悪意に負けずに頑張ります(1)
「疾風大へんだよ!おきて。なんでかしらないところにいるよ!」
何時もの森に居たはずなのにいつの間にか知らない場所に来てしまった。取り敢えず一人ではなかったことに安心したものの突然のことにどうすればいいのか分からない。疾風に掴まろうと手を伸ばせば目を覚ましたのか立ち上がろうとしているところだった。
今の状況を話そうと疾風を見るととても冷たい目をしている。どうしたのかと思い話し掛けようとしたら疾風が尻尾を鞭のように振り上げわたしを目掛けて叩きつけた。
「いっっっ!!!」
何故だか分からないが疾風がわたしを襲ってきた。飛ばされた衝撃の痛さもあり動くことも話すこともできない。息も上手くできずに苦しい。疾風はゆっくりとわたしに近付いてくる。
今度は右足でわたしを蹴りつけた。
「ぐぅっっっ!!」
蹴られた衝撃と地面に叩きつけられた衝撃に体が悲鳴をあげる。もう自分の力では指すら動かすことができなかった。たった二発でここまでボロボロにされてしまった。気が付かないうちに疾風を怒らせることをしてしまったのだろうか。もしそうだったとしてももう謝ることもできなさそうだ。
(ごめんね疾風)
相変わらず冷たい目でわたしを見ている疾風。もう目を開けている力もない。ゆっくりと瞼を閉じていく視界の中で疾風が大きく口を開けわたしに噛み付こうとしているのが見えた。
(はや・て・・・)
「・・・ア。・・ィア!おい、大丈夫か!ティア!」
暁の呼び声で目が覚めた。はぁはぁと荒い息をして辺りを見る。夢だったのか。だがあまりの恐怖に体は震えていた。
『ティア大丈夫?』
心配して声を掛けてくれた疾風に対し、驚きと恐怖で体がビクッとしてしまった。
「は・・はや・て。あの・・・」
夢のせいで疾風と上手く話せない。怖くて何時もみたいにしがみつくこともできない。どうすればいいのか分からず震えたままの手を暁に伸ばして服を掴んだ。異変を感じ取ってくれたのか暁はわたしを抱き上げ少し外の空気でも吸わせてくると言って連れ出してくれた。暁は丁度良さそうな石の上にわたしを抱っこしたまま腰を下ろした。
「どうしたんだ。何時も疾風にベッタリなのに」
暁が不思議そうに聞いてきたがまだ体の震えも止まらないし上手く話せそうになかった。そのことに気付いてくれたのか大丈夫だからと言って背中をポンポンとし続けてくれた。
暫くして少し落ち着いたので暁にさっき見た夢を話すことにした。
知らない森に疾風と二人で居たのだけれど、いきなり疾風に襲われて食べられそうになり 意識が朦朧としてきたところ暁の呼び声で目が覚めた。現実の疾風が襲ってきた訳ではないと分かっても、夢があまりにも怖かったので疾風と上手く話すことができなかった。まさか疾風を怖いと思うことがあるなんて思いもしていなかった。このまま本当に疾風を怖いと思ったまま触ることができなくなったらどうすればいいんだろう。
暁は黙って聞いていてくれたあと、そんな夢を見た直後じゃ怖くても仕方ない。落ち着けばまた元通りに戻れるよと言ってくれた。
「みんなが心配するからそろそろ戻ろうか」
暁に抱っこされたまま戻ると疾風が近寄ってきた。心配そうに、少し寂しそうに此方を見ている気がする。何て言えばいいか分からない私の代わりに暁が疾風に話してくれた。
「夢見が悪かったみたいだから暫くしてそっとしといてやれば落ち着くだろう」
『そう。もう大丈夫なのティア』
「・・うん。ごめん・ね」
他のみんなも心配そうに見ていたが誰も話し掛けてはこなかった。
小屋の隅に置いてあるクッションの上に下ろしてもらい 一人丸まって座った。ハーッとため息を吐き気持ちを落ち着かせる。何であんな夢見たんだろうかと思いながら少し離れた場所にいる疾風を窺い見る。明日には元通りになれるといいな。今直ぐ傍に行ってくっつきたい気持ちもあるがもし怯えてしまったらどうしよう。こんなに近くに居るのに離れているなんて考えられない。
「疾風」
とても小さな声で言ったのに疾風には聞こえたのか返事をしてくれた。
『此処に居るよ ティア』
何時もの優しい声で。疾風と言うとうんと答えてくれる。疾風─。
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目が覚めてからティアがなんだか僕を怖がっているような気がする。それに気付いた暁がティアを外に連れ出して行ったが 寝る前はあんなに甘えていたのに何故だろう。今迄こんな風に避けられたりすることなんてなかったのに、気が付かないうちに何かしてしまったのだろうかと考えても思い付かない。何よりも大事にしてきたのに怖がらせてしまうなんて。どうすればいいのか分からない。暫く一人で悩んでいるとティア達が戻ってきた。暁は夢見が悪かったみたいだから暫くしてそっとしといてやれば落ち着くだろうと言った。
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