鉱山騒動(6)
―――気がつくとオレは元はそれなりに豪華だったと思われる薄汚れた部屋に寝かされていた。
手足は縛られている。まあ、オレにとっちゃこの程度の拘束無いも等しいが。ピアスを取られたのがちょっと厄介かな? 貴族だと気付かれたかもしれない。ピアスは契約者個人の魔力を流さないと使えないから誰と通信したとか知られることはないけど。
周囲を見回していると部屋の片隅から声がした。
「気が付いた?大丈夫?あなた、どこか痛い所は無い?」
オレより少し年下に見える女の子が近寄ってきた。
「ここは何処?貴方は?」
「私はミラルーシェ・イルラーク。イルラーク伯爵の娘よ。ここが何処かは判らないわ。私、誘拐されているの」
ビンゴだ!おそらくここはオレがアニメで見た屋敷だ。そんなに長い間気絶していた感覚はないからフェルベの周辺の何処かだと思われる。
クリフはオレを探しているだろう。オレが教会らしき建物の裏口に飛び込んだときはまだ姿が見えなかった。オレを見失ったかも知れない。でも、周辺を捜索しているはずだ。
ミラルーシェを連れてここにいる奴らをぶっ飛ばして脱出するべきか?いや、まだ魔族の男を見かけていないし一味の規模も判っていない。もう少し情報収集が必要だろう。
「あの……私、リアーナといいます。フェルベの町でへ……変な男を見かけて追いかけたら捕まって……」
「変なって?」
「それが……青い肌をした男で……」
「ああ、マストゥね。魔族らしいわ」
ミラルーシェは事も無げに言った。その口調に恐れている感じは無い。それに一ヶ月近く誘拐されているにしては落ち着いている。彼女に詳しく話を聞いてみた。
ミラルーシェはカンタス伯の息子レオナードと一緒に誘拐されここに監禁されたらしい。当初は泣き叫び脱走もしようとしたらしい。魔族の男を見たときには恐ろしくて気を失ってしまったと言っていた。
「でもね、マストゥは優しい人だと思うの」
優しい人が誘拐なんてする訳あるかい!と思ったが黙っていた。魔族だし。
この屋敷にいる得体の知れない男達の中で一番やさしいのがマストゥだと言う。ミラルーシェとレオナードを痛めつけたり脅したりしようとする男達を抑えてくれ、逃げたり暴れたりしないという条件で拘束も解いてくれた。お風呂や食事等不自由しないように気を配ってくれているという。
「それに何度も謝ってくれるの。『こんな事してゴメン、君たちのお父上が我々の要求を呑んでくれたらすぐにでも開放するから。もう少しの間耐えてくれる?』って『絶対に君たちに危害を加えさせないから』って約束もしてくれたわ。『だから君たちが早く解放されるようにお父上に手紙を書いてくれ』って言われて私達、毎日せっせと手紙を書いたわ。そうしたら一週間前くらい?レオナードのお父様が要求を呑んでくれたから開放するよってレオナードだけ連れて行かれたの。『君のお父上も早く要求を呑んでくれるといいね。頑張って説得してくれ』って言ってたわ。
え?要求?何の要求かは知らないけど、命にかかわることじゃないし、お父様だったら無理なく叶えられることだって言ってたわ」
なんとも甘いっつーか危機感がないっつーか………。レオナードが殺された事は知らないらしい。教える訳ねーか。オレもしばらくは隠していることに決めた。パニックをおこされても厄介だ。
「縛られたままでは辛いでしょう?マストゥが来たら解いてもらうわね。大丈夫よ。暴れたり逃げたりしないって約束すれば解いてくれるわ。一日一度は顔を出して不自由が無いか聞いてくれるの」
その魔族が来たらひっ捕まえて脱出しようと決心しているとコンコンとノックの音がした。
おいおい随分紳士的だな……
「マストゥだわ」
扉を開けて入ってきたのは青黒い肌に真っ黒な髪を背中の中ほどまで伸ばした男。頭に二本の角も見える。―――魔族だ。
体に緊張が走る。
「手荒な事をしてしまってすまないね」
マストゥは優しげな声で話しかけてきた。
「君が何の為に僕を追っていたのか教えてくれるかな?君が誰で何の目的で僕を追っていたのか話してくれればその縄を解いてあげられるし、言ったことが本当だと判れば君を解放することもできるよ」
魔族を見たっつー人間をそんなに簡単に開放する訳ないだろ?と思いながら、うーん、コイツを捕まえて、屋敷にいる奴らを全部ぶっ飛ばして……なんて手順を考えていると階下の方でドーン!!と大きな音がした。屋敷が揺れる。
「なっ!?何が起こった!?」
マストゥが扉から出て行こうとする。
逃がすかっっ!!扉の前に障壁を張って出て行けないようにして、風の刃で縄を切る。
オレが立ち上がるのと同時にバタバタと廊下を走る足音が聞こえ、扉がバンッと開かれた。
「リア!!無事か!?」
アルがすごい勢いで部屋に飛び込んで来ようとして……障壁にぶち当たってひっくり返った……
なんかゴメン。急いで障壁を解除するとアル、クリフ、第三騎士団の騎士達がなだれ込んできた。
素早くミラルーシェを保護し、マストゥを捕まえようと振り返る。
マストゥは血走った目をして窓の傍に立っていた。マストゥが腕で窓ガラスを叩き割る。
「飛び降りるつもりか?ここは三階だぞ。飛び降りても騎士団が包囲している。お前は逃げられないんだ。
おとなしく捕まるんだな」
クリフがマストゥに近づこうとしたその時、マストゥの目が光った。
「カラスだ!!変化したぞ!!」
マストゥはカラスに姿を変え、窓から飛び立った。
―――逃げられる!―――
オレは急いで大きな水の球を作り出しマストゥにぶつける。水球がマストゥを包み込むとヤツはしばらく暴れていたが、力尽きて落下した。
オレ達はすぐに部屋を出て、ヤツの落下地点に向かおうと……オレだけ出来なかった。
アルに抱きしめられていたからだ。
え?なに?
「ア、アル!離せよ!あいつを捕まえなきゃ!」
「………クリフ達が行ったから大丈夫だ」
「にしたって!!」
しぶしぶアルはオレを離した。まったく、何だってんだ、コイツは………
「心配したんだ、リア。もう無茶な事はしないでくれ……」
「何だよ。オレは天才魔導師だぞ!こんな奴らに負ける訳無いじゃないか」
「でも君は女の子だ……」
「女だからって関係ねーよ!!あのなあ……オレ達は魔王と戦いに行くんだぞ?もっともっと無茶なことをしに行くんだ」
「わかった。俺のいないところでは無茶しないでくれ」
……もう溜息しか出ないが『善処する』とだけ言って屋敷の外へ向かった。




