68.魔神界最強の刺客
赤髪で一見軟弱そうに見えるグラッドマン。ただその外見とは裏腹に、彼は魔神界最強の名を持つ評議会最高の刺客。いつも笑顔だが、冷酷さを併せ持つ彼にはぴったりの立ち位置なのかもしれない。
「行くよ」
多くの魔神やルージュが見つめる中、グラッドマンが一気に俺に向かって走り出す。
(速い!!)
想像よりもずっと速い。これが奴の強さか。
ガン!!!!
グラッドマンの手刀の攻撃を、俺はガルディア砦で調達した新たな剣で受け止める。重い一撃。受け止めた俺の足にぐっと衝撃が伝わる。新調した剣はそこそこ名のある剣だそうだが、イシスの硬化によってさらに強化させてある。
「やるねえ~、君。僕の初撃に耐えた奴ってそうはいないんだよ」
「そうか、それはありがとよ。じゃあ、今度はこっちから行くぜ!!」
今度は俺が剣を振り上げグラッドマンに突撃。
(イシス、剣を最高強化!!)
(はい!)
魔神の力が使える今は、彼女の能力も限界まで使える。
ガン、ガガガガガガガン!!!!
連撃。グラッドマンは手刀を白く光らせて俺の剣に対抗。俺たちは皆が見守る中、激しくぶつかり合う。魔神たちからは驚きの声が上がる。
「あの、グラッドマンと渡り合っている……」
「すげえ……」
こいつらは知らない。俺の強さが魔神界でも異質であることを。
「巨岩の砲撃!!!」
至近距離で岩石魔法を発動。突如現れた巨岩に、グラッドマンが驚きながら言う。
「いいね、いいねえ!!!!」
ドオオオオオン!!!!
くるっと回り、その勢いで放った回し蹴り。目の前に迫った巨岩を一撃で砕く。お返しにと、今度はグラッドマンが魔法を詠唱。
「神撃の雷鳴!!!」
先ほど俺を急襲した兵士に放った雷魔法。まるで揶揄うかのように俺に向けて雷撃を放つ。
「はああああああ!!!」
バン!!!!!
俺はそれをイシスの能力で石化した剣で打ち払う。電気を通さない石。俺の剣戟で雷撃が音を立てて砕かれる。
「これは避けられる??」
(!!)
砕いた電撃の間からグラッドマンが右拳を振り上げて俺に肉薄する。
ガン!!!
俺はその拳を顔の前で腕を十字にして防御。
「はああ!!」
膝蹴り。拳の衝撃に耐えながら、俺が右膝をグラッドマンの腹部へと撃ち込む。
ドフ……
初めてのヒット。一瞬グラッドマンの動きが止まるも、すぐに俺の目を見て言う。
「最高だよ!!!!」
ガン!!!!
「ぎゃあ!!」
グラッドマンは俺と目を合わせたまま笑顔で強烈な頭突きを放つ。頭部に走る電気のような衝撃。俺はよろよろと後退しながら持っていた剣を振る。
ブオン……
グラッドマンはすでに大きく後ろに跳躍し笑顔でこちらを見つめている。
「いいねえ~、想像以上だよ。こんなに強いなんて混血ってバカにしていた僕が恥ずかしいよ」
(強ぇえな、あいつ……)
さすが魔神界最強を誇る相手。これまでの奴らとはレベルが違う。グラッドマンが右手を上げて俺に言う。
「じゃあ、そろそろ仕留めに行くよ」
急激に膨れ上がる魔力。俺は一瞬身震いする。
「星屑の雨」
空一面に出現する小型魔法陣。そのすべてがゆっくりと回転を始め魔力を蓄積。一斉に地上目がけて光の熱線を放つ。
「くっ、魔力障壁!!」
俺は両手を掲げ、すぐさま頭上に魔法によるシールドを形成。張り終わると同時に光の熱線が轟音を立てて俺のシールドへと落とされる。
ドン、ドドドドドオン……
重い。そして強い。辺り一面の地面に光の熱線で次々と穴が開いて行く。それよりもなんて魔力量。ひとつひとつの攻撃がまるで意識を持っているように俺に牙を剥く。
バキッ……、バリン!!!!
そして俺を守っていたシールにひびが入り音を立てて割れていく。周りは熱線の雨。ここでシールドを失ったら逃げ場はない。
バリン!!!
「ぎゃっ!!」
シールドの割れ目から落ちて来た光の熱線が俺の腕を貫通。熱さと共に激しい痛みが腕に走る。
(クソッ……)
このままではジリ貧。新しいシールドを張って耐えるか。シールドと熱線。どちらかの魔力が尽きるかの忍耐勝負に出るか。追い詰められかけた俺の頭に低くて強い声が響く。
(跳べ)
「はあっ!!」
無我夢中だった。シールドが割れると同時に思い切り地面を蹴り、跳躍。声の通りに一気に大空へと飛び上がる。跳んでどうする? そう思った俺の全身に力が漲る。グラッドマンが言う。
「跳ねても無駄だよ~、すぐに焼き殺して……、あれ?」
グラッドマンは想像よりもずっと高く飛び上がった黒髪の混血を見て唖然とする。ただの跳躍ではない。どうなっている!?
(バルクホルムか!!)
実際、跳んだ俺自身が一番驚いていた。その高さはグラッドマンが発現させた魔法陣を超え、大空へと体を運ぶ。そして同時に俺の背中に黒き翼が出現。バサバサと宙を舞い始める。グラッドマンが驚いて言う。
「な、何それ!? 君、一体どうなってるの!?」
驚くのは無理もない。普通、プライドの高い魔神は天使などと契約はしない。する必要もない。しかしココロによって魔神の力を封じられた俺は、とにかく強さを求めイシスやバルクホルムと言った下級種と契約を結んだ。
「それが功を奏したわけか」
空中に舞いながら俺が苦笑する。
(何を言っている? 早くあの生意気な魔神を殺すぞ!!)
俺の中にいるバルクホルムはもう我慢できないようだ。魔神の力にバルクホルムの超体力強化。それにイシスの硬化を加える。
「行くぞォオオオオ!!!!」
そう、これが今俺が得た創造的攻撃。未知の融合による重撃。俺は空中から一直線に降下。地表で唖然としているグラッドマンに向けて突撃する。
ドオオオオオン!!!!
「ぐっ、ぐはっ!!!」
バルクホルムの身体強化、イシスで最高硬化された剣に俺の強さ。そのすべてを合わせ撃ち込まれた剣戟を受け、さすがのグラッドマンも防御するも後方へ吹き飛ばされる。
「まだまだ!!!」
俺は漆黒の翼を大きく羽ばたかせ、仰向けに倒れるグラッドマンへ追撃を行う。
ガン、ガガガガガガガン!!!
「な、なんてことだ……」
「グラッドマンさんが、押されている……」
立ち上がり、すぐに光らせた両手の手刀で俺の剣戟に対抗するグラッドマン。だがあまりの力と速度に魔神界最強がみるみる追い込まれていく。
ザン!!!!
「ぎゃあ!!」
高速で剣を振る俺の攻撃が、初めてグラッドマンを捉える。肩から胸にかけて振り抜いた一撃。鮮血がどくどくと流れ出す。グラッドマンが回復魔法をかけながら言う。
「やべ~、君、マジでなんなの……?」
「お前と同じ魔神だ」
そう答えるものの不気味な漆黒の翼を生やし、魔神界最強のグラッドマンを追い込む俺がただの魔神とはもう誰も思っていないだろう。
「同じ魔神ねえ。まあいいや。でも君、ちょっと危険だよ」
「危険?」
その意味に一瞬理解できなかった俺。グラッドマンが言う。
「そう、危険。やはり君のような異物は排除する」
(!!)
グラッドマンの覇気が信じられないほど膨張する。光り出す全身。俺はこの時初めて知った。
「神力開放」
笑顔のグラッドマン。そう、あいつはまだ魔神の力を全開放していなかったのだ。




