50.訪問者
「うおおおおおお!!!!」
ザンザン!!!
「私も負けられない!! 宝刀フレイムソードっ!!!」
ドン!!!!!
翌日、再びガルディア砦に移動していた俺たちは、数を増やしつつある魔物を討伐しながら先を急いでいた。キャロルの剣に迷いが消えた。そんな感想を持ったのは俺だけじゃなかった。
「エリート様、キャロル姫が見違えた気がします」
「そうだな」
何があったのかは知らないが、ココロと並んで戦うその姿はまるで姉妹。息もぴったりだ。
「魔弾のストックは足りてるか? 今後強い魔族が現れるはずだ」
体感として、ガルディア砦に近付くにつれ敵の強さが上がっている。砦がどうなったのかは知らないが、魔王が攻略を指揮しているのならばやはり急いだほうがいい。
「はい、十分足りています! エリート様のお陰です」
「うむ……」
元気に戦うココロとキャロル。俺の魔法を込めた魔銃を持つサヤカ。今のところ問題はない。ただなぜか俺の心に漠然とした不安は消えなかった。
一方その数日後。『死の砂漠』と『飛竜の谷』を無事に抜け、ミスランド副団長率いるウィルソン救出部隊は無事に王都シュガルツへと帰還した。
「ウィルソン様ーーっ!!」
「おかえりなさい、団長!!!」
王都は沸いた。無敵の英雄である騎士団長の生還。数か月もの間、不安と未来への恐怖に襲われていた王都民はその朗報を聞いて狂喜乱舞した。
だが、現実は甘くはなかった。
「あれ? なんか遠征隊、人数少なくねえか……」
「団長は? ねえ、団長の姿がないんだけど!? どこにいるの??」
出征時にあれだけいた部隊はその数を大幅に減らし、皆、暗い顔をして俯いて歩いている。さらに指揮官であるガンダス大隊長の姿が見えない。唯一の救いは、前を向いてしっかりとした足取りで歩くミスランド副騎士団長ぐらいか。
そしてその数時間後、王都民を絶望に落とす【騎士団長昏睡】が通知された。
「どういう事だ。ニッカ、てめえ!!!」
王立治療院へと運ばれたウィルソン騎士団長。目を覚まさない国の英雄への治療が速やかに開始された。
同時にずっと彼の傍にいた副官ニッカへの詰問が始まる。王城の謁見の間。国王や大臣が並ぶ中、ニッカは下を向き、大声で問い詰めるゴリラの獣人のバルザック副騎士団長の声を黙って聞いた。
「何も覚えてないじゃ、分からねえだろ!! 全部話せ!!!」
項垂れる青髪のツインテール。ただニッカはどれだけ尋ねられようが頑なに記憶がないと答えた。自分が魔神であることは言えない。ウィルソンの『護り』を遂行したいだけ。詰問官が言う。
「バルザック様、もうこれ以上の質問は無意味でしょう」
「クソっ……」
長時間に渡る取り調べ。国王はすでに途中退席。多くの大臣も何も知らないと言うニッカに対して既に興味を失せている。バルサックはドンと床を殴り、ひとりつぶやく。
「俺もガルディア砦に行く。ミスランドめ、姫に護衛もつけずに救援へ向かわせるなど、何を考えている!!」
バルサックは驚いた。急襲を受けたガルディア砦に、あろうことかキャロル姫だけで救援に向かわせたことを。エムル皇太子の悲報は王都に届いている。これでキャロル姫まで失ったらもう国として立ち直れない。大臣が前に出て言う。
「バルザック副騎士団長。あなたには王都守護の命が出ています。救援はミスランド、ラーズリー両副騎士団長にお任せあれ」
ドン!!!
バルサックが再び床を殴り声を荒げて言う。
「ふざけるな! あんな腰抜けどもに砦を、姫を任せられるか!! 俺は行くぞ!!」
「国王の命に背く気か、バルサック!!」
堪りかねた別の大臣が声を上げる。
「皇太子がお亡くなりになり、戻って来た騎士団長まで昏睡状態。ガルディア砦が急襲を受け国は危機的状況。これでこの王都まで落とされたら本当にすべてが終わる! それが分からないのか!!」
「……クソ」
バルサックは獣皮のマントを翻し、不服そうにその場を立ち去る。国の危機に何もできない不甲斐ない。その気持ちは皆理解していた。
「では、これにてニッカ・ラースゴッドの詰問を終わる。解散!!」
結局、騎士団長敗北とその後については、何も情報が得られないまま彼女への取り調べは終わった。氷の魔城。数か月に渡る氷柱での監禁。すべてが明らかにならないままこの件は終わりを迎えた。
(どうしよう……)
ひとり宿舎に向かうニッカ。同じ魔王の被害者とされお咎めなしになったのは良かったのだが、彼女の頭は王都へ帰還中ずっと見つめていたウィルソンのステータスのことで一杯であった。
【ランク:勇者】
そう、騎士団長ウィルソンは『勇者』を発現していた。あの壮絶な戦いの中で得た称号。本来なら称えられるべき栄誉なのだが、ニッカは恐れていた。
(ウィル様に抹殺命令が来たら、ボクは……)
絶対に阻止したかった勇者発現。その為に氷漬けにしたのだが、すでに時遅しであった。
ただ希望もある。ウィルソンは今昏睡状態で、魔王を倒すことなど不可能。これなら見逃されるかも。そんな淡い期待を抱いたニッカの周りに異変が起こる。
「……え?」
王城内を歩いていたニッカは周囲の時間が遅くなっていることに気付いた。
「うそ、やだ……」
そう、それは魔神が持つ『時空時計』の力。時間の進みを極力遅くし、魔神が人族に姿を見られない為の手段。
ドン……
静かに、小さな音を立ててその使者はニッカの前に現れた。面識のない魔神。そして想像通り、彼女の恐れていた事態を迎える。
「ウィルソン・ローズハートに勇者発現を確認。『護り』であるニッカ・ラースゴッドに命じる……」
ニッカは全身の震えが止まらなかった。そしてもっとも聞きたくない言葉が告げられる。
「ウィルソン・ローズハートを抹殺せよ」
止まらない体の震えに加え、涙が溢れ出した。
「もうすぐガルディア砦ね。みんな、頑張ろう!!」
夕刻、その日も俺以外の皆はたくさんの魔物を倒した。確実に砦が近い。時々現れる魔族を見ながら俺もそう思った。ココロが言う。
「キャシー、すごいね! 今日は一体何体倒した?」
あれ以来迷いがなくなったキャロルは、現れる魔物を次々と斬り倒していった。もう安心だ。皆がそう思っていた。
「え~、大したことないよ! ココロやサヤカの方がもっとすごいって!!」
「そ、そんなことございません! 私など……」
「キャシーもすごいって! ねえ、エリート?」
「うん? ああ、まあ……」
ココロの【魔神無効】による気だるさで、ずっとぼうっとしていた俺が適当に答える。
「もう、ちゃんと話聞いててよね!!」
そう怒るココロを見て、『誰のせいだよ』と突っ込みを入れたくなったのだが、急停車した馬車によってその和やかな空気が一変する。
「どうしました!?」
サヤカが御者に尋ねる。御者が震えながらこちらにひとり歩いてくる人物を指さして言う。
「あれは……、あの方は……」
敵襲と思い馬車を素早く出た一行。だが、こちらに向かって歩いてくる人物を見て、サヤカ、そしてキャロルが固まる。
「う、うそ……」
驚くサヤカ。それ以上にキャロルは目に涙を溜めて言う。
「兄様……、エムル兄様、生きていたんですね……」
それはガルディア砦にて戦死したと聞いていたキャロルの兄。シュガルツ王国皇太子エムル・シュガルツの姿であった。




