鉱山騒動(5)
夕方、戻ってきたクリフ達と情報の交換をした。
クリフ達は馬で鉱山に出かけた。勿論サーラはクリフと同乗して。鉱山事務所の近くまで来たとき、事務所から一人の男が出てきたのが見えた。男は警戒するように辺りを見回すと、馬車に乗り込み去っていった。
鉱山事務所に入って所長に会いたいと告げると、たった今出かけたところだと言う。行き先を尋ねたが知らないという。黙って出かけたりフードを被った得体の知れない人物を事務所や鉱山に招き入れたりすることはよくあるという。『前の所長の時はそんなことなかったんですがね』と応対した所員は投げやりに言った。すぐさまお礼を言って外に出て馬車の消えていった方角へ馬を走らせる。しばらく走っていくと馬車が見えた。そのまま距離を保って跡をつける。
二時間近く走り馬車は寂れたような小さな町に入り、これまた寂れたような小さな酒場の前に停まった。男が中に入っていく。クリフ達も中に入りたかったそうだが断念したそうだ。
地元の馴染み客しか入らなそうな小さな店だ。入っていけば警戒させてしまうだろう。
周辺の店で買い物をしながら情報収集をする。この町は領境にあるフェルベという小さな町だ。特産品も無ければ名所旧跡も無いと小間物屋の婆さんが言っていた。『それでも住み慣れた土地が一番じゃが』と笑っていた。男が入っていった酒場についても聞いてみたが、『お前さんたち、あんな得体の知れない店にいくもんじゃない。特にそんなべっぴんさんを連れて行くのはだめだ』と怒られた。いつの間にか柄の悪いやつらが住み着いて店を開いていたというのである。大通りにもっと美味しい店があるからと勧められたらしい。
店を出て馬を飛ばしてやっと夕刻に戻ってきたのだという。
皆で相談し明日はここを引き払いアルとサーラは馬車でイルラーク伯領の領都スラータへ向かう。御者はロッド。領主のお屋敷に乗り込むのだ。
オレ達が立てた仮説はこうだ。
魔族の一味はダイヤモンド鉱山と鉄鉱山に目をつけた。鉱山の責任者と領主を抱きこみ横流しをさせようとした。領主の子供たちを誘拐し口止めをしながら交渉するも領主は拒否。交渉は暗礁に乗り上げた。そこで一味はカンタス伯の弟に目をつけた。カンタス伯一家を亡き者にしてしまえば弟が家督を継ぐ。弟を抱きこんでしまえばいい。
イルラーク伯には抱きこめるような血縁はいないし、一家の仲は良いそうなので嫡男を抱きこむのも無理だろう。しかし、事態はどう転ぶか判らない。令嬢をずっと監禁しておくのも無理が出てくるだろう。
一味はカンタス伯一家を殺した(推測ではあるが)令嬢の身にも危険が迫っているかもしれない。
オレ達が動けるのはあと二日ほどだろう。港町カストゥールに向かわなければならない。
優先すべきは令嬢を出来れば救出。そして魔族を捕らえて魔王の目的、情報を聞き出すことだ。
そのためアルとサーラはイルラークの領主屋敷に乗り込んで伯爵に会う。伯爵は当然アルの顔を知っている。髪色と服装で遠目にごまかせたとしても相対すれば一発だ。伯爵に正体を明かし協力体制をとったほうがいい。
ウィルは第三騎士団の駐屯地に向かい増援をつれてイルラーク領に向かう。
オレとクリフは領境の町フェルベへ向かう。
フェルベの町は怪しい。領都のような人が多いところでは魔族がずっと誰にも姿を目撃されずにいることは難しいだろう。令嬢を監禁しておくのも無理だ。フェルベのような寂れた町なら人目に着かない場所は沢山ある。鉱山事務所の所長が入っていった酒場だっていつの間にかやばそうな奴らが住み着いたって話だしな。それにフェルベからコロラド山の鉱山に向かう道の途中に馬車の事故現場があるんだ。
そんな訳でオレとクリフはフェルベの町に行って令嬢を監禁できそうな場所を探すことにした。
翌日早朝にオレ達は行動を開始した。
オレとクリフは馬を飛ばして、人々が仕事に向かう時間にはフェルベの町に着いていた。町の手前の森の中に馬を繋ぎ歩いて町に足を踏み入れる。
町に入った途端、オレは確信した。ここだ!ストーリーなんか全然覚えていないけどこの町のどこかうらぶれた情景は見覚えがある。鉱山のエピソードに出てきたシーンだ。この町の情景と共に脳裏にもうひとつの光景も広がっていた。荒れ果てた屋敷、周囲には民家が無い。その屋敷でオレ達がバトルを繰り広げているシーンだ。
絶対にあの屋敷はこの町、もしくはその周辺にある!
昨日の酒場の入り口は固く閉められていた。人の気配も無い。
酒場の入り口を見張って戻って来たヤツをとっ捕まえる、または尾行するか、この町を歩き回り監禁できそうな場所を探すか……
勿論オレは後者を勧めた。あの屋敷なら見ればわかるし周囲に民家が無かったから町外れのどこかだ。クリフには説明できねーけど。
町外れを重点的に探そうと提案し、馬のところに引き返そうと歩きかけて一人の男に目を留めた。
町は仕事に出勤する人々が足早に行き交っている。うらぶれた町にもそれなりに多くの人々が生活しているのだ。
少し遠いが通りの向こう側を歩くフードを被った男。風でフードが外れかけ慌てて押さえたその手が青黒かった!周囲を行き交う人は気がついていないようだ。
「魔族だ!」
クリフに囁いてオレは駆け出した。男が路地を曲がったのが見えた。
路地に駆けつけると、男が教会のような建物の裏口から入っていくのが見えた。慌ててオレも裏口に飛び込む。飛び込んだところで気を失った。扉の影に潜んでいた何者かに後ろから殴られたんだ。
―――不覚だ―――




