71.互いの正義のために
レザウェル・ゴッドインスチュート。俺の幼馴染であり、今は評議会の犬として敵対する相手。『護り』の使命を全うしない俺に、レザウェルは二度評議会の使者として現れ敗れた。今回もやはり『魔神殺しの剣』を携え俺の前に立つ。
「やめておけ、レザウェル。お前に俺は止められない」
だが俺としてもココロ抹殺などと言う馬鹿げた命令を聞くわけにはいかない。新たな秩序を創造する。こんなくだらない使命などない新たな世界を作るために。
「エリート。私は心のどこかでお前を認めていたんだと思う」
「レザウェル?」
思ってもみない言葉。驚く俺にレザウェルが続ける。
「お前は強かった。子供の頃から何度も手合わせをしたが、私は一度も勝つことはできなかった。魔法も然り。混血だろうが何だろうが、お前はすごかった」
「……」
何を今更そんな昔話を。そう思う俺にレザウェルが言う。
「だからお前を失いたくない。今なら極刑は免れるよう私が助力する! ここにあの魔神を無効化する人族はない。さあ、諦めるんだ!!」
「!!」
俺は驚いた。レザウェルの口からその言葉が出たことを。
「おい、ひとつ聞く……」
レザウェルが少し笑みになって答える。
「何だ? ようやく心を決めて……」
「お前か? ココロを攫ったのは??」
「……」
今度はレザウェルが黙り込む。それが回答。俺はすべてを察した。
「そうか。ココロのことを知っている奴は何人もいない。大方、ニッカに脅しでも掛けたのだろう? あの騎士団長をどうにかするとかなんとか」
レザウェルが『魔神殺しの剣』をグサリと地面に差して答える。
「ああ、そうだ! 私がすべて仕組んだ。アーグレイ様も皆、このことは知っておられる! だからもう諦めろ!! あの人族がいないお前に勝ち目はない!!」
「……るせえよ」
「なに?」
「うるせえって言ってんだよ!!!!」
「!!」
俺の怒声。レザウェルが思わず後退りする。
「何考えてんのか知らねえけど、てめえはやっぱ評議会の犬だな!! 俺は勇者と言うだけで殺される何の罪もない奴を救いたいだけだ。そんな世界を作りたい。俺の願いはそれだけだ!!」
「勇者は世界の秩序を破壊する。だから居てはいけない存在なのだ! それが分からないのか!!」
「うるせえ!! 居てはいけない存在などある訳ねえだろ!! 誰だって居てもいい世界を作る。こんな簡単なことがなぜ分からなねえんだよ!!」
「……エリート」
レザウェルは地面に突き刺さった『魔神殺しの剣』をゆっくりと引き抜き、俺に向けて言う。
「お互い魔神の力をすべて出して戦おう。新しい秩序を作りたければそれに相応しい力が必要。私はお前の考えに賛同はできない。だから私も全力でお前を止める!!」
俺も剣を抜き、レザウェルに構えて言う。
「上等だ。お前とはいずれきちんと決着をつけたいと思っていたよ。力づくでここを通らせてもらう!!」
「行くぞ!!」
俺は手でルージュたちを制してから、突撃してくるレザウェルに向かう。
カン!!!!!
響き渡る乾いた剣の音。レザウェルが持つ『魔神殺しの剣』は、所有者の魔神力を吸い莫大なエネルギーに変換して敵を討つ。
(だが負けねえ!!!)
そうだからと言って負ける訳にはいかない。幼馴染だろうが何だろうが、俺の前に立つもはすべて倒して進む。
ガンガンガンガガガガガン!!!!
一方のレザウェルは、幼馴染の剣戟の前にすでにその実力の差を認めていた。
(分かっていた。私とエリートでは端から違うことを。やはり私は勝てない……)
そんなこと幼い時から知っていた。彼は別格。戦うことすべてにおいて自分より上。
「だが!!!!」
レザウェルが後方に大きく跳躍、片手を上げ魔法を詠唱する。
「貫け、神剣の剣戟!!!」
空中に現れた数本の神の剣。金色に光り、すべてが俺に向けて放たれる。
「はああああああ!!!」
カンカンカンカン!!!!
「馬鹿な!?」
俺はその全てを剣で弾いていく。
レザウェルは焦った。ある意味当然の結果だったのかもしれない。『魔神殺しの剣』で強化された魔力でも、やはり彼には敵わないと。俺が言う。
「見せてやるよ。俺の魔法」
レザウェルと同じく右手を大きく上に掲げ、魔法を詠唱。
「出でよ、神剣の剣戟」
ゴオオオオオオオオオオ……
「な、何だと!?」
レザウェルと同じ剣戟の魔法。ただ現れた神の剣はたった一本。だがその大きさは見上げるほど巨大なもの。太く重厚で、巨大な剣。金色に光るその神々しい神の剣が、一気にレザウェルへと落とされる。
「魔法障壁!!」
すぐさまレザウェルが防御。神剣と障壁が音を立ててぶつかる。
ドン!!!!!
「ぐっ……」
もう誰の目から見ても勝敗は明らかであった。巨大な神の剣に、それに対する貧弱で薄い魔法障壁。静寂の中、じりじりと巨剣が魔法障壁を少しずつ砕き始める。
パキッ、バリン!!! ドオオオオオン!!!!
そして俺の神の剣がレザウェルの魔法障壁を破壊し、一気に地面へと突き刺さる。
「もういいだろう。レザウェル……」
金色の巨剣はレザウェルの目の前の地面に突き刺さり、そしてゆっくりと消えていった。レザウェルは真っ青な顔になり、両膝をついて項垂れる。
「先に進ませてもらう」
「……」
お互い自分の決めたことを最後まで信じて戦った。俺には俺の、彼には彼の正義がある。ただ自分の意志を貫くには時に強さが必要となる。今回は俺が勝った。だから俺は前に進む。立場が逆だったらどうなっていたのかは分からない。
「エリート」
項垂れていたレザウェルが小声で言う。
「……何だ?」
俺は足を止め、背を向けたままそれに小さく答える。レザウェルが言う。
「最後まで貫けよ。お前にはその義務がある……」
「分かってるよ、それぐらい」
決して負けない。決して諦めない。俺はそれがレザウェルからのエールに聞こえた。
「なあ、無事に帰って来られたら、またお前の家に遊びに行ってもいいか?」
懐かしい言葉。昔はよく一緒に遊んだものだ。
「ああ、もちろんだ。美味い焼き菓子でもごちそうするぜ」
「それは楽しみだ。私もおばさんが焼くあのお菓子はとても好きだった」
俺は軽く手を上げ、歩き出す。
「エリート!!」
「エリート様!!」
サヤカやキャロルが俺の後に続く。引き返すことなどできない。俺はすべてを背負って評議会に殴り込みをかける。




