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第四十九話 長嶋航空参謀

前回のあらすじ:遂に訪れた、凪と七海のドッグファイト。その結果は七海の勝利に終わった。伊吹が心配していた凪の着艦も無事に終わり、一安心。

凪の艦艇生活の様子もしっかり観察し、蒼龍で生活できる事を確認。

その後、伊吹は久々の眠れない夜に遭遇する。

その様な時はいつも艦橋のデッキに出て一人、星を眺める伊吹。

だが、今日は航空参謀も居た。

 2月14日… 01:24… 艦橋左舷デッキ…


「司令」


「?」


「失礼を承知で申し上げますが、司令の容姿って、どちらかと言えばクール系ですよね」


「そう見える?」


「えぇ、そう見えます」


 そうか。そうなのか。

 ずーっと『可愛い』ばかり言われてきた為に、そんな事微塵も思わなかった。


「でも、実際こうやって話してみると、可愛いんですよ」


「…なんか恥ずかしいな」


 クール系…か。

 皆そう思っているのだろうか。


「………」


「………」


「…おかわりちょーだい」


「どうぞ」


「ありがと」


 ウイスキー、意外と良いね。気にいった。


「そういえば司令」


「?」


「最近、赤穂少尉の出番が少ない気がします。前はもっと多かった様な…」


「まぁ、そうだね」


「何かある度、赤穂赤穂と言っていたのに…どうなさられたのですか?」


「なんか怪しいんだよね、赤穂」


 この前の屋久島と言い、能登半島沖と言い、赤穂は怪しすぎる。

 後者はその情報で救われたが前者は……


「………」


 航空参謀は黙ってしまった。

 やはり、部下の中にスパイが居るとは考えたく無いのだろう。


「航空参謀」


「…何ですか?」


「航空参謀は…どう、思ってる?」


 航空参謀は考え込んでしまった。

 そして、しばらく考えた後……


「部下を疑いたくはありませんが、正直……」


 やはり航空参謀も怪しいと思っていた様だ。


「………」


「………」


 ボクも航空参謀も黙り込んでしまった。

 そして、沈黙が暫く続いた。


 数分後…


「司令」


「ん?」


「結婚式、挙げるんですか」


「…どうしよっか」


 どうしようか。挙げようか。結婚式。

 ボク自身は正直どちらでも良い。


「仮に挙げるとして、誰を呼ぶんですか?」


「えーっと、摩耶は確定として、ボクの両親はもういないから呼べないからぁ…」


 あぁ、凪も呼ばないと。それと七海の両親……あれ、そう言えば七海の両親見た事無いな。


「我々は…呼んでくれますか?」


「当たり前じゃないか!参謀三人衆は当然招待するつもりで居るよ」


「安心しました。これで参謀長と作戦参謀が癇癪を起こす心配は無くなりました」


 確かに、あの二人は結婚式呼ばないと癇癪を起こしそうだ。


「司令、服装はどうするおつもりですか?」


「え?あぁ…どうしようかな。ウェディングドレス、着ようかな」


「司令のウェディングドレスですか…卒倒者が続出しそうですね」


「衛生兵がいくらいても足りないだろうね」


「ははっ、そうですね」


「……タキシードも良いなぁ」


「いいですね、タキシード」


「七海は…どうするのかな」


「中佐は…どうするんでしょうね。多分、ドレスを選ぶかと」


 …思い切って軍服で挙式をしてみるのはどうだろうか。

 わざわざドレスだのタキシードだの、そんなのにこだわる必要は何処にあるのか。


「軍服…どうかな、航空参謀」


「な、成程」


 あまり良くない反応。


「駄目かな、軍服」


「そ、そうですね…まぁ、お二人が良いと思うなら良いのではないでしょうか?」


「うん、そうだね」


 ボクと七海が納得する服装なら何でも良いよね。


「あ、そうだ。航空参謀」


「どうしましたか?」


「参謀達ってさ、仲いいじゃん」


「そうですね」


「それなのに、未だに役職名で呼び合ってる。何故?


「役職名はあだ名みたいな物なんですよ」


「へぇ」


「名前で呼ぶより…何か、良いんですよ。何か」


「成程」


 名前で呼ぶより良い…か。

 これが男の絆と言う物か。


「………」


「………」


 また、沈黙の時間が続く。

 波の音は絶えず鳴り続けている。

 これを聞くと、心が落ち着く。


 ふと、コップを見てみると空になっていた。

 もう少し欲しい。

 そう思い、ウイスキーのボトルに手を伸ばすと、航空参謀がボクの右手に触れて来た。


「!?」


「…司令の手って、冷たいんですね」


「昔からだよ。冷たいんだ、ボク」


「意外ですね、もう少し温かい物だと…」


「それに比べて、航空参謀の手は温かい」


「そんなに…ですかね」


「あぁ。温かい」


「………」


「………」


「…司令っ」


「!?」


 航空参謀がボクの事を抱き寄せた。


「こ、航空参謀?」


 いきなりの行動に何もする事が出来なかった。


「その、何も…言わないでください…」


「あ、あぁ…」


 言われるがまま抱き続けられるボク。

 これが一般的な"彼女"の気分だろうか。



 しばらく抱かれていると、頭を撫でて来た。

 まさか航空参謀にナデナデされる日が来るとは思っても居なかった。

 ボクは航空参謀の為すがままにされた。


 数分後…


「その、すいません」


「ううん。良いの」


「司令を見てると、娘を思い出します」


「航空参謀、お父さんだったの」


「えぇ。養子ですがね」


「それで、娘さんの年齢は?」


「司令と同じですよ」


「へぇ」


 ボクと同い年か…会ってみたいな。

 航空参謀の子供か…何か想像できないな。しかも女だし。


「…生きていたらね」


「!?」


 生きていたら…?

 ま、まさか。


「初穂って言うんですけどね…4年前、事故…事故で死んでしまいました」


 4年前…2019年か。

 あら、同じ。


「事故…車?」


「いえ…飛行機ですね」


「航空機事故…2019年…国際線か」


 国内線の事故は2019年には起きていない。つまり国際線一択だ。

 海外旅行中に巻き込まれたのか…。


「…国際線ではありません」


「え?…チャーター機?」


「いえ、違います」


 国際線でも無い、チャーター機でも無い…航空機事故?

 何かあったかな…。


「……軍用機」


「軍用機…」


 軍用機…軍用機?

 軍用機…もしや…。


「航空参謀」


「何でしょうか」


「航空参謀の苗字って、確か…」


「長嶋です」


 長嶋…長嶋…長嶋…長嶋!?

 まさか、いやそんな…娘?


 長嶋 初穂。この名前をボクは知っている。

 何故ならば、ボクが第五飛行隊時代の部下だったからだ。

 今は能登半島沖の海底で眠っている。


「………」


「…その時の事故を基にした映画があるんですよ」


「名前は?」


「能登の海鷲、ですよ」


「あぁ、ボクも見たよ、それ」


「どうでしたか?"()()()"としての感想は」


「え?あぁ、微妙だったね。あの子達は超低空飛行で墜落する様な子じゃないし、巡視船の設備も壊してないし――あ」


 思わず口走ってしまった。

 でも、航空参謀は全容を知っている気がする。


「ははっ、やっぱり。そうですよね」


「………」


「私はもう全部知ってますから。隠しても、無駄ですよ」


「………」


「………」


「………」


「……司令……司令?」


 ボクは泣いている事にはすぐ気付かなかった。


「ボク……その……何も……」


「………」


「出来なかった……」


「………」


「…実弾さえあれば」


「………」


「…実弾さえ、積んでれば」


 実弾さえ搭載していれば、追い払う事が出来たかもしれない。

 皆を海底に送らずに済んだかもしれない。


「…司令は、何も悪くありません」


「………」


「司令がそう思い詰める必要はありません」


「………」


「急に味方機が襲って来るなんて、誰も予想できませんよ」


「………」


「それに…」


「………」


「通常の演習に、実弾なんて必要無いでしょう?」


「航空、参謀…」


 …言われてみればそうだ。確かに、そうだ。

 通常の演習に実弾は必要ない。それに、あの時の演習はただ低く飛ぶだけであって、武器は必要無かった。


「あれは仕方が無かった。仕方が無かったんですよ」


「………」


「司令は立派だ」


「…?」


「部下を失って尚、こうして任務を続けている」


「それは…軍人として、当たり前の事…そうでしょう?」


「軍人…ですか、そうですか」


「?」


「あぁ、そうですね。日本軍、ですもんね。我々は」


「………」


「…やはり司令は立派だ」


「…ホントに?」


「はい。立派ですよ」


「…ありがと、航空参謀」


「………」


「………」


「ハンカチ、要りますか?」

お読みいただき、ありがとうございます!

ほんの少しでも「良いね」と思ったらブックマーク、評価の★の方を是非!

(付けると作者が凄い喜ぶよ)

(年 越 し て ま う)

よろしくお願いいたします!

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