王都にて(8)
城に戻ると四時近くなっていた。部屋に戻り朝焼いたクッキーを出す。本当は今日孤児院に行くつもりはなく城でゆっくりしてクッキーを食べるつもりだった。だが捨てるという豪華な料理を孤児院の子達に持っていきたいと思った。直ぐに食べないといけないという思いから急遽孤児院に行くことにしたのだった。ならばクッキーを焼くのを別の日にすれば良かったのだがそこまでは頭が回らなかったようだ。
四種類のクッキーをテーブルに置き炎と海に頼んでポットにお湯を入れてもらう。ティアはわたしが焼いたのとみんなに食べてもらう。小さな精霊達も、沢山食べられる様にと小さくされた瑠璃も食べてくれた。大人数で食べたので直ぐになくなってしまったがみんな喜んでくれたようだ。
「ティアその包みは?」
「これはお礼とお詫びに渡そうと思って分けといたの」
そこには厨房で貰ったペーパーナプキンで包まれセドリックに用意してもらったリボンが巻かれているクッキーが四つ置いてあった。その内の三つを持って渡してくるねとティアは部屋を出ようとしたが迷子にならず部屋に辿り着ける自信がなかったのでニコニコしながら此方を見ている真珠に付いてきてもらうことにした。
「何でそんなに嬉しそうにしてるの」
『ふふふ。恋の匂いがするもの』
「ふーん??」
ティアは真珠の言うことが今一理解できなくて曖昧な返事をしてしまった。しかし真珠はそれを気にすることもなくニコニコしていた。
目的の部屋に近付くと何やら賑やかだった。
「ですからお取り次ぎできません」
「挨拶するのだと言ってるおだろう」
「そうよ。文句を言わず取り次いで頂戴よ」
「個別にお会いしないと前もって通達されているはずです」
「明日城を発つ挨拶だと言っておるだろうが。解らんのか」
扉の前で警護の人と貴族の親子が言い合っていた。内容を聞く限り貴族達の我が儘のようだ。しかし困った。今の話からどうやらレオンには会えないようだ。だが一応と思い扉の前に立っている警護の内の一人に話し掛ける。
「すみません。レオン王子に会わせてもらうのは無理なんですか」
「申し訳ありませんがお取り次ぎできません」
「じゃあセドリ・・」
セドリックさんはと口を開きかけたところで貴族の親子が騒ぎ出す。後から来てなんだとか図々しいのよとかお前になどお会いになってくださるかなど自分達の事は棚上げである。
部屋の中では廊下でいつまでも騒がしくしているのに腹をたてエドワードが顔を出して貴族の行いを嗜めた。流石に今度は貴族の親子は諦めたのかすごすごと去っていく。溜め息をついてその後ろ姿を見送っていたエドワードは自分の横にもう一人子供が居るとこに気付き部屋に戻るように言おうと口を開くもその姿を見て驚いた。
「リン。何でこんな所に居るんだ?!」
「ちょっと渡したいものがあって。これわたしが焼いたクッキーだから味の保証はしないけどこの前のお詫びにと思って。三つ有るからよければ食べてね。それじゃあお邪魔しました」
ティアは自分の言いたい事だけ言ってその場を後にした。何も言えなかったエドワードはクッキーを持って部屋に入るとレオンに何だったのかと聞かれた。
「レオンに挨拶させろと言ってきた親子がいた。後クッキーを焼いたからと・・」
「そうか」
「いや、このクッキー・・」
「今忙しいからそんな報告はしなくていい」
レオンはエドワードの話を取り合おうとしなかった。エドワードも忙しさと先程の騒動で機嫌の悪くなったレオンをこれ以上怒らせないようにと口を閉じることにした。しかし仕事が終わってからクッキーがティアからだと告げると結局怒られるのだった。
用事が終わったティアは部屋に戻る途中で先程の貴族の娘に階段付近で呼び止められた。どうやら父親は先に部屋に戻ったようだ。貴族の娘はティアに悪態をついてくる。興味のないティアが適当に相手をしているとそれに腹をたて更にいい募ってくる。
「あんたなんか王子に相応しくないのよ! 見窄らしい格好して!さっさとこの城から出ていきなさいよ!」
そう叫ぶとティアを両手で階段へと突き飛ばした。フワリと体が浮き階段下まで落ちかけたティアをガシッと大きな体が抱き止めた。その体の持ち主はギロッと貴族の娘を睨み付けた。
「どういうつもりだ」
腹の底から出された低い声に貴族の娘はガクガクと震え“その子が悪いのよ”と叫びながら走って逃げていった。
「助けてくれてありがとう。おじさんこそどういうつもり」
「恩人に向かってその言い方はないんじゃないか」
「おじさんこのお城に関係ある人だったの?」
「いいや。後おじさんはやめろ」
関係ない人なら此処に居るわけにはいかないとティアは自分達に宛がわれている部屋へさっさと戻る事にした。
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