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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第一章「魔神エリート、降臨」

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7.王国副騎士団長ラーズリー

 シュガルツ王国には三名の()騎士団長がいる。

 要だった騎士団長がとある任務で行方不明になり、残った三名の副騎士団長が魔族との戦いの指揮を執っている。いわば勇者不在の人族の希望。そのひとりがこの青髪ボブカットの少女、ラーズリー・ランドールであった。



「わらわが来たからには安心せい! 第二、第三隊は救助と雑魚ゴブリン討伐。第一隊はわらわと共にギガゴブリンを討つぞ!!」


「「はっ!!」」


 シュガルツ王国騎士団。白銀の鎧を着た団員たちが、ラーズリーの指示の下素早く行動を始める。


「グガァガアアアアアア!!!!」

「ギャガゴファアア!!??」


 厳しい訓練を積んだ騎士団員。相手は最下級に位置するゴブリン。次々と皆が斬りかかり、捕まっていた女たちを救助していく。そして副騎士団長ラーズリーもその強敵と刃を交える。



「壁を作り槍で牽制!! 時間を作れ!!!」


 彼女の掛け声と同時に、重厚な盾を持った団員が前列に出て壁を作る。その後方から長槍を持った団員が接近するギガゴブリンを牽制。ラーズリーはひとり、最後方で息を整える。



「キサマら!! 許さんゾォオオオオオ!!!!!」


 騎士団の参戦で一気に壊滅的状況に追い込まれたゴブリンたち。だが、その頭とも呼べる赤肌の悪魔は追い込まれて尚その力を発揮した。



 ドオオオオオオオン!!!!


「ぐっ……」


 ギガゴブリンの巨大な棍棒。それが前列で盾を構えていた団員に容赦なく叩き込まれる。



 ドン、ドオオオオオオオン!!!!


 分厚い盾で防御するも、ギガゴブリンの巨大な棍棒の前に隊が崩壊し始める。長槍も無意味。まるで割り箸のように次から次へとへし折られていく。本来、それなりの隊を組んで討伐しなければならないような相手。とても小隊だけで手に負えるものではなかった。ただ皆の心には後方にいる副騎士団長があった。


「皆の者、矢道やみちを開けよ!!!」


 ラーズリーの大きな声。同時に団員たちが左右に飛び、ギガゴブリンの正面を開ける。



「アガ!?」


 ギガゴブリンの目には薄暗い洞窟内で、銀色に輝く無数の弓矢が不気味に映っていた。魔力で生成された魔矢。ラーズリーのスキルは自身の魔力を無数の矢に変換し、それを同時に放つ強力なものであった。



「食らえ!! 無限弓っ!!!!」


 ラーズリーが弓を引き、矢を放つ仕草をする。これが発動条件。その動きに合わせて宙に浮いていた無数の魔矢が、一斉にギガゴブリンへと放たれた。



 ドン、ドドドドドドオオン!!!!


「グガッガァアアア!!!!!」


 皆が見惚れた。

 薄暗い洞窟内を駆ける無数の白銀の矢。それはまるで人族の希望を集めた彗星の如く光り輝き、悍ましい魔族へと次々と撃ち込まれる。



「ふうっ、ふうーーーーーっ……」


 短時間で三度目の無限弓。魔力を大量消費するこのスキルは、体の小さなラーズリーには大きな負担であった。ただそれだけの価値はある強力な攻撃。魔矢を受け全身から流血し、足元がふらつくギガゴブリンを見て皆が安堵した。ラーズリーが叫ぶ。


「今だ!! とどめを刺せ!!!!」


「「はっ!!!」」


 手負いの敵。剣や槍を持った騎士団員たちが一斉にギガゴブリンに突撃する。




「ココロ、大丈夫!?」


「あ、うん。なんとか……」


 あらかた排除された雑魚ゴブリン。村の女に介抱されながらココロが意識朦朧の中、ぼんやり思う。


(騎士団が来てくれてよかった。私は、まだまだね……)


 みんなを救う勇者。憧れの勇者。だけど自分はまだEランクの冒険者。これが現実。これが事実。痛みでまだ動かない体。ココロは倒れたまま騎士団の活躍を見つめた。

 だがその目に厳しい現実が映し出されようとしていた。



「ウゴガアアアアアアアアア!!!! 許さヌ、許さヌゾおおおおおお!!!!」


 手負いの敵、全身から流血するギガゴブリンが突如雄叫びを上げ、突進してきた騎士団員たちを投げ飛ばし始める。追い込まれたギガゴブリン。それが逆に破壊の炎を激しくさせた。



「まずい!! くっ、無限弓っ!!!!」


 的確な状況判断。戦況を変えられる前に、ラーズリーが最後の魔力を振り絞り無限弓を放つ。ただ短時間で四度目。確実に威力は落ちていた。



「人族ガァアア!! 皆殺しダァアアアアアアア!!!!!」


 ギガゴブリンは強かった。結論から言えばそうなるだろう。

 急遽村に駆け付け、半分近くの団員を村に残しやって来た敵の巣窟。完全な状態ではない中での強敵との戦い。先の個体はなぜか半死だったので討ち取れたが、興奮し暴れまくるギガゴブリンはやはり今の状況で討ち取ることは容易ではなかった。



「きゃあああ!!!」

「ぐわああああ!!!」


 団員や村の女たちが次々と暴れるギガゴブリンによって吹き飛ばされていく。ある意味本来の魔物の姿になったギガゴブリン。興奮し、暴れるその姿はもうただただ見ているしかできなかった。



「くそっ!! わらわは退かぬ!!!!」


 魔力が尽き、護身刀でギガゴブリンに詰め寄るラーズリー。それは副騎士団長の意地。相討ちでも討ち取りたいと覚悟を決めた矜持。


「うわああああ!!!!」


 そして同じくピンク髪の少女が短剣を持ってその赤き悪魔に突撃する。


「ココロちゃん、もうやめて!!!!」


 村の女の悲痛な叫び声。ただココロの中に眠る勇者への憧憬が彼女を動かしていた。



 ドオオオオオオオン!!!!


 一瞬だった。

 強い気持ちを胸に、挫けず抗った二人の少女の意思は、ギガゴブリンが手にした巨大な棍棒の前に無残に散っていった。



「きゃあああ!!」

「ぎゃっ!!」


 ラーズリー、ココロともに直撃を受け吹き飛ばされて動かなくなる。自分たちが相手にしていた敵とはこんなバケモノだったのか。今更ながら二人は思い知った。さらに最悪の事態が起こる。



 ドオオン……


 何かが、()()かが洞窟の奥へと舞い降りた。洞窟内に響く爆音。悍ましい邪気。強い圧。誰もがその異様な空気を前に動きが止まる。


「何をしている、我がしもべよ……」


 黒いゴブリン。大きさは人族の大人ほど。ただ異様に長く尖った耳に大きな頭。氷のように冷たい目はこれまでに見て来たゴブリンとは一線を画す存在。

 そして皆が固まった。ギガゴブリンの発したその言葉に。



「ゴ、ゴブリン()()様……、ゴメンなさい……」


 魔王。そう、それはこの世界で人族絶滅を指揮する最も凶悪な存在。あのギガゴブリンが震え、今まで狂うように暴れていたのが嘘のように大人しくなっている。


「ま、まさか、魔王案件、だったとは……」


 うつ伏せに倒れたままラーズリーがつぶやく。

『魔王案件』。それは各地に点在するとされる魔族の王。多くの僕を従え人族滅亡を目指す恐るべき存在。そんな強敵に対処することを特別に『魔王案件』と呼ぶ。王国騎士団の精鋭を集め、Sランク冒険者に助力してもらい大規模討伐体を編成し、それに当たる。

 ラーズリーは自分の甘さを後悔した。ゴブリンと侮ってやって来たもののこの有様。魔王が出てくるなど想像もしていなかった。



「随分私の子供たちがやられているじゃないか……?」


 ゴブリン魔王はやられて消滅したり、負傷して倒れているゴブリンを見て言う。ギガゴブリンが全身から汗を流して答える。


「ゴ、ゴメンナサイ!! オ、俺、ガンバルから……」


 あれほど強かったギガゴブリンが震え、怯える姿を見て、そこに居た皆は今のこの状況の深刻さを肌で感じていた。ゴブリン魔王が言う。



「私は若い女を食らいたい。早くしろ……」



 ドオオオオオオオン!!!!


「ぎゃあああああああ!!!!」


 ゴブリン魔王は離れた場所にいた王国騎士団員に向けて爆破魔法を放つ。男は皆殺し。倒れ動かなくなった団員を見たラーズリーが、涙を浮かべ地面の砂を握りしめる。



「回復してやる。早くやれ」


 ゴブリン魔王の言葉と同時に、体の傷が癒えていくギガゴブリン。握りしめた巨大な棍棒を振り上げ大声で叫んだ。



「ウゴガアアアアアアアアア!! ぶっコロスゥウウウウ!!!!!」


 強烈な雄叫び。絶望へのいざない。薄暗い洞窟内は地獄への一歩を歩みだそうとしていた。

 だがしかし、この最後の訪問客の登場によりさらに事態は変化することとなる。



「フレイムボム!!!!!」


 ドオオオオオオオン!!!!



「ココロ!! みんな、大丈夫!!??」


 それは赤髪の正統派美女。元王国騎士団員でありCランク冒険者のサヤカ・ヴァレンタインと黒髪の男の登場であった。



「サ、サヤ姉……」


 薄れゆく意識の中、ココロは小さくその名を口にした。

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