サラレティア編〈4〉
第二王子は初日の挨拶以来ご飯の時も部屋から出てこないサラレティアを不思議に思っていた。何か問題でもあるのだろうかと。しかし話してみても普通でこれと言って何か変わったところがあるわけではなかった。ならば家族との軋轢だろうか。
次の日第二王子は自分に纏わり付いていた二人の娘の足止めをを王太子に頼みサラティアの部屋を訪ねた。サラレティアはまたも突然現れた王子に驚いたが笑顔で部屋に迎え入れた。王子は昨日と同じ様に他愛もない話を一時間程して出ていった。
媚びてくることもなく会話が弾んだ事でもう少し詳しくサラレティアの事を知りたくなった王子は一緒に付いてきた護衛に調べてくるように言い付けた。しかし使用人達はサラレティア自身の話はするものの家族との関係については殆んどの者が口を噤んでしまい知ることができなかった。そこで王子は家令のクロードを呼び話を聞こうとするも上手く言葉を濁されこちらも聞き出すことができなかった。だがお陰でサラレティアが部屋に閉じ籠っているのが自分の望みではなく家族間の問題で出てこれないのだろうと推測することはできた。
だが推測はできても実際にされていることは分からず何とか調べることができないか悩んでいた王子はサラレティアの傍に居たリューイの事を思いだし呼び出した。だがもしかしたらリューイも他の使用人達と同じ様に口を開かないのではないだろうか。そう考えた王子だがリューイはそれを裏切ってあっさりと話し始めた。
その内容に王子は怒りを覚えた。サラレティア本人には何の落ち度もないのに自分達の望んだ通りではなかったと言うだけで親が子に対してそんな行動を取るなんて。何故家族の誰一人その行いを正そうとする事がなかったのか。何故間違いであると気づかないのか王子は納得できなかった。そんな風にサラレティアの事を考えて湧き出たこの気持ちは同情なのかそれとも友情の様なものなのかそれとも別の何かなのか今の王子には判らなかった。
王子はため息を吐くとふとリューイに対して抱いた疑問を投げ掛けた。
「他の使用人達は遣えている主の事を思い口を噤んでいたのに君は気にすることもなく教えてくれたね」
「確かに僕を雇ってくれているのは公爵様ですが 僕が遣えている主はサラレティアお嬢様です。だから少しでもお嬢様の為になる可能性があるならどんなことでもします」
「成る程。君は忠誠心をサラレティア嬢に誓っているわけだ。でも話を聞いたからってサラレティア嬢の為に何かするとは限らないよね」
「ええ、わかっています。でも僕も言ったはずです。少しの可能性にでも掛けると」
リューイの真剣な眼差しは王子を見つめ続ける。王子もまた目を反らさずにリューイを見ていた。暫くの間視線を交わしていた二人だが王子が気を抜いたようにフッと笑った。
「君のサラレティア嬢への思いはわかった。まだ遣えて一年も経ってないのにそこまでの思いがあるなんて羨ましい。突然呼び出して悪かったね。下がっていいよ」
失礼しますと頭を下げリューイは部屋を出た。王子にこの家の状況を話したが何か良いように変わるとはリューイは思ってはいなかった。いくら王子と言えど他人の家に口を挟めるはずがない。ただ自分で言ったようにほんの少しの可能性にもすがりたかっただけだ。泣かなくてすむように、悩まなくてすむように最低限の事だけでも何とかしたかった。
コンコンコン。
「お嬢、ただいま」
「おかえりなさい。殿下は何て? 何か気を悪くなさるようなことでもしてた?」
「ううん、違うよ。お咎めとかじゃないから安心して。少し話をしただけだから」
「そう? だったらいいけど」
「大丈夫だよ」
サラレティアは納得いかない様子だったがリューイがさっさと話を切り上げたのでそれ以上は追及するのを諦めた。
王子達一行がアウトゥムヌス家を去る日がやって来た。サラレティアも見送りのために玄関まで出てきたが硬い表情をして俯いている。第二王子は公爵と言葉を交わしながら視線をサラレティアに向け様子を見ていた。そしてそのまま斜め後ろに立っているリューイに視線を移すと目線を合わせ口角を僅かに上げる程度に笑って見せた。周りに居た公爵や公爵令嬢達はそれに気付くことはなかった。
その笑みにどんな意味があるのか読み取ることができなかったリューイは思わず眉間に皺を寄せてしまうが 失礼があってはならないと直ぐに戻した。いい意味での笑顔であれば良いのだけれどと僅かな可能性を思いながら。
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