番外編 丙一話 故郷
2月3日… 09:43… 神戸ポートラインホテル… 12階… 第二更衣室…
「なぁんで軍服で出なきゃならんのだ」
「ええやんええやん。おもろいし」
ボクは中学校の同窓会に出席する為に神戸に戻って来た。
…何故軍服に着替えているのかって?
そりゃ、この同窓会はそれぞれの職の制服を着ていく決まりなのだから。
制服が無い場合は仕事をしてる時の服。
不労所得の場合は普段来てる服を。
…無職の人は……どないするんやろか…。
「何年ぶりかな、皆に会うの」
「何年ぶりかな~」
「ヨシ、ええね」
「あ、お姉ちゃんのヘアピン変な方向向いとるよ」
「あ、ごめんごめん」
摩耶にヘアピンを直してもらう。
ヘアピンと言っても、戦艦武蔵の髪飾りの事である。
「さ、行こう」
「うん!」
ボクは男性士官用の帽子を被り、女性士官用の第一種軍装を着て、黒色の革靴を履き、右側に紀伊刀を下げて、肩に中将の階級章を付けて会場へ向かう。
摩耶もほぼ同じ格好で会場へ向かう。ただ唯一違う点と言えば帯刀してるか否かである。
同窓会会場…
会場のドアを開けると、皆の視線が一気にこちらへ向いた。
その視線に応える様に海軍式の敬礼をする。
「「おぉ…」」「あの2人誰だっけ?」
「名前が出てこない!」「可愛いな…」
会場には様々な服を着た人が居た。
スーツに作業服。私服を着ている人もいる。
弁護士バッチを付けてる人に…警察官に消防士!
本当に、色んな職業の人がいる。
皆が支え合ってこの社会が成り立っているのだと言うのを改めて実感させられる。
「沢山居るね!お姉ちゃん!」
「ね。意外と多いよね」
制服必須と言う謎な制度。
これのせいで参加人数は少ないと思っていたが、意外と多い。
…もしかしたら全員参加もあり得るかもしれない。
続々と入って来る同級生。
一目で誰か分かる者も居れば、分からない者も居る。
「懐かしいよ、ホント」
「何処座ればいいのかな?」
「ん~、何処やろ」
こうしてボクと摩耶が何処に座ればよいか迷っていると…。
「おーい!こっちこっち!」
誰かに呼ばれた。あれは誰だったか。
[中学3年2組]と書かれた札が置かれたテーブルの所に居た。
成程、中3の時のクラスで分かれてるのね。
中3の時、珍しく私と摩耶は同じ組に配置された。
同じ組になった時は抱き合った位、嬉しかった。
ボクと摩耶はテーブルと所へ向かう。
椅子は32人分配置されていて、出席番号1番と2番だけが空席だった。
…ボクと摩耶の座席だ。
皆来るの早いね。
「おっ!これで全員揃ったな!」
宮野 長門。
この組の級長!
「皆来るん早くない?」
摩耶が皆に問いかける。
「そりゃ、前日に神戸入りしたからな」
栄生 真尋。
副級長の1人。
「余裕ある奴はええなぁ!」
ボクはそう返す。
栄生は…バスの運転手さんだ。WILLER EXPRESSって書いてある!いつもお世話になってます!
長門はスーツ姿。サラリーマンかな?
「おっ、2人共軍服やんけ。何軍なん?」
「「海軍!」」
「息ピッタリやな~」「声ほぼ同じやん」
「髪型同じやったら見分けつかんわ」「海軍か~凄いな~」
ボクと摩耶以外は全員男。男女比率は1:16。
まぁ、それも当然だろう。
ボクと摩耶が入るまでは男子校だったから。
それ故、ボクと摩耶はクラスの花…みたいな?
とにかく、凄く大事にされた。
そのお陰で学校生活はかなり楽な物となった。
「え、海軍で何しとるん?」
「私は基地司令!」「ボクは艦隊司令」
ボクと摩耶が答えると「おぉ~」と言う声が上がった。
「2人共何処で働いとるん?」
「「呉」」
「「「……」」」「呉なんや~」
「佐世保かと思っとった」「あれ、舞鶴で見たような…?」
ほとんどの人は呉と言ってもピンとこない。
…まぁ、予想通り。
でも一部の人は理解している様だ。
「あ、呉に配属されたんは先月末やで」
「それまでは?」
「舞鶴で基地司令やっとったよ」
「やっぱり~なんか見た事あるな~って思っとったわ~」
「え~?私覚えとらんで~?」
摩耶と話しているのは田川。
柔道部のミリオタである。
「あ、そういやこの前なんか…能登半島で戦っとったやん。それ、伊吹なん?」
松橋がこの前の能登半島の事を言う。
守秘義務に触れない程度に話そう。
「せやね。能登半島で艦隊1つ丸々消し飛ばしたね」
「「「「おぉ~」」」」
言葉選びは大事すごく大事。
"撃沈した"と"消し飛ばした"では、インパクトが違う。
こうして、皆と雑談してると、前方の壇上に1人上がって来た。
壇上に上がった人は、マイクを手に取った。
彼がマイクを手に取ると自然と静かになった。
「えー、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!」
さて、誰だろうか。
「今回の同窓会の主催の、鍵谷です」
鍵谷か。
4組の人間。同じ組になった事は無い。
「え~、皆さんが疑問に思ってる事についてお答えします」
おっ、最初から触れてくれるのね。
「何故今回"制服"にしたのかと言いますとですね…」
本当だよ、刀の移動凄く面倒やったのに。
「…面白そうだからです」
鍵谷がそう告げた瞬間、会場全体から笑い声が聞こえて来た。
勿論、ボクも摩耶も笑い声の中の1人。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
鍵谷が選挙中の政治家みたいに言う。
面白そうだから…傑作やね。
挨拶の後…
鍵谷の挨拶が終わり、メニューが運ばれて来た。
…料理って事前に用意してる物じゃないの?
まぁいっか。日本酒あるかな~。
「2人で1冊となっております」
ウェイトレスは16冊メニューを渡した。
ボクは勿論摩耶と一緒に見る。
「日本酒日本酒」
「お姉ちゃん朝から飲むの?」
「別にボクが運転する訳じゃないし、2本くらいにするよ」
「2本で抑えてるってのが怖い」
「え?そう?」
いつも通りの会話をしていると、宮野が問いかけて来た。
「い、伊吹っていつもどれ位飲むの…?」
その声は震えていた。
「んー…いつもは4,5本位かな?」
「!?ヤバ…!え?いつも4,5本飲んどんの?」
「せ、せやけど?」
「怖…肝臓強すぎひん?」
「そんな強い?」
「俺なんて1本飲んだだけで潰れてまうわ…」
「ま、まぁそんな人もおるわな…」
「それはこっちのセリフや!」
宮野は笑いながら言う。
ボクも宮野につられて笑ってしまった。
皆と雑談しているとビールが運ばれて来た。
乾杯じゃぁ。
「はーい。ビールでーす」
2人がかりでビールを並べる。
ビールも良き。
「それじゃー!乾杯しましょー!」
ハイテンション宮野。
湧き上がる同窓生。
「せーのっ!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
ジョッキを打ち鳴らし、一気に飲み干す。
あぁ、ビールも美味い。
「いやぁ…まだ10時なんだけどなぁ」
よく考えて見ればまだ10時だ。
朝から飲むなんて久しぶりだ。
「確かに!伊吹の言う通りだな!」
「この中で車出来た奴おる?」
酒島がちょっとだけ笑いながら皆に問いかける。
「…俺…車や…」
絶望した状況で言うのは鹿野宮。
名前が高級感溢れてるけど、ごく普通のお家。
「お前マジか!やったなお前!」
「やってもうた!うわー!マジどうしよー!」
頭を抱えてる鹿野宮君。可愛い。
「えー?誰か飲んでない奴おる?おったら手挙げて?」
シーン……
「鹿野宮、乙!」
「やったわぁぁぁぁぁ!」
「招待状に公共交通機関で来いって書いてあったやろ。アホやな~」
全くだ。
きっと読んだが、駐車場があるから大丈夫やろ的な感じで車に乗って来たのだろう。
「え?車なんなん?」
摩耶が車を問う。
ボクも車が気になっていた。
「クラウンや。クラウン」
「「「おぉ~」」」
クラウンかぁ。良い車乗ってんねぇ。
「良い車乗っとるやんけ~」
佐川が茶化すように言う。
そうして、鹿野宮も含めて爆笑していると…。
ガラガラ…
配膳ワゴンに載って大量の飲み物が運ばれて来た。
ウーロン茶にビール。あぁ、ボクの日本酒もしっかりある。
あっ、摩耶、ちゃっかりワイン頼んでる。
「お飲み物になりま~す」
どんどん並べられていく飲み物。
軍令部での会議で見慣れた光景。
摩耶もきっと、見慣れているはず。
コトッ。
ボクの目の前に一升瓶が置かれた。
摩耶も含め、皆コップやグラスである。
置かれてすぐ飲み始める者も居れば、すぐには飲まない者もいる。
ボクは前者だ。摩耶も前者。
ボクは一升瓶の栓開ける。
「栓開いて無いのか。親切じゃないねぇ」
置かれたコップに注がず直接飲む。
コップに注ぐのは非効率である。
ゴクゴクゴクゴク…
「プハっ。美味いね」
「「おぉ…」」「「すげぇ…」」
皆がボクの方向を向いている。
…ん?他のクラスの人間もこちらを向いている!?
「…そ、そこまで凄い事かな?」
「「「「凄いに決まっとるやろ!」」」」
「え、えぇ…。あ、もう1本」
「全部飲み切ったでコイツ!?」「バケモンや…」
「それでもう1本行く!?」「ヤバ、尊敬するわ」
「あっ、そうや」
田川が何か思いついた様だ。
「この前の屋久島沖!」
「っ…スゥゥゥ…」
「惨敗って聞いたけど~?」
煽っている!凄く煽っている!
しかし、真実を話すほかあるまい。
「……こっぴどくやられたねぇ……」
「やっぱりか~」
「全部潜水艦やったんやろ?」
「そう、13隻」
「え、何の途中やったっけ」
「護衛任務。輸送艦の」
「何運んどったん?」
「軍機でぇす」
「じゃぁ、何処向かっとったん?」
「そーれーもー!軍機でーす。大人しく開示を待つんだね」
「軍機か~軍機ならしゃーないわ」
田川も納得してくれた様で良かった。
いや~、雷防も囮魚雷も効かないとは思いもしなかった。
それに、発見が遅かったのもあるかな。
もっと良いソナー開発しないとね。
「で、そう言う田川は何をしているのかな?」
ボクは田川に職業を聞く。
摩耶は横でワインを啜っている。可愛いね。
「もう分かるやろお前」
笑いながら問いかけてくる。
まぁ、言う通りなんだけど。
田川が着てるのは海軍の第一種軍服。
下士官が着用するタイプだ。
階級は上等兵曹か。
「後1つで少尉じゃないか」
「中将の階級章見せられたら…な?」
「あはは…」
「ってか2人共昇進早すぎやろ」
それはそう。
異常としか言いようがない。
「摩耶ちゃんはまだ分かるけど伊吹は謎やん」
「それ」
「摩耶ちゃんはさぁ、防衛大卒やからまーだ分かるけどさ、伊吹は航空学生やろ?」
「そうね」
「航空学生が数年で艦隊司令?もう訳分からんやん。俺なんてまだ上等兵曹やで」
大爆笑しながら言う田川。
「それも、ただの航空学生やないしな」
「え?」
「徳島行かずに目黒行ったで」
「目黒…。ふぁ、マジ?幹部学校?」
「2年前倒しで行ったで」
「嘘やんお前、それは盛りすぎやろ」
「盛ってないんやな、これが。ね、摩耶~」
「うん!何なら写真持ってるもん」
摩耶はスマホに入っている、ボクが小月を卒業した時の写真を見せる。
「…うわー、ホンマやんけ…。えっぐ」
他の人は皆、各々話している。
なんなら立っている人もいる。
「そんで、これが幹部学校卒業の時の奴」
幹部学校の卒業式の時も摩耶来てたもんね。
…まぁ、来てくれなかったらお迎え居なくなっちゃうもの。
皆が親や兄弟姉妹とワイワイしてるのにボクだけ1人寂しいって事になる。
あ、勿論摩耶の防衛大の卒業式にも行ったよ?
「うわー…えぇ…言葉が見つからんわ」
15分後…
「さっきまで囲まれていたが、何があった?」
「いやぁ~、皆ワシが社長や言うたら金くれ金くれ言うてワーワー騒ぐもんやからなぁ」
数年ぶりに会った橋口。
どうやらたかられていたようだ。
昔は『金欠や金欠や!』と言っていたのが、今や社長か。
人生何があるか分かったもんじゃないね。
「で、金欠なんやろ?」
摩耶が問いかける。
流石に…流石に、金欠って事は無いだろう。
「せやな!アイツらにあげる金なんて無いわ!」
この返答を聞いた瞬間、2人で大爆笑してしまった。
マジ?どんだけ浪費してんねん!
「まぁ、嘘やけどな!」
第二次大爆笑。
良かった、流石に金欠は無い様だ。
「いや~今や世界第四位の海運会社の社長!講演会とか、良く呼ばれるやろ?」
「そんなもん、全部断っとるわ」
「マジ?」
「おん。めんどくさいわ」
如何にも橋口らしい理由である。
「にしてもホンマ顔だけやったら見分けつかんな~」
「髪型で分かるって事?」
「おん」
「お姉ちゃん!」
「解けって?」
「うん!」
「じゃ、目を瞑ってな」
「わーった」
橋口が目を瞑る。
その間にボクは髪をロングに戻す。
そして、摩耶と場所を交換する。
交換を3回位繰り返しす。
これで、橋口も混乱してるだろう。
「あ、髪飾り」
「ホントだ。忘れてた!」
髪飾りの位置で特定されかねない。
髪飾りを外してポケットに仕舞う。
これでヨシ。
まぁ、橋口なら雰囲気で分かるでしょう。
「開けていいよ~」
「おっ…………どっちや…」
あっ、早速混乱してる。
「え?声で分からん?」
声で分かるでしょう。
姿形の見分けは付かないとしても、声は…分かるでしょう。
「分かるか!どっちも同じ声にしか聞こえんわ!」
「「究極の二重音声って事?」」
「そう言う事や!同じ声にしか聞こえんのや!」
「「えー」」
「やから同時に喋るなって!」
「「ヤダー」」
「ヤダー、ちゃうねん!」
分かんないかぁ…。
「え、逆に何があれば見分けられる?」
摩耶が問う。
「んあー、そうやなぁ………」
考えてる考えてる。
「…こうやったら分かるな」
そう呟くと、ボクと摩耶の頭をワシワシし始めた。
懐かしいねぇ…あぁ、力が強くなっている。
「おらおら!どうや!」(ワシワシ)
「うぇ~」「痛い、痛い!」
周りが橋口を羨望の眼差しで見ている。
何故でしょう。
「わーった!右や!こっちが伊吹や!」
ボクの方を指さして言う。
「お~正解。良く分かったねぇ」
「ね~凄いね~」
「っしゃぁ!」
髪飾りを着け直す。
「あ、刀」
思わず漏れてしまった。
ボクは帯刀している!
「…ホンマや!!刀やんけ!」
「あっ!ホントだ!お姉ちゃん刀持ってたもんね!」
「そうやん、刀で見分けられたやん、お前」
「せやせや、ワシの目は節穴やからな~」
「全くだ、こんな大きい物を見逃すとはね」
「なんか、決算書の重要な所見逃してそう」
「あ、ボクも思ったそれ!」
「お姉ちゃんもそう思うよね~」
「絶対見逃しとるからな!副社長と一緒に見んねん!」
「「副社長は誰?」」
「え?どっかの大学出た奴や」
「「知り合いじゃないって事だ」」
「そうやな」
「社内生え抜き?」
「おん、2代目やで」
「初代はどうなったの?」
「知らん。勝手に辞めてどっか行ったわ」
「どっか行ったんか~」
初代は辞めちゃったのか。
何でだろう。まぁ、いっか!
この後は、一升瓶片手に同窓生と近況やら年収やらを話したりした。
まぁ、近況と言っても屋久島でフルボッコだドン!された位だけれども…。
摩耶は舞鶴から呉に移った~程度かな?
まぁ、そんな事を話しつつ、飲んで終わった。
結局2本にするつもりが5本飲んでしまった。
まぁ、何処かのクラウン君みたいに車じゃないので飲んでも安心!
23:22… 三宮市街…
「「北側~」」
阪急神戸三宮駅の北側はいわゆる繁華街と呼ばれる場所。
朝にも飲んだのだが、しばらく実家でゴロゴロしてたら酒が抜けてしまった。
と、言う事で飲み直しに来た。
「たまにはこういう路地入って見ようよ!お姉ちゃん!」
「いいね、採用」
大通りから少し外れて、路地に入る。
路地にも店が大量に出店している。
久々の店探しである。
「いい店無いかな~」
「たまにはバーとか入ってみてもいいんやない?」
「せやね、たまにはバーとか入ってみよう」
摩耶の提案を受け入れ、バーとかを探してみる。
大通りにはナンパを仕掛けようとして来る男が大量に居たが、流石に、こんな路地までには居ない。
安心して店探しが出来る。
「あ、こことか良さそうやない?」
「ええね、入ろ入ろ」
摩耶が見つけたこの店。
看板には『Stella』と書いてある。
かなり派手な装飾は見られない。
落ち着いた店なのだろうか。
階段を下り、扉を開ける。
扉が重い。軍令部の軍令部総長室の扉位重い。
ガチャッ。カランカラン…
「いらっしゃい」
客は…居ない。
居ない、0だ。
取りあえず、カウンターに座る。
「よく見つけたね、ようこそ」
内装は質素ながらも高級感がある。
白色の壁に黒色の天井。
暖色のライトが店内を照らしている。
店主は中性的な顔をしている。
それは声も同様である。
「じゃ、何飲む?」
「「そうだな~」」
「ベレッタかなぁ」「あ、私も」
「OK、2人共ベレッタね」
そう言うと、店主は素早い手捌きで作り始める。
おぉ、動画で見た事ある奴だ。
「はい、どうぞ」
「「おぉ」」
グラスを持ち、摩耶と乾杯する。
「「乾杯」」
チリンッ。
ジョッキとはまた違った音を出す。
カクテルか、久しぶりに飲む。
「「んっ」」
ゴクッ。
「流石は双子だね、飲むタイミングも一緒だ」
「「そう?」」
「うん、今の返事だって一緒じゃないか」
「確かに…」「言われてみれば…」
「双子か…興味深いね」
双子はそこまで興味深いだろうか?
…いや、他社からしたら深いのかもしれない。
「君達、仕事何してるの?」
「ん?海軍」「私も!」
「へぇ、軍人さんなんだ。意外だね」
「良く言われるね」
本当に良く言われる。
初めて会った人に職業を明かした時、必ず言われる。
「ねぇねぇ、2人共何で海軍に入ったの?」
きっかけはあんまり聞かれない。
聞かれるのはほとんど職務内容。
「まずは…地震かな?」「うん、地震だね」
「地震?いつの?」
「1995年」
「あ~…あれ?君達…生まれてる?」
「発生数時間前に」
「あぁ…す、凄いね」
これを話す事はほとんどない。
大抵は高校の時に見た、空母赤城に憧れたー的な事を話して誤魔化している。
だが今日はすんなり話す気分になった。
何故だろう?
「その時、救援に来た人が海軍の人だったの」
「そう。顔ははっきり覚えてないけどね…摩耶は覚えてるの?」
「ううん。私も覚えてない」
ボクも摩耶もはっきり覚えていない。
まぁ、生まれて数日の出来事。覚えていないのはごく自然の事。
「もしかしたら、同僚に居るかもよ?その人」
「え~、考えた事も無かったなぁ。ボク」
「確かに、もしかしたら居るかもね」
「航空参謀とかさ、それっぽくない?」
「あー!確かに!」
ボクが航空参謀と言うと、店主は少し首を傾げる。
「…参謀?」
「参謀がどうかしたの?」
「君…いや、その。立場とか…あれ、何て言うんだっけ…位…?ほ、ほら、そういうの」
「位…あぁ、階級」
「そう!階級!君の階級は?」
「中将」「私も―!」
「中将…中将!?」
店主はボクの返答を聞いて目を丸くした。
中将。上から2番目。
何処かのアニメの影響で、中将が偉い人って言うのは浸透してる様だ。
「中将って事は…えーっと…何やってるの?」
「艦隊司令」「基地司令!」
「あぁ。やっぱり司令官クラスなんだ。凄いね……同じ場所で働いてるの?」
「「うん」」
「へぇ~…あ、海軍に入ってやりたい事とか…あった?」
「あったけど、全部………いや、1つだけ残ってるね」
パイロットになって、艦載機に乗って、空を飛ぶ。
飛行隊長になって、部隊を率いる。
ここまでは終わらせてる。
でも、後1つ。
もう二度と達成できない物が残っている。
「エースパイロットになる事かな」
「…パイロット?」
「そう。元々―――」
「お姉ちゃん、元々パイロットだったもんね~」
摩耶が割り込んで来た。
まぁ、摩耶の言う通りなのだけれど。
「へぇ…パイロットから司令官。…それって、普通の事なの?」
「「全然」」
「あ、やっぱりそうなんだね」
「エース目指してたら、いつの間にか中将の服着させられてねぇ…」
つい最近まで飛行服を着て、中佐の階級章を着けていたはずなのに。
今は将官用の軍服を着て、中将の階級章を着けている。
人生って何が起こるか分かった物じゃない。
「妹さんはどうやって海軍に?」
「防衛大~」
「防衛大!そうだよね。偉い人目指すなら、防衛大だよね」
「それで~、駆逐艦の艦長とかやって、基地司令!」
摩耶が駆逐艦葵に乗艦していた時代。
ボクは…丁度一航戦で飛んでいた時だ。
ボクも摩耶も昇進スピードが異様に速い。
摩耶はまだマシだけれど…。
「へぇ…基地司令って事は、事務作業が多いのかい?」
「うん、ほとんど事務作業。後会議にも出なきゃ」
「月1の、軍令部会議ね」
「大変だね。あ、そうだ」
店主は何か思いついた様な顔をする。
「…何か、心霊現象みたいなの。見た事無い?例えばー…ほら、旧日本軍の亡霊とかさ」
「「う~ん」」
そんなのあったかな。
…あ、1回あったね。
「「あっ!」」
摩耶も同時に思いついた様だ。
「摩耶から先にどうぞ」
「うん。えーっとね…、舞鶴に居た時の話なんだけどね…」
**視点変更 伊吹→摩耶**
~~~時は遡り2022年12月~~~
舞鶴基地… 01:22…
「疲れた…今日書類何か多くない?」
私は、いつも以上に多い書類仕事を終えて帰るか、朝まで残るか悩んでる所だった。
「うーん、バスも舞鶴線も終わってるし…どうしよ」
家は西舞鶴にある。
ここから歩いて1駅。
タクシー使おっかな。
お金はあるんだし。
「でも、ここの仮眠室で寝るのも良いかな」
仮眠室で寝た事は無い。
うーん、1回寝てみよっかな……。
「ん?」
前から一人歩いて来る。
きっと、夜勤の人なんだろうね。
トイレかな?夜にトイレしたくなる事あるよね。
「…あれ?第二種着てない…?」
良く見たら第二種軍装を着ている!
真っ白な服は暗闇でも良く目立つ。
あれ、今12月だよね?
顔も暗くてよく見えない。
その人は私にまだ気づいていない。
このまま無視しよっかな…。
それか…適当に部屋に入ってやり過ごす…?
考えてる間にも近づいてきている。
あっちはまだこっちに気づいて無いみたい。
「…うぇっ!?」
あっ、気づいちゃった。
しかも腰を抜かしてる。
と、取りあえず人間だって事は分かったから…。
「だ、大丈夫?」
私は駆け寄って声を掛ける。
あ、この人少佐だ。
しかも結構若い。
「お、女…女…!な、なんで!女が何で鎮守府に!それになんでそれ着てるんだ…!」
「…え?」
「ヒッ…。げ、幻覚だ!きっとそうだそうに違い無い!これは幻だ!」
凄く焦ってる。
幻覚だとか言ってるけど、この基地に所属してるなら知ってるはず。
……あれ、さっきこの人、鎮守府って言った気が……。
「ちょ、ちょっと」
私が手を差し伸べようとした瞬間…。
「さ、触るな!俺に触るな!」
軍刀を抜いて向けて来た!
私はゆっくり後ずさりしながら、持ってる拳銃に手を掛ける。
…あ、この拳銃司令室に戻さないと。
相手も同じく後ずさりをしている。
尻もちを付きながら、後ずさりしている。
私から逃げようとしている。
「あぁ…あっ…ああああああああ!!!!」
あっ、発狂してどっか行っちゃった。
「…………何だったの?あれ」
~~~回想終わり~~~
**視点変更 摩耶→伊吹**
「って事があったんだ~」
「「ひっ…」」
「や、やっぱりそういうエピソード、1つ位はあるんだね」
「それで、次の日に資料室の文献読み漁ってみたの」
「「うんうん」」
「そしたら、心霊現象枠で似てる奴見つけちゃった」
「「!?」」
に、似てる奴を見つけた!?心霊現象枠で!?
「多分、あの少佐が同僚とか上官に話して、それが伝わったんじゃないかな~」
「う、うん。多分、そ、そうだよ」
って事は、その少佐は幽霊じゃなくて生きてる人って事になる。
摩耶か少佐かどっちか分からないけれど、時間軸がおかしくなったのかな。
それ位しか説明つかないや。
「あっ!あっ!お姉さんの方も!あっ、あったよね!き、聞かせて聞かせて!」
この店主なんか、怖がってない?
自分から聞いた癖に。
…伝わってるって事に驚いてる?
いや、この話自体に怖がってるのか…まぁ、良いか。
「そうだねー、これはボクがまだパイロットだった時の話かな」
~~~時は遡り2018年4月~~~
ミッドウェー島から北西150kmの地点…
キィィィィィィィン
「よーしよし…機体は安定してる…後は僚機を見つけ出すだけ…」
ボクは今、僚機とはぐれてしまった。
隊長なのにはぐれるって…あぁ、情けない。
「えーっと…電探には反応なしと」
最悪、ミッドウェー島の飛行場に着陸すれば良い。
希望はある。
周りを眺めてみても海・海・海。
海しか見当たらない。
「…おっ、電探に感アリ」
電探に目をやると輝点が1つ、左前方にある。
恐らく航空機だ!民間機でも何でも良い!
その輝点とどんどん距離を縮めていく。
「あれ、この機体なんか遅くない?」
輝点の距離が凄まじい速度で縮まって行く。
これはジェット機の類いじゃないね。
民間のプロペラ機かな?
セスナとか、その部類かも。
「そろそろ見えてくるはず」
スロットルを少し絞って、速度を落とす。
もう、この際絞れるだけ絞って、この機体をじっくり眺めてやる。
「あっ、見えて来た見えて…来たァ!?」
何と、あの輝点の正体は零式艦上戦闘機。零戦であった。
…あれ、ボクは幻を見ているの?
「零戦!?零戦!?」
ボクはヘルメットのバイザーを上にあげて、零戦を見つめる。
これは現実?ボクは夢を見ているの?
「!」
零戦のパイロットもこっちを見つめている。
も、もうちょっと速度を絞って…!
頑張って零戦と同じ速度域まで速度を落とす。
それでも、この機体の方が速い。当然だろう。
「あっちから、この機体が見えてるのか…」
零戦のパイロットと目が合う。
奇怪な表情を浮かべてこちらを見ている。
「あ、失速しそう」
辛うじて機体を維持しているが、これ以上はきつそうだ。
そろそろ離脱しよう。
敬礼して、スロットルを上げる。
ボクが敬礼すると、あちらも敬礼してくれた。
キィィィィィィィン…!
バイザーを下げて、前を向く。
「あっ、凄い雲が―――」
かなり大きい雲に突入してしまった。
取りあえず抜けないと。
操縦桿を引き、上昇する。
そして、雲を抜けたと思った瞬間……。
視界が真っ黒になった。
「……!!!」
感触はある。
操縦桿を握る感覚、鳴り響くエンジンの音。
ただ、視界だけが無い。
計器も見えないこの状況で操縦…?
色々考えてると、視界が回復した。
「あぁ、良かった」
このまま墜落するんじゃないかと思った。
良かった良かった。
周りの状況を確認しよ―――
「!?」
またもや信じられない事が起きた。
普通に僚機と共に編隊飛行している。
あれ?はぐれたはず…。
いや、視界が無かった時に合流…?
でもそれだったら無線が入ってないのはおかしい。
取りあえず、呼びかけてみようか。
「各機、異常無いか」
[飛燕2、異常ありません]
その後も、各機から異常無しと言う報告を受ける。
…隊長機が行方不明だったのに、冷静だね。
「ねっ、ねっ、七海!さっきまで、ボクどうしてた?」
焦ってTACネームでは無く普通に名前で呼んでしまった。
[い、いえ…特に。普通に、飛んでいましたよ?]
「…え?ボクはぐれた気がするんだけど…」
[何言ってるんですか?先輩。先輩が私達とはぐれるなんて有り得ませんよ~]
[そうですよ!隊長!] [隊長機がはぐれるはずありません!]
「そ、そっか」
[どうしました?先輩。何かありました?]
「な、何かあったと言えば…あったんやけど…まぁ良い、帰ってから話すよ」
[は~い]
~~~回想終わり~~~
「……と言う事がありました」
「お姉ちゃんそんな事あったんだ」
「うん。あった」
「零戦と並走……それも、さっきの妹さんみたいに何か残ってたりしない?」
「これに関しては残ってなかったね~。幻覚として処理されたんじゃないの?」
「「あ~」」
「もしかしたら、帰ってない説もあるよ。よりによってミッドウェーだっだ訳だし」
「確かに…帰ってるとは限らないもんね…」
「でも、帰って来てるって思いたいね」
あの人、戦後まで生きれたのだろうか。
機体に書かれていた文字は覚えていない。
それ故、あの機体がどの空母所属かは分からない。
だが、生きていると思いたい。
「あぁ、もう2時半か…」
店主がそう呟く。
確かに、もう夜中の2時半だ。
時間が経つのは早いような、遅いような。
そろそろ引き上げよう。
明日…いや、今日か。
今日、11時の新幹線で神戸を発つ。
ボクは残ったカクテルを一気に飲み干す。
「ふぅ…いや、美味しかった。摩耶、そろそろ帰ろうか」
「うん!新幹線に乗り遅れたら嫌やもんね」
頑張って11時まで起きてれば良い話なのだけれど…。
睡眠不足は非常に良くない。
なら、『何故こんな時間まで居るの?』という疑問は置いて、粉砕しておこう。
「えー………いくら?」
「うーん……お代はいいかな」
「え?ええの?」
「うん。お代に見合う話を聞かせてもらったしね」
そこまで価値がある話だったのか。アレ。
まぁ、それだけで代金がチャラになるのなら、なんぼでも話す。
ボクと摩耶は同時に席を立つ。
店主はにこやかな表情でこちらを見ている。
「機会があれば、また来るよ」
ボクはそう言い、店の扉を開けて外へ出る。
「…道、忘れた」
「…私も忘れた」
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