6.勇者候補、ココロは負けない!
「はあはあ……、ここがゴブリンの根城ね。村のみんなもここに居るはず!!」
俺達が村を出るよりずっと前。単騎、ゴブリンの巣窟に辿り着いたココロは、その不気味に口を開ける洞窟を見て言った。洞窟から流れる生暖かい風が、彼女のピンク髪を揺らす。単騎突入はこの上なく危険な行為。ただ彼女の気持ちはブレなかった。
「ゴブリンごときに勇者を目指す私は恐れない!! いくぞーーーーっ!!!」
そう口にすると、両腰につけた短剣を手に洞窟内へと突入する。
「はっ、はあ!!!」
ココロが持っていた【高速移動】のスキル。実際戦闘でも大いに役立っていた。
「ウギャガアア!!」
「ギャ!? ギャガアアア!!!」
松明の明かりしかない暗い洞窟内。そこを高速で移動する小柄な少女。Eランクとは言え、最弱に分類されるゴブリン程度ではとても太刀打ちできない。
「はあ、はあ……、でもさすがに数が多いわね……」
とは言えここはゴブリンの根城。次から次へと沸くように現れる敵を前にココロの息も上がる。
「ココロちゃん!!」
そんな彼女の耳に、村の若い女性の声が響いた。
「あ、みんな!!」
洞窟の奥に縄で縛られた村の女性たちがいる。ゴブリンは女性を犯し、そして食う。狙われるのはいつも若い女性たち。ココロは疲れた体にムチ打ち、気合を入れる。
「みんな、今助けるから!!!」
人助け。勇者に憧れる彼女にとって、これはある意味最高の舞台であった。
「ギャガアアア!!」
「ブギョガアアア!!!」
雑魚ゴブリンたちから次々と血しぶきが上がる。救助の出現に声を上げ喜ぶ村の女たち。だがその光景が、それの登場で一変した。
(え?)
ゴブリンを斬りつけていたココロ。その真横から突如、黒く大きな何かが自分目がけて襲い掛かってきた。
ドン!!!!
「きゃああああ!!!」
ココロは体に強い衝撃を受け、洞窟の壁まで吹き飛ばされた。【高速移動】のスキルを持つ彼女ですら避けきれない攻撃。壁にもたれぐったりするココロは、初めてその凶悪な存在に気付き声を上げる。
「う、うそ? ギガゴブリン……」
真っ赤な巨躯に鋭い牙。下をべろべろ出しながら、肩に巨大な棍棒を担いでこちらを睨みつけている。こいつが親玉か。ココロは口から流れ出た血を袖で拭きながら思った。
「ココロちゃん、ひとりで来たの!?」
「サヤカさんは? サヤカさんは来ていないの!?」
皆、ココロが村に帰って来たサヤカとパーティを組んでいることは知っている。ココロはまだ駆け出しの冒険者。それに対してサヤカは訳アリだが、それでも元王国騎士団員。まさかココロが単騎救助に来たとは思ってもみなかった。
「うるさい、うるさいの!! サヤ姉なんか知らない!!!」
ココロがムキになってギガゴブリンに突撃する。自分よりぽっと出の訳の分からない男を選んだサヤカ。もう思い出したくもなかった。
「はああ!!!」
シュン、シュンシュンシュン!!!!
ココロがギガゴブリンに肉薄し、両手に持つ短剣を雨の如く振り下ろす。暗がりでの高速攻撃。ココロの短剣はギガゴブリンに的確にヒットしていた。だが効き目はなかった。
「女、ニゲタか!!!」
ギガゴブリンが巨大な棍棒を振り回す。ギルドの仕事を終え村へ帰還。そのままこの根城まで全力で駆け、単騎ゴブリン相手に戦ったココロ。疲れ切った彼女の攻撃は、もうその分厚い赤い皮膚に傷をつけるのが精一杯であった。
ブオン!!!!
「くっ!」
ギガゴブリンの反撃。紙一重でその棍棒を避けたココロ。だがその先に数体のゴブリンが待ち構えていた。
ガブ!!!!
「ぎゃああ!!!!」
ゴブリンに体を押さえられ噛みつかれたココロ。その悲痛な悲鳴が洞窟内に響く。
「ココロちゃん!!」
「ううっ……」
村の女たちが襲われるココロを見て声を上げる。何度も目にしたゴブリンの非道。彼女までその犠牲になるのか。村の女たちはココロを襲うゴブリンの群れを見て涙を流す。
「うあああああああああああ!!!!!」
突然の大声。だがそれは悲鳴ではない。生きる為の雄叫び。諦めない心の叫び。ココロに群がっていたゴブリンたちが、一斉に舞うように飛ばされていく。
「ココロちゃん!!」
その中央、血を流しながら仁王立ちするピンク髪のココロを見て、村の女たちが再び涙する。
「私は負けない!! 何が起ころうと、勇者は諦めない!!!!」
駆け出しの冒険者。子供だと思っていた村の幼い女の子。だがそこに立つその姿は、まるで皆の希望、勇者のそれであった。
「女、コロス!!!!!」
ドオオオオオオオン!!!!
だが、残念だがココロにその強敵に抗う力はもう残っていなかった。背後に現れたギガゴブリンの棍棒を体に受け、そのまま壁へと吹き飛ばされる。
「ココロちゃん!!!!」
「逃げて!! もう無理だから!!!」
村の女たちの悲痛な叫び。倒れ、意識朦朧とするココロの目に歩み寄るギガゴブリンの姿が映る。
(こんなところで……、私は、諦めたくない……)
勇者になると言う夢。それがこんなゴブリン程度に潰されるのか。涙が溢れるココロに、ギガゴブリンの巨大な棍棒が振り下ろされようとしていた。
「無限弓っ!!!!」
ドン、ドドドオオン!!!!
ギガゴブリンに撃ち込まれる光り輝く無数の弓矢。倒れながらもココロはその声をはっきりと聞いた。
「わらわはシュガルツ王国・王国副騎士団長がひとりラーズリー・ランドール!! 皆の者、もう安心しろ!!」
意識朦朧の中、ココロの顔に少しだけ笑みが浮かんだ。




