表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第一章「魔神エリート、降臨」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/38

2.魔族と間違えられました。

 下界の小さな国の片隅にある破壊され、寂れた村。分厚い曇天。その村で冒険者らしき男に足蹴りにされるピンク髪の少女、ココロ・ホワンシュガーを見て俺はすぐに思った。


(なんて見ずぼらしい女。こんなのを護衛するのか……?)


 本人はまだ知らないようだが、仮にも勇者候補。魔王討伐の可能性を秘めた人族の希望。それが乱れた髪に汚れた服。ガラの悪そうな中年冒険者に足蹴りにされるなど、正直目も当てられない。



「どうしたんだ、女?」


 俺が声を掛ける。中年冒険者は俺の顔を一瞥してからポケットに手を入れ立ち去っていく。声を掛けられたココロが立ち上がって言った。


「え!? 敵!? 今度は魔族!?」


「……は?」


 拍子抜けした。わざわざ魔神界から護衛にやって来てやった神に対して、下賤な魔族呼ばわりするなど言語道断。


「ふざけんな。俺は魔族じゃない。よく見ろ」


 そう言って一歩近づく俺に、ココロは後退りしながら足先から頭まで見て答える。


「く、黒の衣装に、黒マント。黒い髪。どう見ても怪しいじゃん。魔族でしょ!!」


 黒髪は関係ないだろ、地毛だしと思いながら俺が顔を歪ませる。一緒にいた赤髪の女が顔を青くして言う。



「ま、魔族なのですか!? そ、そんな……」


 俺がため息をつきながら答える。


「だから違うと言っているだろ! 魔族なら問答無用に殺しているぞ」


 ココロが警戒しながら身構え、俺に言う。


「嘘よ!! サヤ姉、絶対あいつ魔族よ!! 変なオーラ感じるし。戦わなきゃ!!!」


「そ、そうですね……!!」


 一緒にいたサヤ姉と呼ばれた赤髪の女もココロの隣に立ち、銃を手に身構える。俺はこれまでで一番大きなため息をついてから言う。


「いい加減にしろよ、下賤な()()が。敵と味方の区別もつかねえのか!」


 目の前にいる相手の力量も分からない程度の女。ただの人族が神である魔神に敵う訳がない。ココロが腰につけた短剣を手に、俺に突進しながら叫ぶ。



「魔族なんてやっつけてやる!!!」


 ポケットに手を入れたまま微動だにしない俺。少し痛い目に遭ってもらうか、そう考えていた俺に想定外のことが起こる。



 シュン!!


 ココロの攻撃。手にした短剣を俺めがけて振り抜いた。



「え?」


 避けた、はずだった。



「痛っでええええ!!!!」


 空を切るはずだったココロの短剣が俺の腕を切り裂く。激痛に蹲る俺。ココロは鼻息荒く叫ぶ。


「や、やったわ!! Eランクの私でもできたわ!!!」


 隣にいた赤髪の女が言う。


「ちょ、ちょっと待ってください、ココロ。この人、魔族にしては()()()ませんか……?」



 ――弱すぎる


 待て。待て待て待て!!!

 神である魔神の俺に向かって『弱すぎる』とはどういうことだ!? いや、そもそもなぜ力が出ない? あれぐらいの攻撃、例え当たったとしてもかすり傷程度のはず。なのにこの出血。この激痛。魔法も発動しないし、どうなっている……!?



「違うわ、サヤ姉!! こいつ、きっと弱いフリをしているに違いないわ! 早くとどめを!!」


(弱いフリ……、だと!? この俺を、神であるこの俺を愚弄しやがって!!!)



「待ちなさい、ココロ!! この人、もしかしたら魔族じゃないかもしれませんわ」


「そんなはずないじゃん!! 絶対怪しいよ!!」


「ですが、魔族にしては弱すぎますし、それにもしかしたらただの怪しい人なのかもしれません」


「魔族よ! こんな怪しい奴、魔族に決まっているわ!!」



(き、貴様ら……)


 俺の怒りは頂点に達していた。腕の傷の痛みも忘れるほどの怒り。下賤な人族による度重なる暴言。少しばかりのお仕置きではもう済まされない。神の力。今後のことを考慮し、どちらが上かをきちんと分からせる必要がある。



「いい加減にしろ、この下賤者っ!!!」


 俺が腕を上げココロに殴りかかる。手加減をしてやる。そのつもりだった。



 ガシ……



「え?」


 手加減はしたが、魔神の俺の拳をココロが()()で受け止める。そしてそのまま足を振り上げ叫びながら言う。


「くたばれ!! 魔族っ!!!!」



 ドオオオン!!!!


「ぎゃああ!!」


 ココロの回し蹴り。空中で円を描くように振りぬかれた足蹴りが、俺の首に命中。無様な悲鳴と共に俺は吹き飛ばされた。



「ココロ!! もうやめなさいって!! 彼はただの人です!!!」


 赤髪の女が俺の元へ駆け寄り、両手を広げてココロに言う。


「どいて、サヤ姉!! とどめを刺すわ!!!」


「いい加減にしなさい、ココロ!! 私達の目的は村のみんなを助けることでしょ? 彼は関係ないはず」


 ココロが目に涙を溜めながら答える。


「私より、私よりそんな奴の言うことを信じるんだね。もういい! サヤ姉なんてもう知らない!! 私ひとりで助けに行くから!!!」


 そう言い残すとココロは光のような速さで村を出て消えていく。


「あっ、待って! ココロ……」


 赤髪の女が声を掛ける時にはすでに彼女の姿はどこにもなかった。




(どうなっている……)


 俺は地面に倒れたまま曇った空を見て思った。

 俺の姿を見て魔族と勘違いするのはまだいい。人の価値観は多様だ。それは理解できる。ただ、なぜ一方的にやられたのだ? 覚醒前の勇者候補は言ってみればちょっと強いだけのただの人。魔神であるこの俺が負けることなど万が一にもいない。



(魔法も使えない……、あっ)


 発動しなかった魔法。俺は再度回復魔法を自分の腕にかけてみると、あっさり治癒が始まった。どうなっている? 困惑する俺に赤髪の女が手を差し出し詫びながら言う。



「あの、申し訳ございませんでした。思い込みが激しい子でして……」


 俺は改めて赤髪の女を見つめる。白く透き通ったような肌。艶のある赤髪。男を誘うような胸元に、見事な腰のくびれ。正統派美女。俺は無意識にその手を握り返していた。治癒した俺の腕を見て女が言う。



「あ、回復魔法は使えるのですね。本当にご迷惑をおかけしました」


 女が頭を下げて謝罪する。俺が尋ねる。


「別にいい。それより何が起こっている?」


 俺の問いかけに女が答える。



「はい。まず私はサヤカと言います。妹弟子の無礼をお詫びいたします」


 無言で頷く俺に、サヤカが続ける。



「私とココロはギルドの依頼でこの村を数日離れていたのですが、戻って来てみるとゴブリンの襲撃を受けて村は壊滅状態になっておりました。それで連れ去られた村の人達を助けに行こうと仲間を集っていたのです」


 だから先ほど中年冒険者に声を掛けていたのか。俺はようやく話が少しだけ見えてきた。


「だけど部外者である冒険者にとっては報酬がないと誰も助けてくれず、お金のない私達はただただお願いをしておりました」


 当然だろう。村の破壊状況を見るにゴブリンの数は多数、もしくは強力な上位種がいると想像できる。



「それであいつはひとりで助けに向かったのか?」


「はい、恐らくは……」


 勇者の卵、か。俺はそう思った。覚醒するかどうかは分からないが、勇者候補とされた者の無意識下での行動。人助けや誰かの危険には利害を超えて助けに行く。俺を魔族だと勘違いして攻撃してきたのもその為だろう。



「あの、あなたは冒険者なのでしょうか……?」


 サヤカが申し訳なさそうな表情で尋ねる。


「ん、まあ、そんなところかな……」


「回復魔法がお使いになられるようですし、お礼はできませんが、私と一緒に来てくれませんか?」


 無論そのつもりだ。ココロの『護り』として俺はあいつの傍にいなければならない。そもそも早く訳の分からない誤解を解く必要もある。



「いいだろう。付き合ってやる」


「ほ、本当ですか!? 良かったです。誰でもいいので一緒に来てくれる人を探していたのです」


 やや言い方にトゲがあるものの、俺は無言で頷いてそれに応えた。サヤカが尋ねる。



「あの、お名前は……」


「エリートだ」


「エリートさん、あの……」



「きゃあああああああ!!!」


 サヤカが何かを言おうとした時、村の教会から女の叫び声が響いた。


「グルルルウ……、女ダ。ニンゲンの女だ……!!」


 教会から現れたのは人の倍はある巨躯の赤いゴブリン。



「うそ!? ギ、ギガゴブリンですって……!?」


 サヤカの表情が険しく、そして青ざめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ