表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第四章「ガルディア砦の防衛戦」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/75

52.漆黒の翼を持つ者

「今夜はここで野営ね」


 ガルディア砦に向かう一行。エルム皇太子の敵討ちはできたものの、あれ以来魔族の襲撃が目に見えて多くなった。皆の顔に疲労の色が見える。急ぎたいのはやまやまだが、馬や皆の疲労を考え夜間はきちんと休憩を取らなければならない。


 日が沈み薄暗くなった空。その前に現れたのは、随分前に魔物か何かによって滅ぼされた廃村。まるで何かが出てきそうな不気味な廃墟ではあったが、何もない荒野の真ん中で野営をするよりかはマシだ。

 サヤカがきょろきょろ周りを見ながら言う。



「な、何か、お化けでも出そうな感じがしますけど……」


「大丈夫だよ、サヤ姉! 疲れててすぐ寝ちゃうから!」


 確かに昼間の度重なる戦闘で皆は酷く疲弊している。だがそういう問題じゃないと言う顔でココロを見つめるサヤカに、キャロルが言う。


「うん、休もうか。サヤカも疲れているでしょ?」


「え? あ、はい! お気遣いありがとうございます!」


 辛い出来事の後。元気のない顔だが相手は雲の上のような王族。自然とサヤカの背筋がピンと伸びる。ココロが俺に言う。



「私たちは馬車の中で仮眠をとるけど、エリートも怖かったら一緒に寝てもいいよ」


 その言葉に緊張していたサヤカの表情が緩む。


「うるさい。俺はちょっと用があるから先に寝てろ」


「は~い」


 そう言うと三人は馬車の中へと戻って行く。


 月明りの下、俺は壊れた石塀に登り腰掛ける。昼間の暑さが嘘のように涼しい風が吹き抜ける。静寂。ココロたちはもう寝たのだろう。体の気だるさが徐々に消えていく中、俺はその廃村の中央にある壊れた教会を見つめる。



(……何が居やがる?)


 魔神の力が戻っている俺。その俺の指先が何かの圧によって冷たくなっていく。魔物や魔族ではない。こんな下界に得体の知れない何かがいる。俺は石壁から飛び降りると、ゆっくりと廃村の教会へと歩き出す。


「!!」


 ドオオオン!!!


 教会に向かって歩き出した俺に、突如上空から何かの衝撃弾が放たれた。俺はすぐにそれを腕で弾き、後方へ跳躍して身構える。


「誰だ。出て来い!!」


 強い力。圧。それはまるで俺と同じ魔神に匹敵するほどのオーラ。



「……魔神だったとはな。ふっ、面白い」


 月明りを背に真っ暗なシルエット。俺は壊れた教会の屋根に姿を現したその人型の影を見て驚く。



「天使、……いや、堕天使か?」


 俺の言葉と同時に、その男は背から大きな翼を広げ腕組みして言う。


「そう、俺は天使。いや、元天使か。お前ら魔神にこの下界に落とされた者よ」


「……」


 俺はその堕天使をじっと見つめる。

 天使。それは俺たちが棲む魔神界に生存する言わば使い魔の一種。数こそ少ないが神である俺たちの命を受け忠実に任務を果たす。ただその力は決して侮ることはできず、中には弱い魔神をしのぐ力を持つ者すらいる。


「ここで何をしている?」


 俺はその堕天使から放たれる強力な負のオーラを感じつつ尋ねた。黒く大きな翼をはばたかせ、ゆっくりと地表に降りる堕天使。そこで初めて気付いた。彼の顔に付けられた目隠し。あれは光を奪われた者の証。つまり……



「分かるだろ? 俺はお前ら魔神に復讐すること命をかける者だ」


 そう、彼の目は魔神界において何らかの刑罰によって奪われたことを意味する。そしてここ下界への追放。故に堕天使。光を奪われ闇落ちし、その翼も漆黒に染まっている。俺が尋ねる。


「何をやったんだ? 魔神界で」


 巨躯の堕天使。腕を組み、俺を上から見下ろすように答える。


「俺は強き者のめいしか受けない。だから断ったんだよ、ちょろい魔神の命令など」


 彼がいくら強くても所詮天使。上位種である魔神の命は絶対だ。だから神の怒りに触れ、目を奪われ、この地に落とされたか。なるほど、分かりやすい。俺が言う。



「俺に仕えよ。何ができる?」


 堕天使は腕を組んだまま大声で笑い、そして言う。


「かはははははっ!! お前、話を聞いていたか? 俺は強き者の命しか聞かぬ。それとも何か? お前が俺より強いと言うのか?」


「当然だ。どうやったら俺がお前に負ける? それより能力を教えろ」


「ふっ、くくくっ。まあいい。勘違いした魔神どもを皆殺しにするのが俺の仕事」


「なんだ、お前、魔神が嫌いなのか? 奇遇だな。俺も嫌いだ」


 堕天使が身構え、低く太い声で俺に言う。



「バルクホルムだ。俺の名はバルクホルム。能力は【身体()強化】。行くぞ!!!!」


 バルクホルムの翼が大きく開き、そして次の瞬間俺へと一気に迫る。



 ガン!!!!


 俺は中古の鉄の剣を抜き、バルクホルムの拳を防ぐ。


(イシス、剣を極限まで硬化させろ!!)


(了解です、主様!!)


 魔神の力が解放されている状態ならば、御影石のイシスの能力を十二分に使える。俺は石化によって更に固くなった剣を構えバルクホルムに言う。


「さあ、来いよ。堕天使」


「うおおおおおお!!!」


 俺の挑発に乗ったバルクホルムが全力で殴りにかかる。



 ガンガンガン、ガン、ガガガン!!!!


(これは……)


 想像以上に強い攻撃。魔神の力を開放している俺が力負けしそうだ。なるほど、言うだけのことはある。しょぼい魔神なら勝てない相手だ。



「いいないいな、お前!! 驚いたぞ!!!」


 俺はバルクホルムの攻撃をいなしながら嬉しさを全身で感じる。このような強力な天使が下界に居たとは。


「すべてを砕け、巨岩の砲撃(メテオストライク)!!!」


 俺は躊躇なしにバルクホルムの面前で上位魔法を放つ。瞬時に現れる魔力を帯びた巨岩。それが一気に漆黒の堕天使へと放たれる。


 ドドオオン!!!!


 バルクホルムは黒き翼をまるで身を守るように丸め、巨岩を粉砕する。俺はその光景を見て興奮を隠せなくなった。



「いいぞいいぞ!! わくわくする!!!」


 俺は嬉しさのあまり滅多にやらないような攻撃を繰り出す。



 ガン、ガガガン!!!!


 剣での攻撃。同時にバルクホルムに向け、天より集中攻撃を敢行。相手を気遣う余裕はない。


巨石の閃光(メテオレーザー)


 天に現れた雲。そこからバルクホルムに向けて次々と熱線が落とされる。


 ジュン、ジュンジュン!!!



「ぐっ……」


 黒き翼でそれを防ぐバルクホルム。だが神域の魔法の前に、さすがの屈強の堕天使の翼も次々と穴が空いて行く。



「俺に従え、バルクホルム」



(!!)



 ドオオオオオオオン!!!!


 翼でガードしていたバルクホルム。高速で肉薄した俺の拳を受け、仰向けになって吹き飛んだ。



「ふうーっ」


 想像以上の強敵。この俺を一瞬でも本気にさせた実力は称賛に値する。俺は崩れた教会の横で仰向けに倒れるバルクホルムの元へと歩み寄り、見下ろして言う。



「俺に仕えろ、バルクホルム」



「……ちっ、仕方ねえ」


 差し出した手を握ろうともせず、バルクホルムが立ち上がる。地面に散らばる黒き羽。バルクホルムは体の砂を払うと俺を睨みながら言う。


「俺の負けだ。だから従ってやる。ただ覚えておけ。隙があれば俺はお前を殺す。それでもよければ使い魔にでもなってやろう」


 どこまでも魔神を恨む意思は変わらない。上等だ。それぐらいでなければこれからの戦いには使えない。


「いいだろう。俺も魔神が嫌いでな。これから大魔王と魔神界を制圧する予定だ。力を貸せ、バルクホルム」


「ふっ、あはははっ!! 面白い奴だ。どこまで本気か知らないが、それが本当なら俺に断る理由はない」



「ねえ、あなた。主様に向かってなんて失礼な態度なの?」


(ん?)


 俺はいつの間にか横に現れた銀色の髪に銀色の目、真っ白な肌の御影石の正神イシスの言葉に驚いた。バルクホルムが眉間にしわを寄せて言う。



「何だ、お前は?」


 ガン!!!


「痛っ!!」


 イシスは躊躇なく石化した足でバルクホルムに蹴りを入れる。油断していたバルクホルム。脛を押さえて苦痛の表情を浮かべる。


「私は使い魔の先輩よ。そのような失礼な言葉、許さないから」


「な、何を言っている!? 先輩なんて関係……」


 ガン!!!


「ぎゃっ!!」


 口答えしようとしたバルクホルムを再び蹴り上げるイシス。石のように一切の感情はなし。無表情で言う。



「これからしっかりと私が躾けてあげる。覚悟なさい」


(な、なんだそれ……)


 バルクホルムは不満そうな表情を浮かべながらも、俺の使い魔として認定。二人が姿を消す。





「ふう……」


 俺は普段大人しいイシスの意外な一面を見て少し焦った。魔神でなければ、俺もああやって尻に敷かれていたのかもしれないと思うとゾッとする。



「さて……」


 俺は振り返り、村の瓦礫の後ろに隠れているその女に聞こえるよう大きな声で言った。



「出て来いよ、覗きが趣味か?」



「……ご、ごめんなさい」


 月明りを浴びて現れたのは、ふわっとした紫髪の姫キャロルであった。就寝用なのかいつものポニーテールじゃなく髪は降ろしている。俺が尋ねる。


「何か用か?」


 ある程度の想像がついていた。だからその言葉にもさほど驚くことはなかった。


「エリート……」


 キャロルは一度俯き、そして顔を上げて言う。



「私を鍛えて! 強くなりたいの!!」


 さて、どうしようか。俺は少し考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ