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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
最終章「そんな普通の世界を護りたい」

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67.襲撃

「ココロが消えた、だと!?」


 一発で眠気を覚ます凶報。青ざめたサヤカの顔を見ながら俺は思った。



 ――やられた


 ココロは俺たちの切り札。彼女なしでは魔神評議会の制圧は夢のまた夢。最も気を付けなければならない彼女の安全を俺は怠った。実家に来た油断があったのかもしれない。居なくなるはずのない存在。そんな勝手な思い込みがあった。


「も、申し訳ありません。昨晩は一緒に寝たのですが、起きたら居なくなっていて……」


 泣きそうな顔のサヤカに俺が尋ねる。


「何か変わったことは?」


「ええ、頭がズキズキと重く痛いです……」


(強制的に眠らされたか……?)


 ココロが居れば魔神は魔法ひとつ使えない。だとしたら眠り薬か何かでサヤカごと眠らされたのかもしれない。


「とにかく皆に聞こう。それから捜索……」



「エリート!! 大変よ!!」


 今度は母親が慌てて俺の元へとやって来る。


「どうしたんだ!?」


 この慌てよう、ただ事ではない。


「囲まれているの! 家が、評議会の人たちに!!」


(ちっ)


 その瞬間、俺はココロを攫ったのは評議会の連中の仕業だと確信した。この手際の良さ。この情報網。やはり敵は侮れない。リビングに向かった俺たちに、先に待っていたルージュが尋ねる。


「おお、エリート。さあ、どうする?」


 俺は壁際に立ち、こっそりと窓の外を確認する。



(数が多いな。強行突破は無理か……、って、あいつ。グラッドマンじゃねえか!?)


 俺の表情が青ざめる。魔神評議会において最強の刺客グラッドマン。その名前は幼い子供でも知っている畏怖すべき存在。評議会は本気だ。レザウェルと言う使者を二度も撃退したせいであろう。ルージュが尋ねる。


「やり合うか? なあ、あいつらと全面戦争か??」


 気だるさがない。つまりココロは近くにはいない。となれば魔神同士の全力の潰し合いになる。勝てるかどうかは分からないが、負ける気はない。そのつもりでここに来た。俺が言う。



「あの赤髪の魔神はグラッドマン。魔神界一だ。奴は俺が相手をする。その他の魔神どもはルージュとニッカ……、ん? ニッカはどこにいる??」


 この時になった俺はようやく気付いた。北部魔神であるニッカが居ない。キャロルがきょろきょろと辺りを見回して言う。


「そう言えばいないわね。まだ寝てるのかな? 私、ちょっと起こしてくるね!」


「……」


 そう言ってリビングを出るキャロルを俺は無言で見つめる。恐らくニッカはいない。俺の第六感がそう告げている。


「エリート様……」


 サヤカが不安そうな顔で俺を見つめる。その後ろに母親の姿。俺が頷いて言う。


「心配するな。ここに乗り込んで来た時から最悪の事態は想定している。グラッドマンは俺がぶっ飛ばす。負けるつもりはさらさらねえぜ」


 こういう時にこそ俺が不安そうな態度を出してはいけない。彼らをここへ率いて来たのは俺だ。魔神評議会制圧まで俺がしっかりと導く。


「エリート。ニッカ、どこにもいなかったよ……」


「そうか」


 ニッカともども攫われた。それとも……



(ニッカが裏切った)


 そのどちらかだろう。いずれにせよ今はそれを考えるより先に現状打破が優先だ。そこへ外から大きな声が響く。



「お~い、エリート・ゴットラングウェイ。聞こえるか~??」


 ちょっと気の抜けたグラッドマンの声。それに反応し俺たちが静かになる。


「いるんだろ~?? 黙って出てきて降参しろ~」



「くそっ……」


 馬鹿にしやがって。完全に見下していやがる。


「冷静に。感情で動いちゃダメだよ」


 母親が俺に言う。分かっている。やることは山ほどある。ここで無様に倒れる訳にはいかない。


「行ってくる。ルージュ、ついて来い」


「待ってました~! ワクワクするぞ」


 今の戦力で外の奴らと戦えるのは俺と大魔王ルージュのみ。改めてココロありきの作戦だったのだと思い知らされる。屋外に出た俺が大声で言う。



「お前、グラッドマンだろ? 何しに来た??」


 初めて対面するグラッドマン。赤髪で、一見優しそうな青年にも見える。彼が笑顔で答える。


「何って、君がエリートなのかな? 僕は謀反者の混血を退治に来たんだよ~。と言う訳で降参するなら今のうちにね!」


「ちっ……」


 対峙しているだけでもビシビシと強い覇気が俺を襲う。さすが魔神界最強の名を持つ魔神。グラッドマンが俺の隣に立つルージュを見て言う。


「あれ? 君の隣にいる女の子って、可愛いけどまさか魔王さん? あー、いいのかな!? それ、規律違反じゃん。もう、極刑は免れないよね、君」


 魔神界には基本、魔神以外の者は入域できない。昔から共存している天使などは別だが、転移石などで魔神が人族や魔族などを勝手に連れてくることは法律で禁止されている。魔王であるルージュもそうだが、当然ココロやサヤカ、追放されたバルクホルムもその対象だ。


「そんなことは分かっている。俺はこの世界を変えに来た」


 他種族の不法入域は確かに良くないことだ。ただ今はそんなことを言っていられない。


「この世界を変えに来た? 君、一体何をする気?」


 首を傾げてそう尋ねるグラッドマン。周囲を取り囲む魔神たちも俺の言葉に注目する。



「そんなことお前には関係ねえ。お前こそここに何しに来た?」


「さっき言ったじゃん。君を退治に来たってね。まあ、もういいか。これ以上の会話は無駄だね~。始めようか」


 グラッドマンの覇気が急激に上昇する。俺が言う。


「いいだろう、受けてやる。サシで勝負だ。逃げずに受けるよな?」


 俺の言葉にイラっと来たのか、グラッドマンがやや強めの口調で答える。


「当然だよ。僕を誰だと思っている? 魔神界最強はどんな相手にも完膚なきまでに勝利する。マジ、降参するなら今のうちだよ?」


「黙れ、バカが。ここは手狭だ。ついて来い」


 俺はルージュを連れ、皆が心配そうに見つめる実家から移動する。


「おい、私は誰と戦えばいいのだ? ちゃんと楽しみを取っておいてくれよ」


 歩きながらルージュが不満そうな顔で言う。


「心配するな。絶対お前が戦う場面は出て来る。心配……」



「死ね!! 混血がっ!!!!」


 移動していた俺とルージュ。その背後から突如、グラッドマンが率いていた魔神の兵士のひとりが剣を振り上げ襲い掛かる。



 ガン!!!!


 俺は振り返り、それを硬化させた腕で受け止める。脂汗を流す兵士。その後方でグラッドマンがにやにや笑っている。俺がグラッドマンを睨みつけながら兵士に言う。


「何のつもりだ? 俺の相手はあいつじゃなかったのか?」


「だ、黙れ!! この裏切り……」



神撃の雷鳴(ゴッドサンダー)


 ドオオオオオン!!!!


「ぎゃあああ!!!!」


 俺が天空より放った神の雷によって、兵士が絶叫と共に黒焦げになり倒れる。グラッドマンに言う。



「俺の相手はお前じゃなかったのか? 約束も守れねえのかよ」


「知らないね~、そいつが勝手にやったんだよ。まあ、弱い奴は早々にリタイアして貰わなきゃならないから良かったけどね」


「クソが……」


 殺してはいない。ただ復帰できるまでには相当の時間はかかる。俺は仲間を治療すらしようとしないグラッドマンらを見て胸くそ悪くなる。



(あいつ、ブッ殺していいんだな?)


 俺の中にいたバルクホルムが興奮気味に尋ねる。


(ああ、構わない)


 辿り着いた草原。俺は振り返り、グラッドマンに言う。



「さあ、始めるぞ」


 魔神界最強。戦ったことはないが、俺がどの程度通じるのかちょっと楽しみになっていた。

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