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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第一章「魔神エリート、降臨」

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4.嬉し恥ずかしの初めて

 ギガゴブリンの右腕に手を乗せた俺。一瞬で変化した空気。だが俺以外、誰もそれに気付く者はいなかった。


「そのくらいにしてやれ」


 人族と魔族の争い。基本俺たち神はそこに介入はしないが、()()に反した時動く。


「その女を殺されると、ココロの捜索が困難になる。さあ、放せ」


 そう、神の使命である『護り』に影響があると判断した時、俺たちは容赦なく動く。



「エ、エリート、さん……、あなたでは、無理です。は、早く逃げて……」


 この状況でもまだ他者を思うとは殊勝なこと。だがそれでは命が幾つあっても足らない。そして当然の如く、ギガゴブリンは激高した。



「キサマ!!! ジャマするな!!!!!」


 死にかけのサヤカを投げ捨て、ギガゴブリンが俺目がけて腕を振り下ろす。


「エリート、さん!!」


 地面に倒れたサヤカが弱々しい声で言う。目には涙。口にはしないが、また()()()()()()と言う思いが彼女を潰しかける。



 ガン!!!!


「え?」


 俺はギガゴブリンの右腕を軽く片手で止めた。

 大したことはない。魔神のこの俺が、この程度の魔物に負けるはずがない。俺は静かな怒気を込めてギガゴブリンに言った。



「おい、折角俺が優しく言ってやってるのに、お前はそれが分からんのか? 死して詫びるか?」


 バキン!!!!


「グガッ!? ガァアアアアアア!!!!!」


 俺は受け止めた右腕を無表情でへし折った。そして激痛で跪いたギガゴブリンの頭を掴み、地面に容赦なく叩きつける。



 ドオオオオオオオン!!!!



「グガッ……、ガガッ……」


 地面にめり込んだ頭。殺しはしない。ただの仕置きだ。



「女、息はあるか?」


 俺は血まみれで倒れているサヤカの元に行き、声を掛けた。


「は、はい……」


 倒れたまま俺を唖然と見つめるサヤカ。俺が言う。


「今回復してやる。お前に死なれると、俺が困るんでな」


 驚くサヤカ。そして震える声で言った。



「あ、あの、あなたは、一体……?」


 震える声。俺は無表情でそれに答える。


「詮索するな。今見たことも忘れろ。できるか?」


 倒れたままのサヤカが小さく頷いて答える。


「は、はい。あの……」


「なんだ? まだ何かあるのか?」


 俺は眉間にしわを寄せてサヤカを睨みつける。



「あ、あの、エリート、()とお呼びしてもよろしいでしょうか……?」


「好きにしろ」


「は、はい。ありがとうございます。エリート様……」


 これでいい。これが俺にできる最大の譲歩。

 俺の『護り』遂行のためにこの女は必要だ。先ほどはなぜか魔神の力が出なかったが、きっとそれは下界の空気に慣れなかったためだろう。今の俺は魔神界同様に力に満ち溢れている。これからしばらくこんな感じで勇者候補あいつのお守りをすればいい。


 俺は倒れているサヤカに向かって無言で回復魔法を唱えようとした。だがその時、後ろで蹲っていたギガゴブリンから爆音が響いた。



 ドオオオオオオオオオオン!!!!



「グガァガアアアアアア……」


 振り返った俺。そこには何者かから攻撃を受け、消えていくギガゴブリンの最期の姿があった。



「きゃははははは!!! わらわが討ったぞ、わらわが倒したぞ!!!!」


 消えゆくギガゴブリンの煙の向こうに、立派な馬に乗った集団が現れた。白銀の鎧に、毛並みが美しい白馬。その先頭の馬に跨った青のボブカットの少女が、頭につけた大きな水色のリボンを揺らしながら顔をほころばせて喜ぶ。サヤカがそれを見て震えた声で言った。



「ラーズリー副長様……」


 俺はその怯えた声色で、ただの知り合いと言う訳ではないとすぐに理解した。




「おい、お前」


 回復魔法を詠唱した俺に、そのラーズリーと呼ばれた少女が背後から声を掛けてきた。俺はそれを無視し、サヤカに手を引き立ち上がらせる。完全回復。さすが俺だ。


「おい、お前!! なぜわらわを無視する!! 折角危ないところを助けてやったんだぞ!!!」


「ああ?」


 俺は面倒くさそうに振り向きラーズリーを見つめる。まだただのガキ。態度だけは大人のそれを超えるようだが。


「シュガルツ王国・王国副騎士団長のラーズリー様が助けてやったんだぞ!! 礼を申せ!!」


 周りに同じく白銀の鎧を付けた騎士たちが集まって来る。俺は改めて人族の世界は面倒事ばかりなのだと溜息をついた。


「何が助けてやっただ? 死にかけのゴブリンを背後から倒しただけだろ? 馬鹿じゃねえのか、お前?」


 立ち上がったサヤカの顔が青ざめる。何かを言おうとした彼女よりラーズリーが顔を真っ赤にして言った。



「な、ななななななんたる無礼!! お前、この『無限弓』の二つ名を持つラーズリー副騎士団長様を知らぬと言うのか!!!」


 知らん。知るはずもない。そもそも興味もない。


「お待ちください! ラーズリー副長様」


 思い切り面倒くさそうな顔をする俺の前に、血で染まったサヤカが立って言った。知り合いか? そう勘ぐっていた俺の耳に、ラーズリーの声が響く。



「ん? お前は……、あっ!! お前はサヤカ!? サヤカ・ヴァレンタインか!! 『恥晒しのサヤカ』か!!」


(『恥晒しのサヤカ』?)


 俺はその惨めな二つ名を聞いてからサヤカを見つめた。何があったか知らないが、この女も訳ありなのだと理解した。まあ、どうでもいいが。サヤカが頭を下げて言う。



「副長様、この方は異国の旅人でございます。王国のことは何も知りません。どうか、何卒お許しを……」


 深々と頭を下げるサヤカの言葉を俺は黙って聞いていた。勝手な設定。だがあながち間違いでもない。ラーズリーが腕を組んでそれに答える。



「ふん、そうであったか。それにしても無礼な男。まあ、騎士団長様を()()()()お前にぴったりだわ」


 サヤカのフォローは有難いと思ったが、神に対する人族の無礼な言動。俺の怒りは徐々に増していった。



「ラーズリー副長様。連れ去れた村人がいるようです。すぐに救助を……」


 ラーズリーの隣に来たひとりの騎士が報告する。そう、ココロが追って行ったゴブリンの根城があるはず。ラーズリーが命じる。


「そうか。ならばすぐに救助に向かうぞ。救護班は怪我をしている村人の治療を。その他はわらわに続け!!」


「「はっ!!」」


 迅速な指示。生意気なガキだと思っていたが、副長などと呼ばれるだけのことはあるようだ。生き残った村人から連れ去れた方角を聞いたラーズリーが、出発間際サヤカに言う。



「わらわたちシュガルツ王国騎士団は絶対にお前を許さない。騎士団長は必ずわらわが見つけて救って見せる!! お前は生涯生き恥を晒すがいい!!」


 ラーズリーはそう罵倒するように言うと、村人救助のため騎士団員と共に走り去って行った。




「お見苦しいところをお見せしました。エリート様……」


 サヤカは密着するように身につけた鞄からハンカチを取り出すと、血のりが付いた顔を拭きながら言った。


「別にいい。どうでもいいことだ」


 俺には関係のないこと。どうでもいいこと。



「私、昔王国騎士団に所属していたんです……。でもある時、大変な任務があって、私……」


「どうでもいいと言ったはずだ。それより早くココロを追うぞ」


「あ、はい! 申し訳ございません、エリート様……」


 なぜ俺にそんな話をしようとする? どうでもいいと言ったはずだ。俺は人族がいまいち理解できないまま、サヤカと共に急ぎ村を出た。




「おい、馬などはないのか?」


 俺は歩きながらサヤカに尋ねた。残念ながら空を飛ぶ魔法はない。全力で走ってもいいが、それではこの女が付いて来られないだろう。


「あ、はい。ごめんなさい。村は壊滅が酷くて……」


 まあ、仕方ない。歩いて行くか。



「あ、あの……」


「今度は何だ?」


 どうも調子が狂う。だがその理由はすぐに分かることとなる。


「あ、いえ。あの、お礼を……。助けて頂き、ありがとうございました」


「え? あ、ああ。別にいい。そのくらい……」



 魔神界で混血だと蔑まれてきた俺。多分、生まれて初めてであろう、他人からこのように感謝されたのは。くすぐったいような、それでいて少し恥ずかしく嬉しいような感情。

 俺はそんな初めての経験にやや戸惑いながら、前を歩くサヤカの後姿を見つめた。

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