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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
最終章「そんな普通の世界を護りたい」

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74.反撃

「私がエリートを守るから!!」


 そうだった。俺が一方的に守るんじゃない。彼女も、ココロも俺を守るんだったな。冒険者登録をしたばかりの頃、彼女にそう言われたことを思い出す。



「ぐはっ……」


 ただ、ココロが戻って来てくれた嬉しさとは逆に、口からの吐血が止まらない。全身を神力の弾丸で貫かれ、彼女が戻ったことで俺も魔神の力が消滅。ただの村人にとってはもはや致命傷になりかねない大怪我だ。俺を支えながらココロが言う。


「酷い怪我!! 大丈夫、私が治してあげる!!」


(え……?)


 そう言ってからココロが俺の体に触れると、不思議なことに全身の怪我が治癒され、体の痛みが消えていった。回復魔法ヒールか何かの類。オリジナルスキルだろうか。やはり勇者の力は計り知れない。



「ルージュちゃんも!」


 ココロは俺をゆっくり地面に座らせ、同じく疲労と怪我で動けなくなっているルージュを回復。もはやその姿は女神にすら見える。



「ココロ!」

「戻って来たんですね。ココロ」


 サヤカとキャロルがココロに駆け寄り抱き着いて喜びを表す。俺はそんな彼女たちの後ろに立つ、青髪のポニーテールの少女を見つけ声を掛ける。



「おい、ニッカ」


「……うん」


 ニッカが俯いたまま小さく答える。その姿で俺はおおよその意味を理解した。


「もう一度聞く。お前はどうしたい?」


 一瞬体をビクッと震わせてから、ニッカが顔を上げて答える。


「ウィル様と一緒にいたい。だから、だからボクも戦うよ!!」


 俺は少しだけ笑みになり、そして答える。


「分かった。無論最初から俺もそのつもりでいた。ただ、もう()()()には活躍の場はないかな」




「あれが報告にあった小娘か?」


 そんな俺たちを離れた場所からじっと見つめる純白の白衣を着たアーグレイ。レザウェルからの報告で『魔神を無効化する人族』がいることを聞いている。ただ、その人族が現れたと言うことはレザウェルの策が失敗に終わったことを意味する。


「混血の幼馴染もやはり無能であったか。神を無効化? そんな戯言に踊らされる我々ではない」


 追い詰めていた下賤な謀反者たち。そこに現れた援軍。ただそれは『人族の娘』と『下級魔神ひとり』だけ。未だ数で圧倒する魔神評議会。負けることなどないと思っていた。下界を、神界を支配する自分たちが。


「負傷した者の治癒を急げ。それ以外は全員、謀反者を討ち取れ!!!」


「「はっ!!」」


 老長アーグレイの号令を聞き、俺たちを取り囲んでいた配下の魔神たちが一斉に襲い掛かる。くだらない戦いを長引かせたくない。老長にはそんなつまらぬ矜持がまだあった。



「ココロ、そしてサヤカにキャロル!! 待たせたな。お前らの出番だ。暴れて来い!!」


「うん!」

「分かったわ!!」


 俺の指示に三人が笑顔で答える。


「ルージュにバルクホルム。回復ができたら行くぞ!!」


「いいぞ! 第二ラウンドだな!!」


(当然だ。この程度の怪我など!!)



「ニッカ、お前はここで待機。分かっていると思うが、お前は今『ただの村娘』だ」


「う、うん。ボクはここにいるよ……」


 その意味を十分理解しているニッカ。なぜならついさっき、森の小屋に現れた評議会の魔神たちを一方的に打ち倒したココロの強さを目の当たりにしたばかりだから。




「行くぞ、うおおおおおおおおおおお!!!!」


 ココロが青き勇者の剣を振り上げ駆け出す。


「私だって!! 燃えろ、フレイムソード!!!!」


 同じく朱色の剣を手にキャロルが続く。



「人族の小娘が生意気な!!」

「魔神の強さを見せて……、あ、あれ!?」


 魔神たちは駆けながら気づいた。力が出ないと。



「はああああああ!!!」


 ズン!!!



「はっ!!」


 ズドオオオン!!!!


 ココロとキャロルの剣戟。後方からはサヤカの魔銃が火を吹く。



「うわああああ!!!!」

「ぎゃあ!!」


 楽勝だと思っていた魔神たちから悲鳴が上がり始める。圧倒的人数差。魔神と人族。いったいどこに負ける要素があるのか。確実な勝利の下、謀反者制圧に向かった魔神たちが人族達の攻撃の前に次々と倒れていく。



「私も行くぞ!! うおおおお!!!」


 ココロに回復され、復活した大魔王ルージュが雄叫びと共に魔神たちへと突撃する。対照的に評議会の魔神たちは大混乱に陥っていた。



「ど、どうなっている!!」

「力が出ない!?」

「体が重い……!!」

「魔法も、使えないぞ!!!」


 至る所から噴き出す困惑の声。彼らは魔神として生まれ、魔神としての力を持ちずっと生きて来た。無論、その根源である神の力を封じられたことなど一度もなかった。だから戸惑った。初めての経験に。



「ば、馬鹿な……、こんなことが……」


 それはもちろん、老長アーグレイとて同じこと。体を襲う正体不明の気だるさ。神力どころか立っているだけで眩暈がする。

 そして目の前に広がる信じられない光景。魔神界を制する自慢の精鋭たちが、下界から来た訳の分からぬ奴らに圧倒されている。ただそれは当然のこと。勇者の剣を携えた勇者、宝刀フレイムソードを持った姫様、大魔王ルージュに、エリートの魔法を使役するサヤカ。そんなメンバーに『ただの村人たち』などが束になっても敵うはずがない。



「さて……」


 俺は体の回復を待ってからゆっくり立ち上がる。ガルディア砦で調達した新たな剣もまだ十分使える。そして見据えるのは、魔神たちの奥でその様子を苦虫を嚙み潰したような顔で様子を見つめる老長。


「お前は俺が討つ!!」


 魔神評議会の頭であるアーグレイ。彼を討ち取りさえすればこの理不尽な決め事に終わりを告げられる。俺は乱戦の合間を縫うように駆け、最後方に立つその老人に向けて剣を振り抜く。



 ガン!!!!


 老長アーグレイが腰に付けていた純白の剣でそれを受け止める。低く鈍い音。俺は神力を封じられた状態でこの一撃を受け止めた老体に驚く。


「何が目的だ」


 アーグレイが静かに俺に尋ねる。周りの激戦とは一線を画す静寂の合間。老長と俺の視線がじりじりと火花を放ちぶつかり合う。


「簡単なこと。無実の勇者を殺す。そんな馬鹿な常識を俺は変える!!」


 剣を構え直したアーグレイが答える。


「勇者は世界のバランスを崩す存在。魔王が死に、人族だけが栄え、やがて人族も自滅していく。そうすれば我々魔神とて未来はない」


「俺が魔王を制す!! 人族滅亡なんてさせねえ。だったらいいだろ!?」


 アーグレイは俺の後方で暴れまくる大魔王ルージュを見て言う。


「それであの下賤な存在を連れて来たのか。なんと短絡的思考……」


「短絡でも下賤でもいい!! 悪くねえ奴を殺さなきゃならないクソったれた常識を俺ばぶっ壊す!!!」



 ガン、ガガガガガガガアン!!!


 剣での連撃。俺には珍しい怒りの感情が籠った攻撃。アーグレイはそれを純白の剣でいなしながら言う。


「『魔神殺しの剣』がこうも重く感じるとは。あの小娘の力、本当だったか……」


 レザウェルからの報告を聞いた時は一笑した。だから失敗を重ねていた彼にその対処を一任した。結果、やはりまた失敗に終わったようだが、あの報告を真摯に受け止めなかった自身にもその責任はある。



 ガン!!!!


 剣と剣が激しくぶつかり合う。俺は内心驚いていた。魔神力を奪ったはずなのにこの剣捌き。さすが評議会の長を務める老長と言ったところか。アーグレイが言う。



「古より継がれてきた世界を守る秩序。我々魔神だけじゃない。すべての種族にとって必要なこと。その為に必要な少しの()()。魔神のお前になぜそれが分からない!?」



「少しの……、()()、だと……?」


 俺はその瞬間に経験したことのないほどの怒りが込み上げてきた。剣を振り上げながら叫ぶ。



「そんな誰かの犠牲の上に成り立つ世界など、俺は要らねえんだよ!!!!」


 ガン!!!! バキン!!!!


 俺の剣と、それを受け止めたアーグレイの剣が激しくぶつかり合い、両者とも音を立てて折れる。


「馬鹿な!? 『魔神殺しの剣』が!?」


 俺は驚き動揺するアーグレイの顔を掴み、そのまま地面へと勢い良く叩きつける。



 ――俺がココロを、



「護るっ!!!!!」



 ドン!!!!!!


「ぎゃあ!!!!」


 老長の叫び声。それは敗色濃厚だった魔神軍の皆の、微かに残った最後の戦意を粉々に打ち砕くには十分であった。

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