔力が高く、種族によって能力が異なる。変化ができるのはカラスの獣魔族だけで、サンテは狼の獣魔族なので鼻が利いて身体能力が高いらしい。そして魔族の最上位は竜魔族である。ほんの一握りしかいない竜魔族は、強大な魔力を持ち寿命も長く身体能力も高いらしい。魔王は竜魔族である。
魔王の力は絶対的であり、他の魔族は魔王に逆らえない。圧倒的な力の差があるからなんだと言う。
ヴェルナーヴはよく逆らえたな。だから王国に逃げてきたのか?
そしてオレ達はそんな凄いヤツと戦うのか。
でも500年前は倒せたんだ。オレ達も絶対倒せると信じて進むしかない。
「大丈夫だ。俺達には強い思いがある。支えてくれる人たちもいる。必ず魔王を倒しこの地に戻ってくると誓おう」
アルの言葉に頷き、皆固く手を握り合った。




