64.告白
「キャシー、大丈夫だって。絶対みんな無事だよ!」
俺たちはシュガルツ王城襲撃の知らせを受け、すぐに馬車を用意し王都へ向かった。砦の兵士は魔王軍との戦いで皆疲弊しており、一先ず俺たちだけで救援に向かうこととなった。サヤカが言う。
「お城には王国騎士団もいます。きっと大丈夫です。姫様」
「……うん、みんなありがとう」
元気が取り柄のキャロルの顔に笑顔がない。兄のエルムが殺され、その元凶とも言えるルージュが仲間となり今は同じ馬車に乗る。その上、民や家族が住む王都が攻撃されたのだからそれも無理はない話。俺がルージュに尋ねる。
「魔王じゃないよな?」
「それは何度も言ったはずだ。そんな命令は下していない」
最初、魔王軍の仕業かと疑った。だがルージュはそれを頑なに否定。幾ら魔王軍と言えども、一国の王都を真正面から攻めるには相当な準備が必要だとのこと。王城が半壊。野良魔王の気まぐれでできるものではない。
馬車は休むことなく走り続けた。そして数日後、ようやく変わり果てた姿の王城に辿り着いた。
「そんな、酷い……」
その半壊した王城を見て、キャロルが崩れるように顔を押さえる。俺としてはまだ原形を留めていたので安心したが、やはり彼女にしたら相当ショックだったようだ。キャロルが俺たちに言う。
「ごめんね、みんな。私、国王の所に行ってくる!!」
「うん、大丈夫だよ。キャシー!!」
キャロルは護衛の兵士と共に王城広間へと走って行った。
「戦いはもう終わっているようだな。まあ当然か」
王都襲撃の報を受けたのがもう数日前。今頃やって来たところで戦いが続いているはずはない。大規模な軍隊を率いての戦争ならば未だに戦っているだろうが、恐らく今回は少数精鋭による襲撃と考えるべきだろう。サヤカが言う。
「少し聞き込みをしてみましょうか」
「そうだな」
俺たちは王都や王城付近で今回の襲撃について話を聞いた。
夕暮れの王都。俺たちはとある食堂に入って、今日聞いた話をまとめていた。
「……と言うことは、超強い少数の何者かがやって来て王城で暴れたってこと?」
夕暮れ時の食堂。一日の仕事を終えた人たちで賑わっている。アルコールの香り漂う店内。そう話すココロの言葉に頷いてからサヤカが言う。
「そう考えるのが妥当ですね。短期間で、あれだけの破壊を行って一瞬で消える。一体何者なのでしょうか」
サヤカの顔が曇る。誰も言わないがそれはもう人族ではない。魔族か、それ以外の何か。俺が尋ねる。
「なあ、ルージュ。魔王とか魔族に聞けねえのか?」
「ん? まあ、いいが、多分違うぞ」
ルージュはここの食事が気に入ったのか、先ほどからひとりで一心不乱に食べている。
「なぜそう思う?」
俺の問いかけにルージュが顔を上げて答える。
「匂いがしない。魔族が来ると匂うのだ。私には分かる……」
「匂い、か」
それは知らなかった。本当かどうか分からないが、もし魔族の暴走ならば俺との約束をした以上もっと焦ってもいいはず。
(となると、やはり魔神か……)
考えたくない。だがもうそれ以外答えはないだろう。そのカギを握るだろうニッカの姿も消えている。聞き込みでは誰かがその襲撃者と戦ったとのことだが、その誰かは恐らくニッカと言うことになるだろう。
(魔神がここまで戦う相手。評議会の奴か?)
彼女の『護り』の対象であるウィルソンが勇者を発現していれば、今回の襲撃は彼を狙ったものである可能性が高い。それに対抗してニッカが戦ったと考えるのが妥当であろう。王城の被害は皆には知らされていない。ウィルソンが討たれたのか、それともニッカが返り討ちにしたのか。連絡が取りたいが残念ながら手段がない。
「ねえ、エリート。どうしたの? そんなに難しい顔して?」
腕を組み、考え込む俺にココロが言う。
「いや、何でもない」
「またそうやって何か隠す~!! 本当は知ってるんじゃないの??」
時折妙に鋭くなるココロ。そんな彼女にサヤカが言う。
「詮索は不要ですよ。必要な時が来ればちゃんと教えてくれますから」
やはりサヤカは便利だ。痒い所に手が届くと言った感じだ。ルージュが俺に尋ねる。
「それでこれからどうするのだ?」
「そうだな……」
ここで王城襲撃の犯人を探していても仕方がない。それは騎士団がやるべきことだ。俺の目的は大魔王を支配下に置き、そして魔神界を制すること。となれば後は魔神界の攻略。評議会のジジイ共を制圧すればそれも叶う。ココロが言う。
「え? ルージュちゃん仲間にしたからもう終わりじゃないの? これで世界は平和になったじゃん!」
「……」
そうだった。ココロとサヤカには魔神界のことは何も話していない。そもそも俺が魔神だと言うことすらまだ知らないだろう。つまり彼女からすれば大魔王であるルージュを制圧した時点で世界平和は成し遂げたと言うことになる。
「……確かにそうだ」
「そら、やっぱりそうじゃん!」
「い、いや、違う。意味が違う!」
どうする話すべきか。遅かれ早かれ彼女らには俺の正体を含め話さなければならない。魔神界へ乗り込むにはココロが必要。信頼が置ける仲間と言う意味でサヤカももちろん重要だ。
「エリート……」
悩む俺にひとりの女性が近づいて来て声を掛けた。頭をフードで覆った女性。いや、声の感じから少女と言った方がいいかもしれない。
「誰だ?」
振り返ってその人物を見る。俺の名前を知っているのはごくわずか。そしてその声はもちろん聞き覚えがある。少女がフードを少し上げて言う。
「ボクだよ、ニッカだよ」
「え!!」
少し大きな声を出したココロをサヤカが押さえつける。ここは食堂。ざわざわと騒がしいが、ここである意味お尋ね者のニッカが姿を現したらちょっとした騒動になる。
「どこ行ってたんだよ、お前? みんな探してたぞ」
「ごめんごめん。色々あって」
「何があったんだよ?」
「場所変えない? ここじゃ話せないよ」
「そうだな」
俺はすぐにその意図に気付き、会計を済まし外へと出る。
皆で少し歩き、王都の外れにある誰もいない広場へ向かった。赤かった空もすっかり暗くなり星が瞬く。先を歩くニッカの後姿を見て、バルクホルムが騒ぎ出すがいつも通りイシスがそれを一喝する。
「ここでいいいかな」
「で、何があった?」
誰もいない小さな空き地。ニッカが被っていたフードを取り俺に言う。
「評議会の人が来たんだ。ほら、エリートの幼馴染のレザウェルって人」
「……そうか」
案の定、評議会の仕業か。ただ、城での戦闘が皆の記憶にあると言うことは時空時計は使っていない。見られてもいい。奴らの強い覚悟が感じられる。
「で、ウィルソンはどうなったんだ?」
当然奴らの目的は『護り』の対象であり、勇者を発現したであろう騎士団長ウィルソン。ニッカが答える。
「当然ボクが守った。絶対ウィル様には手を出させはしない」
のんびりしているように見えるニッカだが、ウィルソンのことになると別人のような顔つきになる。そして俺に言う。
「今すぐは大丈夫だけど、やっぱりこのままではまたウィル様が狙われる。エリート、魔神界への攻撃はいつにするの?」
「え? 魔神界……??」
ココロ、そしてサヤカが唖然とした顔になる。初めて聞く『魔神界』と言う言葉。ふたりとも視線をニッカから俺に向ける。
(いずれ話すべきこと。まあ、頃合いだな)
「聞いてくれ、ココロにサヤカ」
「うん……」
ふたりの顔が真剣になる。そして俺が言う。
「もう薄々気付いているとは思うが、俺は人族ではない」
無言で俺を見つめるココロとサヤカ。
「魔神。お前らの言葉で言う『神』だ」
突然の告白。二人は瞬きすらせずに俺を見つめた。




