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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第四章「ガルディア砦の防衛戦」

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53.時空間の特訓

 眠れなかった。

 昼間の戦闘で疲れて寝てしまったココロやサヤカを横に、キャロルは一向に訪れない睡魔を思いながら夜の闇を見つめていた。


(本当に不甲斐ない……)


 ココロやサヤカ、そしてエリートもきっとこの先の砦で私を助けてくれる。でもそれで本当にいいのか? 今は国難。民を導く王族が指を咥えて見ているだけでいいのか。だから動いた。少しでも強くなろうと立ち上がった。だが結果は散々たるものだった。



(あれ? 何の音?)


 キャロルは外でかすかに聞こえる音に気付き、ふたりを起こさないようそっと馬車を出る。真っ暗な夜空に輝く月。辺りの静寂とは別に、廃村の奥の方で何かの音がする。



「何あれ!?」


 キャロルは驚いた。瓦礫が散乱する廃村の教会広場。その中央で、黒いマントを靡かせながらエリートが何かと戦っている。相手は魔族? 漆黒の翼のがっちりとした体形。動きが速く目で追うのも難しい。

 やがて決着がついたのか、翼の男が倒れ、銀髪の少女が現れたかと思ったらふたりとも消えてしまった。訳が分からない。ただひとつ思いがキャロルを突き動かした。



「私を鍛えて! 強くなりたいの!!」


 もうこの人が誰かなんて関係ない。異次元の強さを持つこの男なら、自分を変えてくれると思えた。




(さて、どうする……?)


 俺は振り返り、思いつめた表情で懇願するキャロルを見て考えた。少し前なら即答で断っていただろう。だが今は状況が異なる。ココロひとりだけを護れば良かった時とは違い、今は全魔王軍、そして魔神どもとも矛を構えている。


「何の為だ?」


 俺は時間稼ぎではないが、あえて分かり切った質問を彼女に投げ掛けた。



「守りたいの。国を、みんなを」


 まあそうだろうな。姫と言う立場ならそう答えるのが当然だ。キャロルが強くなることは決して俺にとって悪いことではない。むしろ戦える仲間が増えることは歓迎すべきことだ。どの程度強くなれるのか? 素材は決して悪くはない。それに姫である彼女を仲間にすることは、今後を考えプラスになるだろう。



「分かった。鍛えてやろう、今から」


 キャロルは嬉しそうに、ある意味意外そうな顔で答える。


「え、本当!? やった、嬉し……、ん? 今から!?」


 キャロルが周りをきょろきょろ見回す。夜も更けた廃墟の村。これからここで何をするのか。俺が答える。


「そうだ。今からだ」


 俺はポケットにあったとある古い懐中時計を取り出す。そう、これは『時空時計』。先のレザウェルとの戦いの際に奴が落としていったものだ。下界において魔神以外の時間を極限に遅くする特殊な時計。神界のエネルギーで動く時計だが、恐らくもう一度ぐらいで動かなくなるだろう。

 そしてこうすれば魔神以外の者でもその恩恵を受けることができる。


「え?」


 俺は月明りの下、キャロルをぎゅっと抱きしめる。


「ちょ、ちょっと!? エリート?? ど、どうしたの、急に……」


「騒ぐな。じっとしてろ」


「は、はい……」


 魔神以外の者でも、こうして魔神と接触していれば時空時計の対象となる。そしてその面積が多ければ多いほど成功率が上がる。

 俺は手にした時空時計のボタンを押す。夜の静寂。それが一切音のない真の静寂と変化する。



「もういいだろう……」


 俺はキャロルから離れ周りを見る。夜なので分かり辛いが時間の流れに変化が起きている。キャロルが顔を真っ赤にして俺に尋ねる。


「そ、それでなんだったの? 今のは……?」


「時間の流れを極限まで遅めた。日が昇るのにも相当な日数を要する。さあ、鍛えてやる。剣を持ってこい」


 きょとんとしていたキャロルだが、すぐに真剣な顔となり馬車へ駆け出し身支度を整える。そして宝刀フレイムソードを手に俺の元へと戻って来た。


「お願いします!!」


「うむ」


 俺も中古の鉄の剣を抜きイシスに硬化を命令。キャロルに言う。



「打って来い」


「はい!」


 キャロルがフレイムソードを振り上げる。真っ暗な夜空に朱色の刀身が美しく輝く。



 ガン、ガガガガガン!!!!


 撃ち込まれるキャロルの剣。俺はそれを受けながら思う。


(やはり筋はいい。女だが力もある。だが……)



 カン!!!


 俺はフレイムソードを弾くとキャロルに言う。



「何を恐れている? その恐れがあるうちは強くなれんぞ!」


「は、はい……」


 そう、彼女の剣にはやはり恐れと言うか迷いなのか、ある種の躊躇いを感じる。フレイムソードは言わば魔剣。使い手の強い気や魔力によってその威力が左右する。

 しかし今の彼女にとってはただの赤い剣。何に怯えているかは知らないが、今のままでは足手まといにしかならない。


「さあ、来い!」


「はい!」


 俺とキャロルとの時空間での特訓が始まった。





「はあ、はあはあ……」


 あれからどのくらい時が過ぎただろうか。時が極限に遅くなったこの状況では昼も夜もない。剣を打ち合う。疲れたら休憩、腹が減れば獣を狩って食べる。そんな極限の状態で俺たちは長い時間を剣を振った。


(強くなった。間違いなく強くなった)


 技術は元々高いレベルにあった。才能もある。力もあったので十分剣士としてやっていける。そしてこの特訓でそれらのすべてがレベルアップした。魔王は無理かもしれないが、魔族程度なら良い戦いをするだろう。

 ただ、やはり変わらないものがある。



「ありがとう、エリート……、はあはあ……」


 きつい特訓のせいで髪は乱れ、衣服や肌も汚れている。彼女はよくやっている。だがやはり何か迷いが吹っ切れていない。


「私、強くなったかな……?」


 肩で息をしながらキャロルが尋ねる。


「知らねえ。その剣に聞いてみろ」


 俺がぶっきらぼうに答える。キャロルがくすっと笑って言う。


「もう、本当に意地悪なだから……、あ!」


 そして長い訓練の時間が終わりを告げた。

 明るくなっていた東の空。その空にずっと停止するように浮いていた小鳥が勢いよく羽ばたいていく。鳥や虫の声。木々のざわめき。時空時計の効果が切れ、周囲が時間を取り戻したようだ。



「これで終わりだ。よくやったな」


「う、うん……、ありがと……」


 キャロルはそう答えると俺の方に歩き出し、突然ぎゅっと抱きしめる。


「え? お、おい!? 何を急に……!?」


 俺を抱きしめたままキャロルが答える。


「えー、だってこれが始まりと終わりの挨拶なんでしょ? 本当にありがとう、エリート……」


「い、いや、その……、それは」


 俺は汗のにおいと甘酸っぱい女の香りに包まれ、しどろもどろに答える。キャロルが俺から離れ手を上げて背を伸ばして言う。



「う~ん、疲れた!! ちょっと馬車に行って寝て来るね!」


「あ、ああ……」


 そう言って駆け出すキャロル。馬車の中からは汗だくに汚れた服、顔つきの変わったキャロルを見て騒ぐ声が聞こえる。



「ふうーっ、腹減ったな」


 俺は明るくなった空を見上げ、久しぶりに焼き菓子が食べたいなとふと思った。

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