第二十二話 横須賀への航路
前回のあらすじ:オホーツク海にて対地戦闘訓練を実施中であった二航戦。
訓練は順調に進んでいた。しかし、訓練中に七海が突然豹変して反抗的な態度を取る。
それを一瞬にしてなだめる伊吹。帰投後、軍医の診察を受けた結果いわゆる二重人格であることが発覚した。
そして、反抗的な方の人格を『海琴』と名付ける。
しかし、艦隊の細かい事情など1mmも気にしない軍令部から新たな命下る…。
蒼龍艦橋… 11月30日… 07:22…
遂に横須賀へ行く時が来た。
天候は生憎の大雨だ。まぁ、艦内に居ればどうって事は無い。
出港時、ボクが号令をかける事は少ない。
基本は艦長が号令をかける。
「出港用意」
「出港用意!!」
実家の様な安心感を感じる出港喇叭。
「もやい索離せ!」
もやい索が離され、陸と艦を繋ぐ最後のロ―プが艦内に収容される。
すると、曳船が艦を引っ張って岸から離していた。
曳船って力強いなぁ。
曳船が良い感じの所まで艦を持っていくと、曳船が離された。
いよいよ湾内から出る時だ。
「両舷前進微速」
「両舷前進微速ー」
艦が前進し始める。
いつも通りの事だが、毎回ドキドキする。
さぁ、横須賀へ向けて前進!
蒼龍CIC… 8時間後… 仙台沖…
艦内は緊迫した雰囲気に包まれていた。
何故なら、巨大タンカー2隻が衝突して2隻とも大炎上しているからだ。
人命救助も海軍の務め、四式回転翼機の若鷲を飛ばして救助に当たっていた。
若鷲は結構大型の機体で、パイロットを含めて8人は乗れる機体だ。
若鷲とは別に、周辺警戒用に極電を2機出している。
まぁ、若鷲が先に発艦したけど極電の方が先に現場に到着した。
[こちら白鷺1、片方のタンカーが火柱を上げ大爆発!タンカーは右舷に傾きつつあり!]
「鶯隊到着はまだか!何をグズグズしてるんだ!タンカーは沈みつつあるんだぞ!」
作戦参謀が無線に対し怒鳴る。
普段は冷静な作戦参謀も、人の命となればこうなるのも納得だ。
「まぁまぁ作戦参謀。我々がとやかく言っても、機体の性能は変わらないよ」
「も、申し訳ありません!」
「ゆっくり待とう。我々に出来る事はそれだけだ」
「はい、そうですね」
時はこうしてる間にも流れている。
そして同時に鶯隊の若鷲隊はタンカーへ向けて進む。
人の命を救うべく、ヘリはタンカーへ向かう。
CICは沈黙が支配していた。
しかし、無線の一報で破られる事となる。
[こちら鶯1!目標のタンカーに到着!傾いているタンカーから救助を開始します!]
「了解。ノロノロしてて死なせたらただじゃおかんからな!」
副司令が無線で鶯に発破を掛ける。
[はっ!お任せください!]
CICは再び沈黙が支配する。
広報の人も汗を垂らしていた。
さて、無事に全員救助できるのだろうか…。
一方その頃… 鶯1…
へりのローター音で普通の声では聞こえない。
津少佐が船内を確認して来た隊員に確認を取る。
「船内に残ってる人は居なかったんだな!」
「はい!」
「残りは…あっちか」
タンカーの横には救命艇が一艘浮かんでいた。
「…10人位か、乗ってるのは。おい、香川。10人収容できるか?」
「…ギリギリですね…これくらい大型のタンカーですと…」
「他のヘリはどうだ?」
「他のヘリも無理ですね…」
「チッ、一回引いてもう一回来るか…」
津が一度引いてからもう一度行こうと考えていると…。
ブォォォォォォォォ!
海上に小型艇が2艘、救命艇に接近していた!
「あ、あれは…!上陸用舟艇じゃないか!」
「蒼龍から出してくれたんですね!」
極電発艦から程なくして蒼龍からは上陸用舟艇が4艘出撃していた。
ヘリで収容できない要救助者を収容し、時間を掛けぬように蒼龍へ収容する為だ。
「流石秋月司令だ…!上陸用舟艇をこんな事に使うなんてな!」
「あの人、考えてる事が読めませんよね」
「あぁ、そうだな」
「隊長、全機収容完了したみたいです」
「了解。無線を」
「はっ」
「こちら鶯1、要救助者の収容を完了。これより病院へ緊急搬送する」
[了解。仙台中央市民病院へ搬送せよ]
「鶯、了解!全機!無線の通りだ。仙台へ向かうぞ!」
蒼龍CIC…
「まさかこんな事になるとはね」
「はい、全くです」
「まさか巨大タンカー2隻が衝突を起こして2隻とも炎上…ひゃー、恐ろしい」
「恐ろしいですね」
「人数は20人…位か。事前に病院に連絡してくれて良かったよ」
「そうですね。急に数十人受け入れてくれって言われても、困惑するだけでしょう」
「いやはや、救助者が全員生きてる事を祈るよ」
「はい、そうですね」
これの影響により横須賀到着が遅れる事となった。
まぁ、人命救助で遅れるのは仕方がない事…と言うか、当然の事だろう。
燃料の都合、速力を上げるとギリギリになる。
これでは…その…辛い。
「司令…何か忘れてません?」
「ん?どうかしたの?」
「上陸用舟艇…」
「「…………」」
「「あっ」」
忘れていた…!やってしまった…!
そうだ、上陸用舟艇の要救助者だ…!
「…どうしようか」
「どうしましょうかね…」
上陸用舟艇に乗ってる人数は32人。ヘリで運ばれた人は約20人。
合計約42名…。ヘリの方は良いとして、上陸用舟艇の方はどうしようか…。
「32人か…ヘリは何機残ってる?」
「2機ですね…」
「2機か…!12名なら一気に運べるが…残りの30名は…どうするか…」
「輸送機は…持ち合わせていませんし…」
「他の艦艇のヘリを使うのはどうだ?」
「でも、他の艦艇のヘリは2名しか乗せられませんが…」
「…乗せられても12人だけか」
艦隊は合計で7隻。そのうち、蒼龍を除くと6隻。
それら全てに三式回転翼機『重光』が1機搭載されている、
「はい…」
「まぁ良い、使える物は何でも使おう!残りの18名は…どうした物か」
そう、皆が必死に考えていると…。
「司令!電探に感アリ!ヘリの様です!」
「何?」
「これは…!一航戦の『英風』です!」
特五式回転翼機『英風』。
空母用の輸送機として開発された。
見た目はチヌーク君を小さくした感じの機体。
1機につき15名乗れる機体。
蒼龍に上陸作戦能力が付与された事により、一航戦に空挺作戦能力をつけるべく開発された機体だ。
別に固定翼機でも良いと思うのだが、被災地への物資輸送も考えるとヘリの方が良い…と言う事らしい。
まぁ、ヘリならヘリなりの使い方をすればいいだけの話だ。
…それにしても何故飛んできたのだろう?
[こちら第一航空戦隊、鴫隊!残りの要救助者の搬送を行う。着艦許可求ム!]
「司令…!」
「断る理由が何処にある副司令。さっさと許可を出せ」
「はっ!オイ!無線手!」
「はっ! こちら、蒼龍。着艦を許可する。風、方位022より3knot。艦は停船中である」
[了解。風、方位022から3knot]
何故一航戦の機体がここに…?と言う事は…近くに艦隊が居るはずだ。
[こちら白鷺2、目標α沈没。目標α沈没を確認。目標βは傾斜角左11°で停止]
「了解。βの監視を続行せよ」
[白鷺2、了解]
βの方は沈没が止まった…しかしこれも一時的な物だろう。
まぁ、こんな所にあっても邪魔なだけだ。沈めてしまおうか…?
っと、要救助者の輸送だ。
理由などどうでもいい、早く運んで貰おう。
「上陸用舟艇、収容完了しました。要救助者は現在到着した鴫の2機へ移動中」
「うむ。さて、βはどうしようか?」
「曳航…も難しそうですしね…」
「沈めるしか選択肢は…」
「いや、ここは上の判断を…」
CICに居る皆が意見を言い、ざわつく。
所で皆忘れているであろう事を広報部の者が言う。
「あの…タンカーは炎上中では…?」
「「「「「あっ」」」」」
やっぱり皆忘れていたようだ。
タンカーは絶賛大炎上中である!
「…消火…考えよう?」
「「「「「はい…」」」」」
さて、どう消火しよう。
消火用装備を搭載してる訳も無いし…消防艇は遠すぎるし…。
ダァン!
「「「「「!?」」」」」
「何グズグズしてんだお前らァ!さっさと沈めろよ!あのタンカー!」
海琴はCICだろうが容赦なくドアを蹴破って来る様だ。
しかしまぁ、簡単に沈められないのだ。
「えー、簡単に沈めれないんもーん」
「なんでだよ!」
「上ー」
「上?」
「そ、上」
「上…軍令部か?」
「そ。軍令部の命令が無ければ簡単に沈められないの」
「チッ。使えねぇなぁ…」
海琴はあまり長くは待てない様だ。
あ、参謀達が前代未聞の光景に凄まじい顔してる。
「まぁまぁ、ここは軍令部に判断をだな…」
軍令部に判断を仰ごう。さすれば責任は回避できる。
そう思い、軍令部に打電をしようと思った瞬間…
「司令、艦隊司令部からです」
「読み上げろ」
「発 海軍軍令部 宛 第二航空戦隊司令
14:47発生ノ仙台沖タンカー衝突事案ノ今後ノ処理ヲ伝達スル。
其ノ一 タンカーハ二隻共ニ撃沈セヨ
其ノ二 燃料及ビソノ他積載物ノ流出ガ確認サレタ場合、直チニ周辺海域ヲ封鎖シ民間船ノ入域ヲ阻止セヨ。
其ノ三 海上ヘノ延焼ヲ防止セヨ
以上です!」
「えーつまり…タンカーは沈めろと」
「中身が漏れてる場合は封鎖もしなきゃですね」
「白鷺に聞いてみよう。無線手~」
「こちら蒼龍。白鷺隊に次ぐ、海上に燃料及び積載物の流出の有無を確認せよ」
[白鷺1、了解!] [白鷺2、了解!]
「どうか漏れてませんよーに…!」
「ってかよ、其ノ三の海上ヘノ延焼ヲ防止セヨってどういう事だ?」
「軍令部はタンカーの消火を諦めたみたいだよ」
「ほーん。まぁ、あんだけ炎上してたら消防艇何隻に要るんだって話だよな」
「まぁ、でもそのまま沈めるのか…」
「どうした?普通に軍艦だったら燃やして沈めるだろ?」
「せやけどさぁ…」
「三沢中佐、相手はタンカーだぞ。普通の軍艦よりヤバイ液体積んでるかもしれないのだぞ」
「あっそっかぁ…」
「そのまま沈めたらさ、なんかヤバイ事にならないかなぁ~って」
「中身確認するか?」
「えー、どうやってするの?」
「そんなもん、あっちの会社に確かめればいいだろ?」
「あっそっかぁ、確認すればいいだけだもんね。軍令部に打電~!」
「発 第二航空戦隊 宛 海軍軍令部
タンカーノ積載物ノ詳細ヲ要求スル」
「了解!」
12分後…
「来ました!軍令部からです!」
「発 海軍軍令部 宛 第二航空戦隊
両方共、積載物は原油デアル。
以上です」
「はい、沈めようね」
「決断はっや!」
「ナフサとかなら躊躇するけどさぁ、原油ならまだマシじゃない?」
「いやそうだけどさ…」
第十雄洋丸事件の時みたいにナフサ積んでたらヤバかったね。
原油で良かった。本当に。まだマシ。
[こちら白鷺2!積載物の流出は認められず]
「蒼龍、了解。司令、空から見たところ流出は認められないようです」
「了解。艦艇を派遣して沈めようか」
「航空機で良いのでは?」
「いや、封鎖しろってなってるし4隻位残しておいた方がいいでしょ」
「4隻ですか…」
「まぁ、気持ちも分からない事は無いよ」
「護衛は2隻になりますが…」
「だいじょーぶ!一航戦使おう!」
「い、一航戦ですか…」
「そ、この際使える物は何でも使おう」
「わ、分かりました…打電しておきますね」
「よろしくね」
作業はこれまでに類を見ない程の早さで進んだ。
打電と同時に護衛艦の内4隻が事故が発生した所に向かい、流出の確認を行い、それと同時に海域封鎖の任に着いた。
そして54分後…
第一航空戦隊が合流し、護衛を受ける事となった。
因みに、この隙に急患輸送を行っていた機体を回収した。
さぁ、横須賀に向けて前進!
因みに広報部の人は凄い良いネタが取れたらしく喜んでた。良かったね。
翌日… 横須賀基地… 10:33…
ボクは榊原司令に護衛のお礼をしていた。
使えるのもは何でも使おう。それがかつての教官だったとしてもね。
「護衛、感謝します」
「なぁに、どうって事は無いよ。空母が1隻と駆逐艦が2隻増えただけだからね」
「それにしても、あの事故が起きた時一体何処に居たのですか?」
「俺達はもうすぐ仙台沖と言う所だったな」
「何故…そこに…?」
「いや、折角だから艦隊で出迎えようと思ってだな…」
「そんな横暴通るんですか…」
「通った」
「通っちゃったよ…」
軍令部とか艦隊司令部とか海軍省はこういう所がガバガバだ。
しかし、今回はそれに救われた。
特五式の派遣。これは非常に大きい。
「英風の派遣もタンカー事故の…?」
「あ、それはただ向かわせただけ」
「えぇ…?」
「いや、折角だから英風を見てもらいたかったんだよね!
まさかそれが功を奏すとはね~」
「そ、そうですね…ハハ…」
この人…本当にボクの教官だったのか?
いやぁ、疑いたくなるよホント。
まぁ、何はともあれ横須賀に着いた。
横須賀に着いたら1週間の休暇が与えられた。
この休暇を使って久しぶりに博多に行こう。
西九州新幹線は…まだいいかなぁ。2週間くらい休み取って九州一周してる時に乗ろう。
お読みいただき、ありがとうございます!
ほんの少しでも「良いね」と思ったらブックマーク、評価の★の方を是非!
(付けると作者が凄い喜ぶよ)
(第六章突入のお時間であります)
よろしくお願いいたします!




