61.魔神 vs 大魔王
「え、魔銃を私に? スリープ弾!?」
ガルディア砦に向かう前、俺はココロに魔銃とスリープ弾を手渡した。青き刀身の勇者の剣を持ち戦うココロ。サヤカが得意とする魔銃を渡されきょとんとしている。
「窮地に陥った時、俺が指示した時、これをココロに撃て」
同じくスリープの入った魔弾を受け取ったサヤカが尋ね返す。
「コ、ココロにもですか!?」
「ああ、そうだ」
意味が分からないココロが俺に言う。
「ちゃんと説明してよ! なんで私が撃たれなきゃならないの?? こんなの撃たれたら眠っちゃうよ!!」
無論それが目的だ。ココロを強制的に眠らせることで、俺の魔神の力を開放する。不満そうな顔をするココロの頭をポンポンと叩き俺が言う。
「細かいことは考えなくていいんだよ」
「考えるよ! ココロだって戦えるし! ねえ、サヤ姉、何とか言ってよ!!」
「いいのよ、ココロ。エリー様にお任せしておけば」
「もお、サヤ姉っていつもそればっかり!!」
魔神の力を操る。これが俺の考えた作戦。強敵が現れた時の最終手段として。
「さあ、躾を始めようか。クソガキ」
大魔王ルージュは一瞬ですべてが変わった黒髪の男を見て鳥肌が立った。明らかに別人。先ほどまでの人物とはすべてが違う。
「お前……、そうか。そういう事か」
どうやらルージュは俺の正体に気付いたらしい。まあ、気付くだろう。これだけ堂々と真正面に立っているのだから。
「さしずめ『護り』ってところか?」
「ご明察。その通りだ。だが今はちょっと事情が変わってな。この地上も、そして……」
俺が指を上空に向けて言う。
「上にいる奴らもすべて俺の支配下に置く」
「……」
ルージュは先ほどから腕組みをしたまま俺の話を聞いている。意味が分からないって顔だ。
「もう一度言うぞ。大魔王ルージュ、俺の支配下に入れ」
「断る。嫌だね」
ルージュは黒のボブカットに手をやり俺に答える。
「私とて魔王軍を仕切る大魔王。先代のパパから受け継いだ名誉ある地位。それを訳の分からぬ理由で簡単に明け渡すことなどできない」
そもそも魔神と大魔王が交戦すること自体、ある意味タブーとされていた。それこそ勇者発現以上の厄災。どんな事象が起こるかだれも想像がつかない事態。だから魔神界は『護り』などと称して勇者発現を極力抑えてきた。俺が言う。
「聞けよ。別にお前ら魔族を根絶やしにしようなんて思っちゃいねえ。偶発的な衝突は別にいい。ただ、魔王が軍を率いて起こす大虐殺は認めねえ。ただそれだけで……」
「おい」
俺の話をつまらなそうに聞いていたルージュが言う。
「そんなことどうでもいい。ただ私は知りたいのだ」
「知りたい?」
俺がそう口にするのと同時に、ルージュの邪気がぐっと上がる。
「そう、お前の強さを。そして欲するのだ……」
彼女の姿が消える。一瞬で俺に肉薄し、こう口にする。
「この退屈な毎日をぶっ壊してくれる奴を!!」
ガン!!!!!
ルージュの右拳が俺に向けて打ち込まれる。俺はそれをすぐに鉄の剣で受け止めた。強い。想像以上の強撃。これが大魔王の本気か。
「ぎゃはははははっ!!!!」
ガン、ガガガガガン!!!!
連撃。ルージュが大声で笑いながら両拳を雨のように打ち込んでくる。
バキン!!!!
「なっ!?」
折れた。イシスの硬化で強化していた鉄の剣が、ルージュの拳によって半分に折られてしまった。俺は後方に跳躍し、綺麗に折られた鉄の剣を見て言う。
「マジかよ。これ、俺が冒険者になった記念で貰ったやつでよ。結構気に入っていたんだぜ……」
(主様、申し訳ございません……、あの攻撃ではさすがに無理でした)
元々ただの中古の鉄の剣。それを無理やりイシスの能力で強化していただけ。それで魔族の王、大魔王と渡り合える方がおかしい。
(気にするな。またどこかで適当に買えばいい)
(ありがとうございます)
俺は折れてしまった鉄の剣をポイと捨て、ルージュに向かって拳を構える。
「殴り合いなら俺も嫌いじゃねえ。さあ、とことんやってやるぜ!」
ルージュの不敵な笑みを浮かべ言う。
「いいな、それ。ワクワクするぞ!」
ドン!!!!
再びぶつかり合う二人。俺の拳がルージュの拳に激しくぶつかる。
ドン、ドン、ドオオオン!!!
「なに!?」
爆音、爆発。俺が殴る度に小規模な爆発が起こる。そう、これは拳に反応する爆発魔法。衝撃と共に爆発し、相手にダメージを与える。ちなみに俺は少しだけイシスに石化させているのでほぼダメージなし。
ドンドドドドオオン!!!!
周りからは何が起きているのか理解できなかった。殴り合いなのか、魔法戦なのか。ただ誰も近付けない。誰も介入できない異次元の戦い。
「くそっ!!」
堪りかねたルージュが後方大きく跳躍。右手を上げ叫ぶ。
「消えろ!!!」
皆の視線が空へと向く。そこにはまるでドーム状に並べられたような無数の魔法陣が出現。そして、そのすべて俺に向けられている。
「深淵の熱線!!」
魔法陣に溜まる魔力。無数の熱線で対象を貫く魔族の上級魔法。俺が瞬時に詠唱する。
「反射」
カン、カカカカカカン!!!!
「うそ!?」
俺はルージュの出した無数の魔法陣のすぐその前に、同じ数だけの魔法陣を発現。そのすべての熱線を反射させた。
「すごいです……」
サヤカが大空で四方に飛び散るルージュの熱線を見てつぶやく。見たことのない戦い。異次元の戦いが目の前で繰り広げられている。
「さあ、じゃあお返しだ」
俺は軽く右手を上げ、魔法を詠唱。
「神の槍戟!!」
今度は俺が大空に数多の魔法陣を召喚。その中央から銀色に光る神の槍が顔を出し、真下にいるルージュを捉える。俺は勢い良く右手を下げ言う。
「貫け」
ド、ドドドドドオオオン!!!!!!
「くっ!!」
まるで雨。大空から降り注ぐ銀色の槍の雨。太陽の光を受けキラキラと輝きながら、そのすべてがルージュへと注ぎ込まれる。
天を仰ぎ高速で神の槍をかわすルージュ。だがその一本が彼女の左腕を貫く。
「ぎゃああ!!」
「ル、ルージュ様!!!」
「大変だぁああ!!!」
大魔王の被弾。それを見た魔族たちが騒ぎ始める。
「騒ぐなっ!!!」
そんな不安をルージュが大声と共に一喝する。
「ぐぐっ……」
ルージュは右手で銀色の槍を掴むと一気に引き抜く。そして何事もなかったかのように俺を見つめる。
「さすがだ、さすがだ。ここまでとはな……」
俺はまだ余裕すら感じさせるルージュの目を見て少しだけ警戒する。まだ何か隠している。まだ何かある。そう俺の本能が告げる。ルージュは左腕を回復魔法で治療しながら言う。
「ここからは本気で行くぞ。あぁ、楽しい。楽しいぞ。はぁあああ……」
ルージュの邪気が一気に極限まで跳ね上がった。地面は轟き、空気は揺れ、重い圧が辺りに放たれる。何が起こるのか。じっと見つめていた俺が思わず声を出す。
「これは、すげえ……」
小さな幼女であるルージュ。だが彼女が放つ覇気はこの世のすべての生き物を超越した凄まじいもの。魔神である俺ですら一瞬後退りするレベル。
「ゆくぞ……」
真っ赤な目をしたルージュが少しだけ屈み、一気に俺に向かって跳躍する。
シュン!!!!
ドオオオオオン!!!!
「ぐっ!!!」
ルージュ全身の勢いを使った右拳。俺はそれを両腕で受け止めるも、勢い良く後ろへと飛ばされる。ルージュが狂ったような顔で叫びながら突撃する。
「楽しめ、この私をもっと楽しませろォオオオオ!!!!!」
戦うことが好きなのか。退屈な毎日がどうだとか言っていた。そうか、そう言うことか。これまで周りにいなかったのだな。
――お前を超える奴が!!
「……はぁあああ」
俺は中腰になり全神経を右拳に集中させる。同時にイシスとバルクホルムに最大限の強化を命令。突撃してくるルージュに向かって全力で拳を振り上げる。
(これで終いだ)
ドオオオオオン!!!!
爆音。皆の耳が痛くなるほどの衝撃波。舞い上がる砂埃。だがすぐに静寂となった。
「痛てぇ……」
俺は自身の右手の骨が折れていることに気付いた。笑えるほどの激痛。それでもまだましだった。原型を留めているから。
「お前、めちゃ強いな……」
風に吹かれ消えていく砂埃。そこに姿を現したのは、右手を粉砕された大魔王ルージュ。俺の拳を受け右腕が跡形もなくなっている。どくどくと流れる血。苦笑いしながらルージュが言う。
「負けだ。降参だ。あはははっ……」
ドン……
そう呟き、笑いながらルージュが後ろに倒れる。大魔王撃破。俺の大きな目標がひとつ達成された。




