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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第一章「魔神エリート、降臨」

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3.Cランク冒険者の意地

 ギガゴブリン。通常のゴブリンは基本人族と同じぐらいの大きさで、一般的には集団で行動する。対してギガゴブリンは赤く燃えるような巨躯で、大きな斧や棍棒を持ち、単騎でも行動できる強さを持つ凶悪な個体である。


「ギガゴブリンだなんて……」


 赤髪のサヤカの顔が恐怖で青く染まる。がっちりとした筋肉に、手には古びた巨斧、べろべろと舌を出すその姿は悍ましい異形そのもの。女を食らう魔物として恐れられている。



「なるほどね。あいつが原因か」


 俺は破壊された村の惨状の理由に納得した。通常のゴブリンではあまり建物などの破壊は行わない。だがギガゴブリンは人や物、すべてを壊すこと悦楽とする厄介な魔物だ。



「きゃああ!!!」


 教会から修道女たちが悲鳴を上げ逃げて来る。ギガゴブリンの血で染まった口を見るに、既に犠牲者が出ているようだ。サヤカが俺の前に立ち震えた声で言う。


「こ、ここは私が食い止めます。エリートさんは皆さんの治療をお願いできますか?」


 サヤカが両腰につけた銃を取り出し構える。魔銃まじゅう。彼女は魔法を詰めた魔弾を銃で放って戦う魔銃士のようだ。魔力がなくても魔法で戦うことができる。俺はポケットに手を入れたまま答える。


「なぜおまえが俺に命令する? 勘違いするな」


 下賤な人族が神である俺に命令など笑止千万。正体を知らぬとは言え万死に値する。サヤカが背を向けたまま言う。


「エ、エリートさんはまだ駆け出しの冒険者ですよね? 私はこれでもCランク冒険者。ここは私の指示に従って頂けませんか?」


「断る。俺はココロの同行は希望するが、あいつの相手など興味がない」


 魔族と人族の争い。ここで誰が死のうとそれは自然の摂理。言わば自然淘汰。神である俺が手を出すことはしない。

 サヤカは両手に魔銃を持ちギガゴブリンに突入しながら言う。


「と、とにかくお願いします!」


 赤い髪が風に靡いて舞う。俺は黙ってそんな彼女の後姿を眺めることにした。



 ドン、ドドドオオン!!!


 サヤカが機敏に動きながら魔弾を撃ち込んでいく。Cランク冒険者と言うのは一体どのぐらいのレベルなのかは知らないが、決して弱くはないようだ。


「グゴオオオオオ!!!!!」


 だが残念ながら相手が悪かったようだ。サヤカの撃ち込む魔弾をギガゴブリンが次々と巨斧で防いでいく。魔弾の威力が弱いのか、着弾してもほとんどダメージになっていない。



(ギルドのクエストで、ほとんど魔弾が残っていないですわ……)


 サヤカは自身の魔弾のストックがほぼ尽きていることを確認し顔を歪める。残念だが相手はそれなりのパーティを組んで討伐するような個体。自分一人では皆が逃げる時間稼ぎをするのが精一杯。



「え?」


 そんな彼女の前に突如、投擲とうてきされた巨斧が現れる。



 ドオオオオオオオン!!!!!


「きゃああああ!!!」


 まさかの攻撃。間一髪避けることができた巨斧が、深々と地面に突き刺さる。



「気をつけろよ」


 離れた場所から見ていた俺が小さく言う。

 投擲された巨斧。その砂埃舞う中から、ギガゴブリンの大きな影が現れる。



「クタバレェエエ!!! 女っ!!!!」


 砂埃が舞い上がる中、真っ赤なギガゴブリンの丸太のように太い腕がサヤカに振り下ろされる。


「くっ!!」


 連続攻撃。だが彼女は赤髪を靡かせながらそれを身を反らして躱す。そしてそのまま倒れこむように足を振り上げ跳躍。逆にギガゴブリンの後頭部に蹴りを入れた。



 ドン!!


 俺は魔銃士であるあの女はてっきり後衛の人間だと思っていた。だがあの一瞬の身のこなし。接近戦でも十分通用するレベルだ。だが何度言うが『相手が悪かった』。



「ぎゃっ!!」


 サヤカの回し蹴り。だが明らかに体格差のあるその攻撃は、ギガゴブリンの分厚い皮膚によって弾かれ、逆に足を掴まれる形となった。


「は、放しなさい!!」


 足を掴まれ、そのまま逆さに持ち上げられたサヤカ。勝負あり。後ろで見ていた俺は善戦したものの、この予想通りの結果にある意味納得していた。


 ドフ!!!


「ぎゃああ!!!」


 逆さに吊られたサヤカに、ギガゴブリンの拳が容赦なく打ち込まれる。口から流れる鮮血。それが地面を赤く染めていく。


「エ、エリートさん。早く逃げて、ください……」


 俺は驚いた。まだ他者を気遣う余裕があるのかと。



「女、コロス……」


 ギガゴブリンがその大きな口を開け、サヤカを持ち上げる。太い牙。丸太のような腕。絶望的な状況のはずなのに、俺はまだ生気の消えない彼女の目に興味を引かれた。



「こんな所で、使いたくなかったですけど……」


 サヤカは懐から真っ赤な魔弾を取り出し、血に染まる指でそれを装弾する。絶望的状況。だが魔銃を構え大声で叫ぶ。



「くたばりなさい!!!!!」



 ドオオオオオオオン!!!!!!


 至近距離での魔弾発射。それも中々の高レベルの魔法が発動している。



(フレイムボム……か)


 火炎系魔法の中でも中威力を持つ魔法。雑魚ならば灰すら残らないほどに消し去る威力がある。だが俺は思った。あの至近距離では彼女自身の無事では済まないと言うことを。



「ギャアアアア!!!???」


 思わぬ攻撃。爆炎に包まれ叫び声を上げるギガゴブリンと同時に、地面に吹き飛ばされたサヤカが声を上げる。



「あっ、ががっ……」


 咄嗟に防御をしたようだが、案の定彼女自身も爆炎による大きなダメージを受けている。



(彼女は死ぬのか……?)


 端から力の差は明白。負けることなど分かっていた。人族と魔族の終わることのない戦い。俺たち神が介入すべきでない争い。ただ初めて見るかもしれない人族の死を前に、俺の心はどこか小さくだが揺れ動いていた。



「女、女ァアア!! ぶっコロス!!!!!!」


 当然の結果である。ギガゴブリンの実力を考えれば、あの程度の魔法一撃で倒せるはずがない。対照的に自爆行為とも呼べる攻撃で倒れたままの彼女は、もう動くことすらできなかった。



 ドン!!!!


「ぎゃあああああああ!!!!」


 ギガゴブリンの太い右足が倒れたままのサヤカの体を踏みつける。低く鈍い音。魔物の襲撃で皆が逃げ去った村に彼女の悲痛の声が響く。


「グガッガァアアア!!!!!」


 顔の半分がフレイムボムでただれ、痛みと怒りで我を見失ったギガゴブリンがサヤカの首を持ち上げ雄叫びを上げる。


「ゴロスゴロスゴロスゴッロスーーーーーーーっ!!!!!」


 発狂したギガゴブリンが太い右腕を振り上げ、サヤカにとどめを刺そうとした。



「おい、待て」


 俺は、そうだな。この時の状況を言うならば『無意識に動いた』と言うべきだろう。



「ガガっ?」


 ギガゴブリンの右腕に手を掛けた俺に、その巨躯の悪魔が睨みつける。俺はサヤカを一瞥してから言う。



「もういいだろう。そのぐらいにしてやれ」


 一瞬で変わった空気。だがそれに俺以外誰も気付くことはできなかった。

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