5.勇者への渇望
「おい、女」
「あ、はい!」
俺はココロ救助に向かいながら、前を歩くサヤカに声を掛けた。振り返るサヤカ。服装はみすぼらしいが、艶やかな赤髪に白い肌、くりッとした瞳はまさに正統派美女。魅力的な胸の谷間に目が行くのも、まあそれは仕方がないことだ。
「お前の魔弾、もう空だろ? 俺が補填してやる」
「え? いいんですか!! ありがとうございます!!」
そう言うとサヤカは腰につけた鞄から空の魔弾を一掴みして俺に渡す。
魔弾は使った後、新たな魔法を補填すればまた使用できる。まあ使用回数が増えたり、魔弾の耐久力より強い魔法を入れたりすると壊れてしまうが、それを引いても手軽に魔法が放てる利点は大きい。
「た、助かります。魔法も高くて困っていたんです……」
魔弾の補填は魔法教習所や魔導書店などで行えるが、安くはない。俺はサヤカから空の魔弾を受け取ると、歩きながら尋ねる。
「さっきのフレイムボムでいいか?」
「え? い、いいんですか!? あんな高価な魔法を!?」
「問題ない」
フレイムボムが高価か。ただの中級魔法。俺は魔弾を握りしめフレイムボムの詠唱を行う。
「終わったぞ」
「え? も、もう終わったのですか……?」
俺は魔法を補填した魔弾をパラパラとサヤカの手に落とす。それを驚きながら受け取るサヤカ。じっと魔弾を眺め俺に言う。
「あ、ありがとうございます。嬉しいです。あの……」
「なんだ?」
サヤカは補填したばかりの魔弾を魔銃に装填しながら俺に尋ねる。
「ひとつお伺いしても、その、よろしいでしょうか……?」
「詮索はするなと言っただろ」
聞かれても答えられない。答えるつもりもないが。
「い、いえ。その、どうしてエリート様のようなとてもお強いお方が、その、ココロ救助を手伝って頂けるのかと……。あの子に会った時にも、それをきちんと話さないといけない気がしまして……」
まあ、それも一理あるだろう。突然やって来た男が『これからずっと護衛させろ』と言ったら不審がられるのも当然だ。俺は嘘がない程度の理由を考え、サヤカに言った。
「特別に教えてやる。俺はな、とある方からの依頼でココロの護衛を頼まれている。あいつが死なぬよう護るのが俺の仕事だ。それ以上は言えぬ。これでいいか?」
サヤカも冒険者。依頼主の秘密は命以上に大切なこと。サヤカが何度も頷きながら答える。
「わ、分かりました。良かったです。ココロを守ってくれるようで安心しました」
「安心? 何かあったのか?」
俺は嫌な予感を胸にサヤカに尋ねる。
「え、はい……。あの子、久しぶりに会って一緒に冒険者をしているのですが、常日頃から『勇者になりたい!』って口にしておりまして、いつか魔族に目を付けられるのではないかと。それに【高速移動】のスキルを持っていて動きがすごく速く、いつ何をしでかすかとても心配をしているんです」
(勇者への渇望、高速系スキル。なるほど、俺もうかうかしていられないな)
俺たち魔神の仕事である勇者候補の『護り』。勇者は早死にすると、どこかでより強力な勇者が生まれてしまう。故に俺たち魔神は勇者候補を全力で護る。そして万が一勇者が誕生してしまった際は非情な決断をしなければならない。
「ちょっと急ぐか。おい、大声を出すなよ」
「はい?」
俺は振り向いたままその言葉の意味が変わらないサヤカを強引にお姫様抱っこすると、全力で駆けだした。
「きゃあああ!!!」
魔神の高速移動。サヤカが悲鳴を上げる。
「きゃあああああ!! やめてくださーーーーーい!!!」
「騒ぐなと言ったろ。お前は場所だけを言えばいい」
俺はそれでも悲鳴を上げ続けるサヤカを抱いたまま、ココロが向かったと言う洞窟へと全力で駆けた。




