鉱山騒動(7)
オレ達が落下地点に向かうと、マストゥは既に捕らえられ、縄を掛けられてぐったりと座っていた。落下したときの衝撃か体中傷だらけでずぶ濡れだ。屋敷にいた他の男達も全て捕らえられ一所に集められている。
ミラルーシェは騎士団に保護されホッとした表情を浮かべているものの気遣わしげにマストゥの方を見た。
「騎士様、助けてくださってありがとうございます。あの、彼は(と、マストゥを指差し)私が捕らえられている間親切にしてもらいました。魔族ですけど優しい人なんです。あまり手荒なことはしないであげて下さい」
言われた騎士団員は吃驚した。
「魔族が優しいって?カンタス伯一家全員を事故に見せかけて殺したって話じゃないか!」
「え………?」
ミラルーシェは一瞬何を言われたかわからないようだった。
ふらっとマストゥの方に歩み寄る。騎士団員が慌てて押さえた。
「え?…マストゥ、あなた、レオナードは開放されたって………君たちに危害は加えないって……え?……嘘でしょ?レオナードは生きているわよね……」
マストゥは頭を地面に擦り付けた。
「すまない……すまない……。そんなつもりはなかったんだ……君たちに危害を加えるつもりなんて……僕が知ったときには全てが終わっていて……」
オレはマストゥの言葉に吃驚した。コイツが一味のボスだと思っていた。魔王の命を受け、秘密裏にダイヤモンド鉱山と鉄鉱山を手中に収めるため暗躍しているんだと。今のコイツの言葉によると黒幕は別にいることになる……
「やあやあ!皆良くやってくれた!」
場違いな大声に皆が一斉に振り返る。
げ!大司教?何でこんなところにいるんだ?
相変わらずでっぷりした体を豪奢な法衣に包み、指には宝石のついた沢山の指輪。供の司教や司祭をぞろぞろ引き連れた大司教が鷹揚に近づいてくるところだった。
寂れた田舎町、その更に外れに建つうち捨てられたようなボロ屋敷……といった背景にミスマッチな事この上ない。
「大司教、なぜこちらに?」
「おお!これはこれは王太子殿下。ご苦労様でございます。
いやなに、ちょうど領都スラータの教会に所用がございましてな。ついでにイルラーク伯に挨拶でもとお屋敷に伺ったところ捕り物があると聞き、私如きにも何か手伝えぬかと駆けつけて参ったのです」
はあ?野次馬根性だろ?と思ったが続けて大司教は声を潜めてアルに囁いた。
「ヴェルナーヴを連れてきておりますでな。彼にその魔族を見せれば何か掴めるかも知れませぬぞ」
見ると、司祭たちの後ろに全身をマントで覆い、フードを目深に被った男が立っていた。
「わかった」
アルはオレとクリフを残すとマストゥ以外の一味を引っ立てて騎士団を下がらせた。大司教も司教司祭たちを下がらせる。この場はオレとアル、クリフ、大司教、マントの男、そして縄で縛られ項垂れているマストゥだけになった。
マントの男はゆっくり歩いてくると大司教の隣に立った。フードをゆっくり払う。
マストゥはビクンッと反応するとパッと立ち上がり、ヴェルナーヴに向かって駆け出そうとした。
オレには何故かマストゥの表情が嬉しそうに見えた。
一瞬の事で反応が遅れる。マストゥがそんな余力を残していたなんて思っていなかった。
「ひっ!」
大司教がのけぞると同時にヴェルナーヴの手から閃光が放たれる。
閃光はマストゥの体を貫き、マストゥは驚愕の表情を浮かべながら地面に沈んでいった。
「ヴェルナーヴ!!何てことを!!」
アルが叫びクリフがマストゥに駆け寄る。
「………ダメです。事切れています」
クリフの言葉を受けアルが詰め寄る。
「なぜ撃った。魔王に関する貴重な証言を得られたかも知れぬのに」
「申し訳ありません。大司教様に危害が加えられると思いとっさに撃ってしまいました」
ヴェルナーヴが頭を下げる。
「殿下、お許し下さい。ヴェルナーヴは私の命を守ったのです!!この国の宝、大司教である私の命を守ったということは、この国のいや人類の敵ではない事の証。褒められこそすれ咎められる事ではありませぬぞ!!」
だんだん興奮してきて口から泡を飛ばしまくし立てる大司教をアルはげんなりして手で制した。
「もうよい……」
それから騎士団を呼んでマストゥの遺体を人目に触れぬよう包み、一味の男達を引っ立てイルラーク伯爵の領都屋敷まで引き上げた。アルを始め騎士たちは馬を飛ばしてここまでやってきたので荷馬車を数台借り、一味とマストゥの遺体を乗せ、騎士達が監視しながら護送した。領都スラータで領兵に引き渡され取調べを受けることになるだろう。
オレ達は騎乗して先に領主のお屋敷に引き上げた。クリフがミラルーシェを乗せているのはいいとして、なんでオレがアルと同乗しているんだ?「一人で乗れる」と言ったら「余分な馬が無い」と即座に却下された。
領主のお屋敷に着くと、イルラーク伯、夫人、嫡男が走って出てきた。ミラルーシェも馬を降り駆け寄って皆で抱きしめ合い涙している。イルラーク伯爵はこちらを向き深々と頭を下げた。遅れて夫人達も頭を下げる。ふと見回すとお屋敷の使用人たちも全員深々と頭を下げていた。
なんだかこそばゆい。
お屋敷の中から誰かが出てきた。サーラだ。
オレはサーラに駆け寄った。
サーラはオレに抱きつき「リア様ご無事で良かったですぅ」と涙ぐんでいる。
オレはそん所そこらの魔導師より強いし魔族にだって負けない自信がある。ま、ちょっと油断はしたが……
サーラ達は昼過ぎにイルラーク伯爵のお屋敷に到着。突然の王太子の訪問に伯爵達があたふたしていたところにオレが消えたという一報が入る。
魔族の一味に捕らえられたようだとの報告に、アルは血相を変え到着したばかりの第三騎士団を引き連れ飛び出していったらしい。
クリフは一旦オレを見失ったものの、冷静に周囲を観察し、やがて教会から出てきた馬車が怪しいと狙いをつけ尾行。見事にオレ達が捕らえられていた屋敷を突き止め、アル達を待って突入したそうだ。
さすが出来る男クリフ。騎士団長は伊達じゃない。
まあ、そんな状況でアルが飛び出して行ったら心配だよね。オレはよしよしとサーラの頭を撫でた。
問題なのはそれらの連絡がピアスを介して行なわれた事である。通常の郵便や早馬では今回のケースは間に合わない。ピアスで通信するのは納得できるが、オレ達は直接ピアスの交換をしていない。つまり、連絡は全て宰相経由で行なわれたのである。
オレの救出(一人で脱出できたけど)と魔族を捕らえたとの報に、〝救国の四星〟サポートチーム(?)
の面々は歓声を上げたそうだ。……めっちゃ恥ずかしい……
あ、オレのピアスは無事戻ってきた。騎士団員がちゃんと見つけてくれましたよ。良かった。無くしたらめっちゃ怒られる。
オレ達はイルラーク伯爵のお屋敷に一晩泊めてもらい、明日、カストゥールに向かう。
今回の騒動で結構時間を食ってしまった。魔族の一味の謀略を阻止できたことは良かったが、またも魔族から魔王に関する情報を得ることは出来なかった。
仕方が無い。双新月の日は迫っている。後は魔大陸に渡り魔王を倒すのみだ!
決意も新たに眠りについた。




