70.懐かしい刺客
「痛てててててっ……」
「おい、お前。立てるか??」
俺とルージュ、そしてバルクホルムの三人は、大激闘の末、グラッドマン率いる魔神隊の制圧に成功した。ただ、そうは言っても相手は魔神。こちらも無傷と言う訳にはいかない。
地面に仰向けに倒れた俺がルージュに答える。
「ああ、まあ、何とか……」
グラッドマンとの戦いで全力を出し切った後の乱戦。さすがの俺も全身の激痛と疲労でしばらく動けそうにない。同じく地面に倒れたバルクホルムが声だけは威勢よく言う。
「俺はまだ足りねえぜ。もっともっと魔神どもをぶっ殺してやる!!」
あの激戦の中、本当に魔神を殺したのかどうかは知らない。たださすがに疲れたのか、バルクホルムもその言葉を最後にすっと姿を消した。
「エリート!!」
「エリート様ぁ!!」
遠くからサヤカやキャロル、そして母親が心配そうに駆けて来る。
「す、すごい! これ全部倒したの!?」
地面にくたばっているグラッドマンやその配下の魔神たちを見てキャロルが驚きの顔で言う。
「ま、まあ、一応……」
そう、一応だ。やはり多勢に無勢。辛勝したものの、純粋な力比べでは数の前には分が悪い。母親が言う。
「グラッドマンも倒しちゃったんだ。すごいわね!」
そして奴らを率いていたボスであるグラッドマン。こういった強いカードが混ざると制圧にも想定以上の苦戦を強いられる。
「回復するわ」
母親、そしてサヤカが魔銃で俺たちを回復。とりあえず立てるようにはなった。俺が言う。
「ココロの行方はまだ分からない。ただ、確実に評議会の連中が絡んでいる。そこで奇襲をかけようと思う」
「奇襲?」
そう尋ねるキャロルに俺が答える。
「そうだ。ココロなしでの正面突破は不可能だと分かった。だから俺とルージュで評議会へ忍び込み、ココロの居場所を探る。やはり奴らと戦うにはココロが必要だ」
「そうですね。エリート様がここまで苦戦するとはさすが神々と言ったところですね」
サヤカも俺の案に賛成する。やはりカギはチートスキルを持ったココロの確保。母親が言う。
「分かったわ。私はじゃあ、評議会に不満を持つ魔神たちに接触する。この世界を変えたいって人たちは少なからずいるからね」
「そうか、じゃあ頼む」
正直この戦いに母親は巻き込みたくない。ただこの世界で味方は欲しい。俺たちの願いに賛同してくれる仲間が。俺が服についた埃を払い、皆に言う。
「じゃあ、行くぞ。魔神評議会へ!!」
「「はい!!」」
俺たちは新たな奇襲作戦の為、魔神評議会へと向かった。
「ねえ、ニッカちゃん。お願いだからこのロープを解いて!!」
鬱蒼と茂った森の小屋。その中で監禁されたココロが部屋の隅に座るニッカに言う。青髪のポニーテールのニッカ。気のせいか頬が痩せているように見える。
「ごめん、何度も言うけどそれはできないよ。ココロにはもう少しだけじっとしていて欲しい」
「もう少しっていつまで? 私がいないとエリートたちが大変になるんだよ!!」
分かっている。だからあなたを攫った。ニッカは俯き、無言でそれに答える。
「私とエリートがいればこの世界だって変えられる! ニッカちゃんと騎士団長だって平和に暮らせる。約束するよ、絶対に変えてみせるって!!」
「……ココロは何も分かっちゃいない。魔神がどれだけ恐ろしいかって」
ココロがやや声を大きくして言う。
「そんなの分かる訳ないじゃん! 私の前だとみんなただの村人になっちゃうんだから!!」
「しっ!! 声が大きいよ!!」
ニッカにはココロ抹殺命令が出ている。ここに連れて来て監禁しているのも実は彼女の勝手な行動。まだ生かしていることが知られたら自分ともども皆殺しになるだろう。
「魔神評議会には誰も逆らえない。強い刺客とか一杯抱えているし、幾らエリートが強いからって無理なんだよ……」
「そんなことない! 絶対私とエリートなら……、ふがふがっ!?」
ニッカは部屋にあった布でココロの口元を縛り黙らせる。これ以上騒がれたら面倒だ。
「エリートたちが負けたらココロは下界に逃がしてあげるよ。でも絶対勇者を発現しないでね。それが殺さない条件。お願いだから……」
コンコン!!!
(!?)
その時小屋のドアを誰かがノックする音が響いた。静まり返る室内。ニッカの額に脂汗が流れる。
「おい! ニッカ、いるんだろ? 人族は片づけたのか?? 遺体を確認したいのだがどこにある? 開けろ!!」
ココロ、そしてニッカは心臓の音が聞こえるのではなかと言うほど、強く激しく鼓動した。
「ねえ、エリート。お腹空いたよ~」
「分かってる。そんなこと分かってる……」
俺たちの移動は数日に及んだ。食料は当初、自宅から持ってきた携帯食で凌いでいたが、直に枯渇。町や村はあるのだが、お尋ね者である俺が買う訳にもいかず、ましてや不法入域しているルージュやサヤカらが買うこともできない。したがって川の水で喉を潤し、果実や小動物などを狩って皆で食べた。
その夜、皆で火を囲みながらサヤカが俺に言う。
「エリート様、昔ココロがこんなことをやっていて呆れてしまいましたが、まさか今度は私たちが同じことをするとは思いませんでしたね」
そう、あれはココロが王都に行き俺たちが追っていた頃。ギルド銀行からお金が下せず野宿をしていたココロを助けた時だ。
「そうだな。あの時はココロを笑ったのだけど、これが因果応報ってやつか」
「ですね。うふふふっ」
「いや、全然楽しくないんだけど! ちゃんとした物食べたいよ!!」
それに反対するキャロル。彼女はこう見えても王族。このような野宿はやはり苦手らしい。手にした何の肉か分からない料理を前にため息交じりで言う。
「せっかく神様の世界に来たのに、はあ、なんか思っていたのと全然違う……」
「なにを想像して来たんだよ?」
「なにって、そりゃ~、もっと夢のある世界かな」
「夢ねえ……」
ある意味ここは何の悩みも問題もない夢の世界。暮らすことに困らない世界。ただ面倒なルールは幾つもある。
「私は全然大丈夫だ。美味だ」
一方マイペースなのが大魔王ルージュ。先ほどから得体の知れないものをどんどん口に入れている。俺が言う。
「まもなく評議会へ辿り着く。しっかり夜は休んでおけよ」
いよいよ敵の本拠地へ乗り込む。俺は否が応でも体が震えた。
翌朝、支度をして出発した俺たち。予定では今日の午後には評議会に辿り着く。サヤカたちを残し、夜を待って侵入するつもりだ。
だがそんな俺たちの前に、その懐かしい顔の男が現れた。
「エリート」
銀髪に銀縁メガネのイケメン。俺の幼馴染であり、魔神評議会の犬。
「レザウェル……、どうしてここに?」
そう尋ねる俺にレザウェルが言う。
「幼馴染としてお前を止めに来た。さあ、エリート。もう止めるんだ」
「……」
黙り込む俺に、レザウェルが言う。
「分かった。ならば力づくでお前を止める」
レザウェルは悲しみの表情と共に、腰に付けた『魔神殺しの剣』をゆっくりと抜いた。




