第十九話 津軽海峡冬景色
前回のあらすじ:舞鶴から大湊へ移動するついでに、橋口海運の商船隊の護衛の任を受けた二航戦。
その護衛中、ロシア軍艦艇の領海侵犯に遭遇する。これに対し、伊吹は鴎隊による公海までの監視を命ずる。ロシア軍艦艇の公海突入後、艦隊は無事に津軽海峡に到達する。
貨物船団は函館へ、二航戦は大湊へ向かう。
そして、二航戦は大湊基地に到着する……
11月8日…大間崎…
「…………」
寒い。
流石に寒い。吹雪の真っただ中。寒くない訳がない。
ビュゴォォォォォォォ……
しかし、身が凍えるほどの寒さではなく、ほんの少し寒い程度。
耐寒装備が役に立った。
「飛龍が就航すれば…我が海軍の正規空母数は4隻となる…」
「中国の空母保有数を1隻上回る…!」
③計画。10万トン空母を2隻建造する計画である。
しかし計画は難航している。資材の輸入が間に合わない。特に石油である。
これを鑑みて日本政府は尖閣諸島の原油を獲得しようと考えている。
しかし、中国海警や人民解放軍艦艇の台頭によりその採掘は困難を極めている。
さて、どうしたものか…。
「日本海に埋まってないかなぁ…」
日本海に埋まっていれば尖閣よりも容易に採掘が出来るだろう。
しかし、竹島付近。李承晩ライン付近であれば話は別だ。
またまた、困難となる。
「やっぱり太平洋が安定してるかなぁ」
太平洋であれば、台頭するのは米国であり、米国とは同盟関係にある。
共同開発の可能性も有り得る。その時、原油の一部を要求してくるかもしれない。
しかし、戦になるよりマシだろう。
「そんな都合よくあるわけが無いんだなぁ…」
しかし、そんな都合の良いことは無い。
とにかく、今は尖閣諸島を完全に解決することが先決である。
最早、外交では対処は不可能だろう。
…となれば、戦闘行為しかあるまい。
だが、そうなれば日本が非難を受けるばかりか与那国島や石垣島。ひいては本土攻撃…。
世界的に見れば第三次世界大戦が始るかもしれないのだ…。
…さすれば東京が核攻撃を受ける可能性が大である。
「どうすれば…」
「先輩?」
「うわぁ!?」
「あ、す、すいません」
「え、ええんやで…?所で何で七海がここに…?」
「先輩が基地に居ないので、近くにある先輩が行きそうな場所を探してみたら…」
「居たと」
「はい!」
「流石だねぇ」
「何年一緒に居ると思ってるんですか?これくらいお見通しですよ」
「そっかそっか」
うーん、可愛い。
「何考えてたんですか?」
「尖閣に埋まってる原油の事だよ」
「あの原油の事ですか~」
「そうそう」
「何とか外交で解決出来ませんかねぇ…」
「いやぁ、もう無理でしょ~」
「いやいや!まだ交渉の余地はありますよ!」
「ボクはそう思えないなぁ…」
「うーん…」
「…七海は、海保と海軍が共同開発してる"基地船"って知ってる?」
「いえ、初めて知りました。その基地船と言うのは…?」
「一言で言えば、海上要塞。それも、移動するね」
「それをどのように運用するのですか?」
「尖閣諸島周辺海域に配置し、巡視船や艦艇の補給基地として運用する」
「これで、常に尖閣諸島周辺海域に巡視船や海軍艦艇を展開可能となる」
「そして、中国に圧を掛ける」
「ふむふむ…」
「だが、それだけでは中国は引かんだろう」
「では、どうするのです?」
「…尖閣の島々に電探施設や地上放題の建築…」
「建設中に邪魔されないでしょうか?」
「中国による工作は確実だろう」
「ですよね…」
「…石垣市の大川市議員を知ってるか?」
「はい、よく尖閣で漁をしていますね」
「彼と同じ様な事を漁民にさせるのだ」
「は、はぁ」
「大量の漁船を我々が護衛して尖閣へ向かう」
「そして漁をさせる」
「何故その様な事を…」
「目には目を歯には歯を…だよ」
「漁船には漁船を…?」
「そうだ。中国や台湾が大量の漁船を向かわせるならば、こちらも大量の漁船を向かわせる」
「成程…」
「所で、今の時間は?」
「1821ですねぇ…」
下北駅行きの最終バスは既に出てしまっていた。
こうなればタクシーしか選択肢は無い。
折角だ、基地までタクシーに乗ろう。
「タクシーで帰ろうか」
「あ、折角ですし何か食べて帰りませんか?」
「あ、いいねそれ」
「私…ちょっと高級な所行きたいなぁ~なんて思ったり…」
「いいねぇ、お高い所行こう」
「わぁい!」
可 愛 い !
護らねば、この笑顔。
それはそうとタクシー呼ばないとね。
「じゃ、ちょっと電話するね」
「はい」
ボクはスマホでタクシー会社に電話を掛ける。
プルルルルルルルル…ガチャ
[お電話ありがとうございます。陸奥交通です]
「タクシーを1台お願いしたいのですが」
[はい、お名前をどうぞ]
「秋月です」
[秋月様ですね、何処にお呼びしましょうか?]
「大間崎までお願いします」
[目的地はどちらでしょうか?]
「大湊駅まで」
[はい、了解しました。20分程で到着します。少々お待ちください]
「はい、分かりました。お願いします」
ガチャ。ツー、ツー、ツー…
「20分耐えろって」
「20分ですかぁ…。流石に辛いですね…」
「ここは極地だからね…」
24分後…
ブォォォォォォォン…キキッ。ガチャッ。
ほぼ予告通り約24分後、タクシーが到着した。
流石に耐寒装備と言えど、この寒さは応える。
「寒い…」
「暖房…付いてますよね?」
寒さから逃れるためにさっさとタクシーに乗り込んだ。
「「あったかぁ~い」」
「寒い中、ご苦労でした。出発します。シートベルトを着用願います」
運転手に促され、シートベルトを付ける。
扉が閉まり、車が動き出す。大湊駅を目指し、津軽海峡を横目に進む。
「波が荒いですね…」
「あぁ、そうだな」
「所で先輩、先ほどの話…」
「尖閣の話か」
「はい」
「あれの実現には、まず基地船の開発が終わらない事には始まらない」
「どのような物を開発しているのですか?」
「速力はこの際遅くても構わない。最も重要なのは船舶及び航空機の補給・収容能力だ」
最悪、駆逐艦に曳航させる。まぁ、自力航行出来ればなお良しと言ったところだ。
「空母に、簡単な修理ドックの機能を持たせるという事ですね」
「せやね」
「で、進度はどれくらいでしょう?」
「木造の実寸大模型が製作されている。間もなく建造が始まるだろう」
「建造は何処で?」
「呉の予定だ」
「呉…二航戦の母港ですね」
「今は、大湊だがな」
「ふふっ、そうですね」
「二航戦は、12月初頭に横須賀へと移される予定だ。その時は一航戦との演習を予定している」
「もうそこまで決まっているんですね…」
「あぁ、だが変更が無いとも言い切れんからな」
「えぇ、そうですね」
ブォォォォォォォン…
大湊駅近くの料亭…
「流石、高級料亭だな」
「そうですね!」
ボクと七海は次々出される料理に舌鼓を打っていた。
刺身に鍋に…量は少ないがその分味は格別だ。
にしても、熱燗なんて久しぶりだ。
「先輩って、個室好きですよね」
「そうだねぇ」
「そこまでして個室にこだわるのは何か理由が?」
「ただ単に1人の空間が好きなだけだよ」
ボクは、言うなれば個室至上主義者…。
ふざけた造語であるがそうとしかボクの語彙力では表しようのない。
車だろうと列車だろうと個室があればいくら払ってでも乗る。
今となれば個室付きの車両が減ったのは残念でならない。
「だが、七海と居るのは嫌いではない」
いささか、遠回りな言い回しをしてみた。
さて、気づくか否か…。
「そ、それはつまり…えっと…その…」
あー。七海の顔が真っ赤になってる。可愛い。
流石、ボクが言わんとしてる事がすぐわかる。
「やっぱり七海は可愛いなぁ」
「私って…そんなに…可愛いですか?」
「あぁ、可愛いよ」
「えへへ…」
おっと、七海が酔って来たみたいだ。
ここの酒は少し度が高いからな。
「ねぇ~せんぱぁ~い」
「ん?」
「憲法がぁ~改正されずにぃ~自衛隊のままぁ~存続してたらぁ~どうなってたとぉ~思いますかぁ~?」
酔いの席でする話ではないだろう…。
いや…うーん、実際存続していたらどうなっていたのだろうか。
「せやなぁ…」
領海侵犯や領空侵犯に対しては、今よりも弱気になっていただろう。
しかしそればかりではない。行動にもかなりの制限がかかっていたであろう。
正規空母の建造も不可能だっただろう。
「少なくとも、空母の建造は無理だろうね。野党が騒ぎ出す。〔憲法違反だ!〕ってね」
「それに、今みたいに簡単に射撃は出来なかったと思うなぁ」
「そうですかぁ~」
「海保による放水程度に収まっていただろうね」
「それじゃぁ効果がほぼ無いじゃないですかぁ!!!」
「それはそう。国民はそれに1992年には気づいていた」
「だから、改憲が為されたのだ。当時、国会議事堂前じゃ抗議デモが行われていたそうだ」
「デモなんてするんですねぇ~」
「流石の日本国民でも、我慢には限度があるという事だよ」
「他国なら革命が起きてたでしょ~ね~」
「あははっ、そうだねぇ」
ボクと七海の議論は白熱した。
幸い、明日は休みであった。故に朝まで飲み明かし、語り合った。
『改憲が為されず自衛隊が存続していたら』そんな世界を想像していた…。
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